Last Updated on 2025年11月13日 by 渋田貴正
一般社団法人のご相談で特に多いのが、「理事が辞任して2名になったが、このまま退任登記だけ出して良いのか」という問題です。
結論から言うと、
理事会設置法人である限り、理事が3名未満となる退任登記だけを単独で申請することはできません。必ず“補充”または“理事会廃止(定款変更)”を同時に整える必要があります。
内部で一時的に理事が減少すること自体は通常起こり得ますが、登記簿に反映する段階では外部公示の整合性が厳格に要求されるため、3名未満の理事会設置法人という状態を登記することは許されないというのが法務局の一貫した運用です。
以下では、法律の根拠と登記実務の正しい対応をわかりやすく解説します。
理事会には3名以上の理事が必須(一般法人法90条2項)
一般法人法90条2項は次のように定めています。
理事会設置法人は、3人以上の理事を置かなければならない。
したがって、理事会を設置している一般社団法人は、
3名以上の理事がそろっていることが存立要件です。
理事が1名辞任して2名になれば、法人は要件を欠く状態になります。
内部の実態としては「一時的に2名」はあり得る
一般法人法には、
「理事が辞任したら〇日以内に補充しなければならない」
という明確な期限はありません。
そのため内部実務としては、
- 理事が辞任した
- 後任理事を探している
- 社員総会の日程調整に時間がかかる
といった事情で一時的に理事が2名になること自体は違法ではありません。
ここまでが、一般論としての“内部実務”の扱いです。
しかし登記の世界では「退任だけ先に申請」は不可
ここが最も重要なポイントです。
登記簿は外部に対する公示制度であるため、
「理事会設置法人のまま理事が3名未満」という状態を登記簿に記載して公示することは許されません。
そのため法務局は次のように判断します:
✔ 退任登記だけを申請
→ 登記簿が「理事会設置法人・理事2名」という虚偽状態になるため 補正
✔ 補充理事の就任登記と同時申請
→ 3名に戻るため 適法
✔ 定款変更して理事会廃止+廃止登記を同時申請
→ 非設置法人に移行するため 適法
したがって、
退任登記単独=登記簿の整合性を欠くため却下・補正
退任+補充登記/退任+理事会廃止登記=受理可能
というのが法務局の正式運用です。
権利義務理事は人数に含まれる(一般法人法66条2項)
一般法人法66条2項は、株式会社の権利義務取締役と同様の規定を置いています。
理事は、その任期の満了又は辞任によって退任した場合において、後任の理事が就任するまで、なお理事としての権利義務を有する。
つまり、
- 任期満了で退任した理事
- 後任がまだ選任されていない
場合は、権利義務理事として人数にカウントされます。
しかし、
- 即時辞任
- 死亡
- 欠格事由発生
の場合は権利義務理事にならず、人数は即座に減少します。
法務局はなぜここまで厳格なのか(理由)
理由はシンプルで、
登記簿は外部に対して法人の機関構成を保証する制度だからです。
一般社団法人の取引先・助成金窓口・監督官庁などは、
登記簿に記載された理事会の情報を信用して取引判断を行います。
したがって、
- 定款上は理事会あり
- でも登記簿は理事2名
という状態は公示制度として矛盾しており、法務局として許容できません。
実務上の対応まとめ
| 状況 | 登記の可否 | 必要な対応 |
| 理事1名辞任 → 2名のまま退任登記のみ提出 | ✕ 補正 | 補充理事選任 or 理事会廃止 |
| 辞任 + 補充理事選任を同時申請 | ○ | 理事3名体制維持 |
| 辞任 + 理事会廃止(定款変更)を同時申請 | ○ | 理事会非設置法人へ移行 |
| 権利義務理事が残って3名扱い | ○ | 早めに再任 or 後任選任 |
司法書士に相談する重要性
一般社団法人の登記は、株式会社よりも「定款の読み込み」と「機関設計の理解」が必要で、
退任・補充・理事会廃止のどれを選ぶかによって必要書類も大きく変わります。
当事務所では、理事の辞任・補充・理事会廃止登記、定款変更など、
一般社団法人の登記に精通した司法書士が、最適な方法をご提案しながらスムーズに手続を進めます。
法人運営に支障が出る前に、ぜひ一度ご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
