Last Updated on 2025年7月14日 by 渋田貴正

海外サービスでも消費税?「リバースチャージ」とは

会社を設立すると、会計ソフトやクラウドサービス、外国人講師との契約など、海外からの役務提供を利用する機会がすぐに訪れます。とくに最近では、国内よりも海外のサービスの方が安価で高機能なものも多く、創業期の企業にとって非常にありがたい存在です。

ただし、ここで気を付けたいのが「消費税のリバースチャージ(逆課税)」という制度です。

通常は、商品やサービスを提供する側が消費税を納めますが、この「リバースチャージ制度」では、サービスを「受ける側」であるあなたの会社が、代わりに消費税を納めることになるのです。

リバースチャージは「支払う側(=受け手)」の義務

通常、消費税はサービスや商品を提供する側が、消費者から預かった税金をまとめて税務署に納める仕組みになっています。これは、国内の売買であれば提供者(売り手)が日本にいるため、税務署が課税・徴収しやすいからです。

ところが、海外の事業者が日本の会社に対してサービスを提供する場合、課税する相手(=海外の売り手)が日本にいないため、税務署がその相手から直接消費税を取ることが非常に難しいのです。請求書に消費税を記載する義務もなく、納税義務を履行してもらえる保証もありません。

その結果、同じ内容のサービスでも、国内の事業者が提供すれば消費税がかかるのに、海外の事業者が提供すれば消費税がかからないという不公平な状況が生じてしまいます。

たとえば以下のようなケースが想定されます。

サービスの提供者 サービス内容 支払金額 消費税 実質コスト
国内のIT企業に発注 クラウドサービス 100,000円 +10,000円 110,000円
海外のIT企業に発注 同様のサービス 100,000円 なし 100,000円

このように、消費税がかからない海外サービスの方が安く見えるため、国内事業者が不利になってしまいます。最終的には消費税の納税額の計算時に消費税は控除できるので変わらないケースもあるのですが、支払時点だけでみると国内のIT企業に発注したほうが損しているように見えてしまいます。

そこで導入されたのがリバースチャージ(逆課税)方式です。この制度では、本来売り手が負担するべき納税義務を、サービスの受け手である国内企業が代わりに負担するという仕組みです。

つまり、「消費税を納める人がいないのなら、受けた人が納めましょう」という考えです。これによって、国内外のサービス間で消費税の有無による価格差(≒税の有利・不利)がなくなり、公平な競争条件が整います。

そのため、リバースチャージ方式はあくまで「支払う側=国内のサービスの受け手」に課された義務であり、海外の事業者には一切関係がないというのがポイントです。

リバースチャージの対象となる取引とは?(会社設立直後でも関係あり)

設立したばかりの会社でも、次のような「電気通信利用役務(IT関連サービスなど)」を海外から受けていれば、リバースチャージの対象となります。

サービスの内容 具体例 リバースチャージ適用
業務用クラウド Google Workspace、Dropbox Business等
オンライン英会話 海外講師とのZoomレッスン(業務用)
ストリーミングサービス Netflix、YouTube Premium(業務外) ×

一般的には「法人契約であり、かつ業務目的で使用されているかどうか」が判断基準になります。

設立したばかりの会社であっても、以下のような条件に当てはまる場合にはリバースチャージ制度への対応が必要となる可能性があります。

条件 対象 対応の要否
課税事業者である 年間売上1,000万円超 or インボイス登録済み 必要
海外の事業者からサービスを受けている クラウド、翻訳、英会話、広告など 必要
受けたサービスが「業務用」である 法人契約や事業目的で使用 必要
受けたサービスが「消費者向け」である 動画配信サービスなど 不要

「リバースチャージ免除」されるケースもある

リバースチャージ方式は「一般課税」の事業者で、かつ「課税売上割合が95%未満」の場合に適用されます。逆に、課税売上割合が95%以上の場合は当面の間、リバースチャージ方式の申告・納税義務がなかったこととされます(つまり、制度上の免除措置)

課税売上割合が95%以上の事業者は、仕入税額控除できます。つまり、海外サービスにリバースチャージが発生しても、ほぼ同額が控除されるので、実際の納税負担はゼロに近くなるのです。そのため「処理・申告を簡素化できるように、制度上“免除”にしている」わけです。(ただし、この扱いだと、支払時点で消費税の負担が大きくなるため海外のIT事業者が有利に見るのを是正というリバースチャージの目的の一つが達成されないことになってしまいますが。)

一方で、非課税ビジネスが多く含まれる事業者(課税売上割合95%未満)は、消費税が全額控除されるわけではないのでリバースチャージを適用することによって納税額の適正化が図られています。

【数値例で比較】リバースチャージをした場合・しない場合

次のようなモデルケースで見てみましょう。

前提:

  • 売上:1,000万円(税抜)
  • 海外クラウド利用料:10万円
  • 国内仕入:500万円
  • 消費税率:10%
項目 リバースチャージ適用 リバースチャージ免除
課税売上割合 90% 100%
仮受消費税(売上) 100万円 100万円
仮払消費税(国内仕入) 50万円 50万円
仮受消費税②(クラウド) 1万円
仮払消費税②(クラウド) 1万円
消費税納税額 (100万+1万円) -(50万+1万)×0.9=551,000円 100万 – 50万 = 50万

実際の会計処理では、次のように仕訳を行います。

【仕訳例】

支払時:

 クラウド使用料 100,000 / 普通預金 100,000

消費税処理時:

 仮払消費税② 10,000   / 仮受消費税② 10,000

※インボイス対応も必要なため、帳簿や証憑管理も含めて注意が必要です。

リバースチャージは、会社を設立して間もない段階でも関係する可能性があります。とくにクラウドサービスや業務委託が当たり前になっている今、設立時にしっかりと税務の仕組みを理解しておくことで、後のトラブルや損失を防ぐことができます。

当事務所では、会社設立支援と合わせて、設立直後の会計・消費税対応、インボイス制度への準備まで一括サポートしております。税務に不安のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。