Last Updated on 2025年8月6日 by 渋田貴正

会社の役員の中には、「部長」や「課長」などの肩書きを持ちながら、日常業務では社員と同様に働く人がいます。これが使用人兼務役員です。
使用人兼務役員は、会社との間で「役員としての委任契約」と「使用人としての雇用契約」の両方を結んでいる立場になります。

役員報酬だけでなく、使用人としての職務に応じた給与(従業員給与)を受け取ることができます。役員報酬は定期同額給与など税務上の制約を受けたり、株主総会で金額を決定したりと制約が厳しい一方、従業員給与については柔軟に決めることができます。

ただし、役員の報酬は会社法上、株主総会で決定する必要がある(会社法361条)ため、もし「役員報酬の一部を使用人給与に見せかけて支給」してしまうと、法律を回避する行為と見なされるおそれがあります。

そのため、使用人兼務役員として給与を受け取るためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 使用人としての職務内容や給与体系が明確に定められている
  • 実際にその職務に従事している
  • 給与額が他の使用人と同等の基準に基づいて決まっている

これらが整っていれば、使用人としての給与は役員報酬の枠から除外され、法人税法上も損金算入(経費計上)が可能になります。

会社設立直後でも使用人兼務役員はあり得る

「使用人兼務役員」というと、大企業で役員が事業部長などを兼任するケースを想像しがちですが、実は設立したばかりの小規模会社でも該当する可能性があります。
たとえば、共同創業者の一人が取締役に就任しつつ、営業や技術開発などの実務も行っている場合です。この場合、法人税法上の要件を満たせば、設立間もない会社でも使用人給与を経費計上できることがあります。

ただし、設立直後は組織体制や職務分掌がまだ固まっていないため、「実態としての兼務」が曖昧になりやすく、税務上のリスクや将来的な経営判断への影響も大きくなります。

法人税法上の使用人兼務役員の定義と要件

使用人兼務役員になれる人

法人税法では、使用人兼務役員とは次の条件を満たす役員と定義しています。

条件 内容
① 役員であること 取締役、執行役、監査役などの役職に就いている
② 社長や理事長等でないこと 代表権を持つトップは対象外
③ 部長・課長などの職制上の地位があること 組織上、明確に使用人ポジションがある
④ 常時使用人としての職務に従事していること 実務を行っている必要がある

この要件を満たすことで、使用人としての給与や賞与が経費として認められます。

使用人兼務役員になれない人

法人税法と会社法では、次のような役員は使用人兼務役員になれないと規定しています。

区分 具体例
社長・理事長等 会社の代表権を持つトップ
代表取締役・代表執行役・代表理事・清算人 会社を代表する立場
副社長・専務・常務など上級役員 代表権がなくてもトップに準ずる地位
合名会社・合資会社・合同会社の業務執行社員 持分会社の代表者的立場
監査役・会計参与・監事 使用人兼務を禁止する規定がある
株式保有割合が一定以上の同族会社の役員 会社支配力が強く、使用人と両立しない

特に注意が必要なのは同族会社の場合です。
株主グループの持株割合や議決権割合が一定以上だと、形式的に部長や課長の肩書きがあっても使用人兼務役員とは認められません。

また、合同会社の業務執行社員は使用人兼務役員になり得ませんので、使用人兼務役員の概念が出てくるのは株式会社だけと思っておいてよいでしょう。

雇用保険加入と税務上の使用人兼務役員の判断は別物

「雇用保険に加入できているから税務上も従業員として扱えるはず」と誤解されることがありますが、これは正しくありません。
社会保険や雇用保険の加入資格は労働法令に基づくもので、税務上の使用人兼務役員の判定は法人税法の基準で行われます。
そのため、ハローワークの判断で結果的に雇用保険に加入できたとしても、法人税法上の要件を満たさなければ使用人給与として損金算入はできません。
この点を混同すると、税務処理や保険手続きで思わぬ齟齬が生じるため、事前の確認が必要です。

代表者から見た共同創業者を使用人兼務役員にするメリット・デメリット

株式会社を設立して代表取締役になった人にとって、共同創業者その他の役員が使用人兼務役員のポジションを求めてきた場合のメリットデメリットをまとめました。

観点 会社にとって使用人兼務役員にするメリット 会社にとって使用人兼務役員にするデメリット
税務面 使用人給与として賞与の損金算入が可能になる場合がある 要件を満たさないと否認され、全額が役員報酬扱いになる
モチベーション 給与体系が明確になり、業績連動のインセンティブを設けやすい 他の役員や社員との給与バランスに不満が出る可能性
役割分担 現場業務と経営の両面を担う役割が明確化 実務に時間を取られ経営判断がおろそかになるおそれ
将来の組織運営 成長後も実務経験のある役員が残る 会社規模が拡大すると役割変更や給与体系見直しが必要

使用人兼務役員の判断のポイント

  • 設立直後は人員が限られるため、自然に役員が現場業務も担う体制になりやすい
  • 役員報酬と使用人給与を明確に分けないと、税務調査で指摘される可能性が高い
  • 将来的な組織成長を見据えて、初期段階で給与体系や役割分担を整理しておくべき

使用人兼務役員制度は、適切に運用すれば税務上のメリットがありますが、要件を満たさずに形だけ兼務させると後から否認されるリスクがあります。
会社設立時や役員人事を決める段階で、税務と会社法の両面から確認することが大切です。

当事務所では、会社設立の際の役員区分の設定や使用人兼務役員の可否判断、税務上の取扱いまで一括でサポートいたします。共同創業や役員人事でお悩みの際は、ぜひご相談ください。