Last Updated on 2025年11月3日 by 渋田貴正
有料職業紹介事業の許可は、社会保険労務士が専門にする分野ですが、更新時には「決算書」「資産要件」「登記書類」など、税理士や司法書士の専門知識が欠かせません。
この記事では、更新申請のタイミングや決算期とのずれによって生じる注意点を、社労士、税理士、司法書士の3つの資格を持つ筆者が解説します。
有料職業紹介事業の許可期間と更新スケジュール
有料職業紹介事業を行うには、職業安定法に基づく厚生労働大臣(都道府県労働局長)の許可が必要です。
許可の有効期間は次のとおりです。
- 新規許可:3年間
- 更新許可:以後は5年間ごと
この「3年」という期間に注意が必要です。実際の申請は「満了日の3か月前まで」に行う必要があるため、決算書の確定時期次第では、想定と違う事業年度の決算書で対応する必要が出てきます。
都道府県によっては、「4期目に入ってから満了を迎える場合でも、数か月前に更新申請を出さなければならない」と明示しているところもあります。つまり、3年後に申請すればよいという感覚では遅いのです。
許可取得時期と決算期のずれが招く落とし穴
更新時に特に注意したいのが、許可を取得した時期と決算期との兼ね合いです。
以下のようなスケジュールを例に考えてみましょう。
- 有料職業紹介事業の許可取得:令和5年10月1日
- 会社設立日:令和5年7月1日
- 決算期:毎年6月末
この場合、各期の区切りは次のようになります。
| 区分 | 期間 |
| 第1期 | 令和5年7月~令和6年6月 |
| 第2期 | 令和6年7月~令和7年6月 |
| 第3期 | 令和7年7月~令和8年6月 |
有効期間は3年なので、満了日は令和8年9月30日です。
更新申請の提出期限は、都道府県にもよりますが、その4か月前の令和8年6月末となります。
この時点では第3期(令和7年7月~令和8年6月)の決算はまだ終了していません。
そのため、実際には確定済みの第2期決算書を添付して申請することになります。
ここが大きな落とし穴です。
「3年間の有効期間だから、3期目の決算書で更新できるはず」と思いがちですが、更新申請の提出期限が満了の3か月前にあるため、まだ3期目の決算が終わっていないのです。
つまり、許可取得から3年後に満了を迎える場合でも、実際に提出するのは2期目の決算書になります。
創業初期は、2期目までに十分な利益や資産を確保できていないケースも少なくありません。資産要件(1事業所あたり350万円以上)をギリギリで満たさないと更新が難しくなることがあります。
このため、有料職業紹介事業の許可を取得した月によっては許可を取得した直後から、「更新申請は2期目決算書ベースで行う」という前提で経営管理を行うことが非常に重要です。
書類を「数か月前に」準備開始することが重要
資産要件そのものは理解していても、実際には「満了日の数か月前にすべての書類をそろえて更新申請を行う必要がある」という実務的な視点が抜けてしまうことが多いのが現実です。
決算期と申請時期がずれている場合、まだ決算が確定していないために更新手続きが進められないケースがあります。
そのようなときは、
- ぜ決算期を前倒しして確定させる
または - 公認会計士による証明書を提出して財務状況を証明する
といった対応が必要になる場合があります。特に公認会計士による証明書は発行に数十万円かかることもあり、予期せぬ費用にも繋がります。更新の数か月前になって慌てることがないよう、あらかじめスケジュールを確認し、税理士と相談して対応方針を決めておくことが大切です。
有料職業紹介事業の更新では、社会保険労務士が申請手続を行いますが、その際に必要となる決算書や登記書類の整備は、税理士・司法書士の領域です。
更新準備の際に確認すべき主なポイントは以下のとおりです。
- 決算書の確定時期を確認し、更新申請期限(満了3か月前)までに準備できるようスケジュール化する
- 基準資産額(資産-負債)が350万円以上を確保できるよう、2期目決算前に増資や借入整理を検討する
- 代表者・役員・所在地などに変更がある場合は、事前に登記を済ませておく
- 納税証明書、職業紹介責任者の講習修了証など、添付書類を早めに収集する
税理士としては、資産要件を満たすための財務対策(利益繰越や資本強化)、
司法書士としては、登記内容の最新化(役員変更・本店移転等)を同時に行うことが望ましいです。
そのため、更新の準備は少なくとも満了日の6か月前から着手するのが理想です。
社会保険労務士による手続き代行に加え、税理士・司法書士が連携して財務・登記面のチェックを行うことで、スムーズかつ確実な更新が可能になります。
有料職業紹介事業の更新は、単なる書類の更新ではなく、
会社の財務健全性・登記管理・運営体制を総合的に確認する重要な節目です。
特に「3年=3期目」と誤解しないように、早めの準備を心がけましょう。
当事務所では、社会保険労務士と連携し、更新スケジュール管理から決算書の整備、登記の手続きまでワンストップでサポートしています。
「次の更新がいつになるか不安」「決算が間に合うか心配」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。
あなたの事業を、安心して継続できるよう全力でサポートいたします。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
