Last Updated on 2025年7月21日 by 渋田貴正
日本で法人を設立したあとに必要となる「法人口座」の開設ですが、海外在住の方や外国法人が日本に進出する際など、物理的に日本にいない状況でオンライン申請を行うケースも増えています。
こうしたとき、「申請時にアクセス元が海外であることが銀行側に分かるのか?」「それが審査に影響するのか?」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
今回は、技術的な観点と金融実務の視点から、海外からの口座申請におけるポイントと注意点をわかりやすく解説します。
IPアドレスで海外アクセスは判別される
まず結論からお伝えすると、日本の銀行のオンライン申請ページに海外からアクセスした場合、その情報は銀行側に把握される可能性が高いです。
これは、申請者がインターネットを通じてアクセスする際に自動的に付与される「IPアドレス」によって接続元の国・地域が識別できるためです。IPアドレスは、申請画面に限らず、インターネットのあらゆるやり取りで送受信される基本情報であり、金融機関のセキュリティシステムではこの情報をログとして記録・分析することが一般的です。
そのため、申請者が海外から接続していること自体は、金融機関側にとって不自然な行動とは言えませんが、審査において一定の注視対象になる可能性があります。
海外からの申請は原則違法ではないが口座開設審査に影響が出ることも
そもそも、海外から日本の法人口座を申し込むこと自体に違法性はありません。
たとえば、海外在住の日本人が帰国予定の事業に向けて法人を設立するケースや、外国法人が日本支店を登記するようなケースでは、物理的に日本国内にいないままオンラインで各種手続を行うのは自然な流れです。
しかし、銀行側にとっては「どのような目的で、どのような事業を行おうとしているか」「反社会的勢力やマネーロンダリングの関与はないか」といった観点で、申請の背景を確認する必要があります。
これは、犯罪収益移転防止法などに基づき、銀行が本人確認および実質的支配者の確認義務を負っているためです。
審査が厳しくなる可能性のあるケース
実際には、以下のような事情があると、銀行審査がより慎重になる傾向があります。
状況 | 銀行側の主な懸念点 |
代表者が海外在住 | 日本での事業実態が把握できない可能性 |
外国で設立された法人(外国会社など)で日本国内に事務所や拠点がない | 居所不明、反社リスクの疑念 |
取引先や活動予定が不明確 | 架空会社、資金洗浄の疑い |
これらは一概に拒否される理由ではありませんが、銀行側に対して事業の信頼性や透明性をどれだけ説明できるかが重要になります。
VPNを使えば「海外アクセス」を隠せるのか?
一部の方は、VPN(仮想プライベートネットワーク)を使って接続元のIPアドレスを日本国内のものに変えることを考えるかもしれません。たしかにVPNを利用することで、見かけ上の接続元を日本国内に見せることは技術的に可能です。
しかしながら、VPNの利用そのものは、セキュリティ対策の一環として銀行のシステムに検知される場合があります。
とくに、匿名性の高いVPNや不特定多数が利用する無料VPNなどは、かえって疑念を招くリスクが高くなります。
そのため、正当な目的での申請であるにもかかわらず、意図的に接続元を偽装することで「なぜそこまでして日本から申請しているように見せたいのか?」という不信感を与えるおそれがあります。
海外から法人口座開設の申請する場合に取るべき対応
海外から法人口座を申し込む場合は、銀行側にとって安心材料となる情報をあらかじめ整えて提出することが審査通過のカギとなります。例えば以下のようなポイントがあります。
- 会社の事業目的や今後の活動計画を詳細に示した事業計画書
- 日本国内の事業拠点(事務所、レンタルオフィス等)の契約書写し
- 日本在住の連絡担当者または任意代理人の設置
- 既存の契約書や業務提携書など、事業の実態を示す書類
- 納税管理人の届出書(非居住者が代表者の場合)
これらを事前に準備しておくことで、「海外からのアクセス」という一点に過剰に注目されることを避け、内容重視の審査へと進めることが可能になります。
税務・登記との関連性にも注意を
会社設立や口座開設は、税務や登記の各手続きとも密接に関係しています。たとえば、代表者が海外に居住している場合は、納税管理人の届出が必要となる場合がありますし、外国会社が日本支店を設立する場合も、登記申請書類に添付すべき情報が多岐にわたるため、専門家による対応が望ましい場面もあります。
当事務所では、海外から日本法人を設立する方、外国法人の日本支店を設立される方に向けて、登記から口座開設、税務届出までワンストップでサポートいたします。海外からでもスムーズに日本でのビジネスを開始したい方は、ぜひご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。