Last Updated on 2025年7月22日 by 渋田貴正
海外在住者が日本で法人を設立する機会が増えています。不動産投資、越境ビジネス、帰国準備など、目的はさまざまですが、共通してよく質問されるのが海外在住の代表者が日本で法人を設立した場合「納税管理人は必要なのか?」という点です。
納税管理人とは?その法的根拠と役割
納税管理人とは、納税者本人に代わって、日本国内で申告・納税や税務署からの書類の受領などを代行する人です。根拠は国税通則法にあり、次のように定められています。
(納税管理人) 国税通則法 第117条 個人である納税者がこの法律の施行地に住所及び居所(事務所及び事業所を除く。)を有せず、若しくは有しないこととなる場合又はこの法律の施行地に本店若しくは主たる事務所を有しない法人である納税者がこの法律の施行地にその事務所及び事業所を有せず、若しくは有しないこととなる場合において、納税申告書の提出その他国税に関する事項を処理する必要があるときは、その者は、当該事項を処理させるため、この法律の施行地に住所又は居所を有する者で当該事項の処理につき便宜を有するもののうちから納税管理人を定めなければならない。 |
法人としては原則、納税管理人の選任は不要
日本国内で設立された法人は、登記上の本店所在地を有しており、たとえ代表者が海外居住者であっても、法人として日本に「事務所」や「事業所」を有する限りは、国税通則法117条に基づく納税管理人の届出義務は発生しません。
法人の状況 | 納税管理人の必要性 |
本店所在地が日本国内 | 不要(通則法第117条の対象外) |
本店所在地が海外(外国法人)で、日本に支店等もない | 必要 |
代表者個人には納税管理人が必要となる場合がある
代表者が海外在住で、個人として日本に所得がある場合には、納税管理人の届出が必要となることがあります。
以下のようなケースでは、個人の納税義務が発生し、国税通則法117条の適用対象になります。
個人としての状況 | 納税管理人の必要性 | 備考 |
日本に不動産を所有し賃貸収入がある | 必要 | 不動産所得が生じるため |
株式や不動産を譲渡して日本に所得がある | 必要 | 譲渡所得が対象 |
日本法人から役員報酬を受け取るが、年末調整が行われる場合 | 不要 | 所得税が源泉徴収・精算されているため |
日本法人から役員報酬を受け取るが、国外源泉所得に該当して日本での確定申告が不要な場合 | 不要 | 税務署に申告が不要なため |
日本で個人事業を営む予定 | 必要 | 確定申告が必要なため |
特に、「役員報酬を受け取る=納税管理人が必要」と思われがちですが、実際には報酬が源泉徴収され、年末調整で精算される限り、「処理すべき国税に関する事項が存在しない場合」に該当するので納税管理人は不要とされます。
「実務上、税務署に届出を求められる」は正しいか?
一部のWebサイトなどでは、「代表者が非居住者の場合、実務上税務署から納税管理人の届出を求められる」といった案内を見かけます。しかし、これには注意が必要です。
まず、法的には、法人として日本に事務所が存在すれば117条の要件を満たさず、納税管理人の届出義務はないため、法律に書いてない以上、税務署が一律に強制する根拠はありません。
したがって、「実務上届出が必要」という表現は誤解を招きやすく、実際には税務署も慎重に運用しているのが実情です。誤った情報に惑わされず、個別事例に応じた判断が求められます。
地方税での取り扱いにも注意が必要
地方税(法人住民税・事業税など)の観点でも、原則として本店所在地が日本国内にあれば、納税管理人の届出は不要です。ただし、バーチャルオフィスや郵便物が届かない住所で法人を設立した場合には、実務的に提出を求められることもあります。
この場合は法的義務というよりは、通知の不達リスクを回避するための便宜的措置とされることが多いため、都度、自治体に確認しましょう。
納税管理人の設置は、義務がない場合でも次のようなメリットがあります。
- 税務署や市区町村とのやりとりがスムーズ
- 通知の不達や申告漏れリスクの回避
- 海外との時差・言語の壁をカバーできる
ただし、納税管理人は税法上の一定の責任を負う立場ですので、確定申告の手続きの依頼を予定する税理士に依頼することが望ましいでしょう。
当事務所では、会社設立・税務手続き・納税管理人制度の活用など、海外在住の経営者を全面サポートしております。正確な法令理解と安心の実務対応で、スムーズな事業開始を支援いたします。まずはお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。