Last Updated on 2025年10月6日 by 渋田貴正
会社を設立したあと、営業活動や業務の移動手段として社用車を導入するケースは多くあります。特に創業期は、事業に必要なものを一気に揃える時期でもあるため、車両の導入方法は経営の初期判断として非常に重要です。
「購入」と「リース」はどちらも一般的な選択肢ですが、それぞれ税務・登記・資金繰り・経理処理の面で大きな違いがあります。ここでは、両者のメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。
社用車を購入する場合のメリット・デメリット
会社が車を購入する場合、その車は会社の「固定資産」となります。例えば、500万円の車を購入した場合は、普通乗用車の耐用年数である6年に従い、毎年減価償却によって費用化していきます。こうした社用車の購入についてのメリット、デメリットは以下の通りです。
社用車購入のメリット
- 資産として残る
車両は会社の所有物となるため、耐用年数を超えて長期間使い続けることができます。将来的に買い替えや売却を行えば、売却益が会社の収入となる可能性もあります。 - 自由度が高い
所有物なので、会社の判断で自由に塗装・改造・売却・譲渡などができます。営業車として社名を入れる、車内を業務仕様に改造するなど、柔軟な活用が可能です。 - 節税効果を計画的に活用できる
減価償却によって複数年にわたって経費化できるため、利益とのバランスを考えた節税計画が立てられます。たとえば、利益が多く出そうな事業年度に早めに購入することで、購入年度に多くの減価償却費を計上することが可能です。(定率法の場合) - 登記・登録面で明確な所有関係
車両が法人名義になるため、税務申告や、契約関係においても「会社所有」であることを明確にできます。役員個人との区分がつきやすく、経理・法務上の整理がしやすい点もメリットです。
社用車購入のデメリット
- 初期費用が大きい
購入時に車両代全額、あるいは相当額を一括またはローンで支払う必要があります。設立直後で資本金や運転資金に限りがある企業では、車両購入によって事業資金が圧迫され、他の投資や運転費用に回せなくなることがあります。 - 減価償却の管理が必要
会計処理として減価償却の計算や固定資産台帳の整備が必要になります。経理体制が整っていない小規模企業では、この管理が煩雑になることもあります。また、社用車を購入したときの仕訳も複雑です。 - 売却・廃車時の税務処理が複雑
売却時に譲渡益が出れば課税対象となりますし、廃車の際も帳簿価額と実際の廃車価額との調整が必要です。処分のたびに税務・会計処理が発生するため、手間やコストがかかる点には注意が必要です。 - 維持管理費が全て会社負担
自動車税、車検費用、保険料、メンテナンス費など、維持に関する全ての費用を会社が負担することになります。これらは長期的には大きなコストとなるため、設立間もない企業では資金繰り上の慎重な検討が必要です。
社用車をリースする場合のメリット・デメリット
リースは、リース会社が所有する車を契約に基づいて借り、毎月一定のリース料を支払う方式です。契約期間終了後は返却が基本ですが、買取オプションがある契約もあります。所有権はリース会社にあるため、法人は使用権を持つに過ぎませんが、経理処理や資金繰りの面で大きな利点があります。
社用車リースのメリット
- 初期費用を大幅に抑えられる
購入時のように多額の資金を一度に用意する必要がなく、頭金ゼロまたは少額で導入可能です。創業期や資金繰りが不安定な時期でも、事業に必要な車をすぐに導入できます。 - 経費処理がシンプル
リース料は支払時に全額を損金として計上できるため、減価償却の計算が不要です。経理担当者がいない小規模法人や一人会社でも処理が容易で、経理体制を簡素化できます。 - 資金繰りの見通しが立てやすい
リース料は毎月一定額で、契約期間中に大きな変動がありません。車検費用や税金、保険料が込みの契約であれば突発的な出費も抑えられ、資金計画を安定させやすいのが大きな利点です。 - 登記や登録の手間が不要
車両の名義はリース会社のままなので、登録手続きは原則として不要です。設立直後で事務手続きに慣れていない会社でもスムーズに導入できます。
社用車リースのデメリット
- 所有権がないため自由度が低い
リース車両はリース会社の所有物なので、自由な改造・塗装・売却はできません。特に営業用車両として目立つ仕様にしたい場合や、業務に合わせた大幅な改造を行いたい場合には制約が生じます。 - 長期的には割高になる場合がある
月額リース料には金利や手数料が含まれているため、トータルで支払う金額は購入よりも高くなるケースがあります。長期間使い続ける予定であれば、購入の方が経済的になる可能性もあります。 - 途中解約が難しい
契約期間中に事業内容が変わったり、資金繰りの都合でリースを解約したくなっても、途中解約には違約金が発生する場合がほとんどです。事業計画の柔軟性を重視する場合は注意が必要です。 - 契約内容によって税務上の扱いに注意が必要
残価設定があるリースで、契約終了時に残価を大幅に下回る価格で買い取ると、受贈益として課税されることもあります。契約前に税務上の取扱いを確認しておくことが大切です。
購入とリースの比較表
項目 | 購入 | リース |
所有権 | 会社 | リース会社 |
会計処理 | 減価償却で費用化 | リース料を経費処理 |
初期費用 | 大きい | 少ない |
登記・登録 | 会社名義で登録が必要 | リース会社名義で登記不要 |
資金繰り | 一時的負担大 | 月額均等で安定 |
節税効果 | 計画的な節税が可能 | 即時に損金算入できる |
自由度 | 自由に改造・売却・処分が可能 | 改造・売却は不可 |
結局、どんな会社が購入・リースに向いているか
購入とリースは、それぞれに向いている会社のタイプがあります。単に「資金があるかないか」だけでなく、事業の見通し・経理体制・登記の重視度・柔軟性の必要性といった観点で考えることが大切です。
会社の特徴・状況 | 購入が向いている会社 | リースが向いている会社 |
---|---|---|
資金状況 | 初期投資に余裕があり、資本金や内部留保が潤沢な会社 | 創業期や資金繰りに余裕がなく、現金を残したい会社 |
使用予定 | 長期的に1台を使い続ける予定がある会社 | 契約期間や使用状況を柔軟に変えたい会社 |
会計・経理体制 | 経理担当者や税理士と連携して減価償却を管理できる会社 | 経理人員が少なく、処理を簡単に済ませたい会社 |
税務戦略 | 利益計画を立て、減価償却を節税に活用したい会社 | 毎月の費用を一定にして損金を平準化し、資金繰りを安定させたい会社 |
このように、購入とリースにはそれぞれはっきりとした特徴があります。設立直後の企業では、資金繰りや経理体制のシンプルさからリースを選ぶケースが多い一方、資金に余裕があり長期的に使用する予定の車であれば、購入の方が有利になることもあります。
税務上の扱いや契約内容の確認、将来的な資金計画を踏まえた判断が重要です。当事務所では、税理士と司法書士が連携し、税務・会計・登記の観点から最適な車両導入方法をご提案しています。社用車の導入を検討している方は、ぜひお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。