Last Updated on 2025年10月8日 by 渋田貴正
株式会社では、取締役会設置会社とそうでない会社で登記手続きや機関運営が大きく異なります。特に、取締役会設置会社では「取締役が3名以上」であることが法的な要件とされています。
(取締役の資格等)
(中略) 5.取締役会設置会社においては、取締役は、3人以上でなければならない。 |
そのため、例えば3名の取締役で運営している会社で1名が辞任した場合、取締役が2名になり、取締役会の要件を満たさなくなります。このとき、会社はどのような登記手続きを行う必要があるのでしょうか。
「取締役会が実質的に機能しなくなった=取締役会廃止の登記がすぐ必要」というイメージを持たれる方も多いですが、実は登記実務ではもう少し柔軟な扱いがされています。
取締役が辞任して3名未満になる場合でも退任登記は申請可能
まず前提として、取締役が死亡や辞任によって退任した場合、その退任登記は単独、つまり取締役会の廃止をせずにそれだけ登記で申請が可能です。
つまり、「取締役が減ったから取締役会廃止登記と同時に出さなければいけない」というルールは存在しません。まずは辞任した取締役の退任登記を先に申請し、その後の対応を別途行うことができます。
ただし、そのまま放置することはできません。
取締役が2名になったまま補充が行われず、定款にも「取締役会を置く」旨が残っている状態は、法令上の要件を満たしていない状態になります。
この場合は、株主総会を開催し、定款から「取締役会を置く」という条項を削除する定款変更決議を行ったうえで、「取締役会設置会社廃止」の登記申請が必要です。
以下の表で、ケースごとの対応を整理します。
状況 | 取締役数 | 対応方針 | 登記の要否 |
辞任後すぐに補充予定あり | 2名(短期間) | 取締役選任で3名体制に戻す | 廃止登記は不要 |
辞任後補充予定なし | 2名 | 定款変更で取締役会廃止 | 廃止登記が必要 |
辞任と同時に補充 | 3名維持 | 取締役選任登記のみ | 廃止登記不要 |
この3名を下回る状況がどのくらいであれば許容されるのかについて、会社法上、「補充を○日以内にしなければならない」といった明確な期限は定められていません。
しかし実務では、おおむね1〜2か月以内に補充または廃止登記を行うことが望ましいとされています。
短期間で補充予定がある場合は、まず退任登記だけを申請し、後日補充登記を行う対応も認められています。ただし、半年以上放置すると、登記懈怠として過料の対象になる可能性もあります。
権利義務取締役がいる場合の注意点
会社法346条2項では、任期満了や辞任後も新任者が就任するまで一定の権限を持ち続ける「権利義務取締役」という制度が定められています。
(役員等に欠員を生じた場合の措置)
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この制度により、任期満了で退任した取締役が後任未定のまま残る場合、形式上は3名体制が維持されるケースもあります。任期満了や辞任で退任した取締役は、後任が選任されるまで会社に対して「権利義務取締役」としての地位を持ちます。この権利義務取締役は、取締役会設置会社の「3名以上」の人数カウントにも含まれます。
しかし、死亡や即時辞任の場合にはこの権利義務取締役制度は適用されないため、取締役が2名に減少した時点で要件を欠くことになります。この点も見落としがちなポイントです。
状況 | 形式上の人数 | 要件充足 | 補足 |
---|---|---|---|
任期満了 → 後任未選任 | 2名+権利義務1名 | ○ | 形式的に取締役会は維持 |
辞任(即日) | 2名 | × | 権利義務取締役にはならない |
死亡 | 2名 | × | 同上 |
登記申請の流れ
実際の登記手続きの流れは以下のようになります。
- 取締役の辞任
- 退任登記の申請(単独で可能)
- 補充する場合
→ 取締役選任決議 → 就任承諾 → 選任登記 - 補充しない場合
→ 株主総会で定款変更決議 → 取締役会廃止登記申請
このように、辞任と廃止登記は必ずしも同時でなくても構いませんが、いずれかの方向に早めに対応することが求められます。
司法書士への依頼で手続をスムーズに
取締役会の要件や登記は、会社の機関設計に直結する重要な問題です。実際には、補充と廃止のどちらが適切かは会社の今後の経営方針や取締役構成によって判断が分かれることもあります。
また、定款変更決議や登記申請には法定の期限や決まった書類があり、自己判断で進めると法務局から補正や却下を受けるリスクもあります。
当事務所では、取締役の辞任登記、取締役会廃止登記、定款変更手続きなど、登記実務に精通した司法書士が迅速に対応します。会社の状況に応じて最適な方法をご提案できますので、まずはお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。