Last Updated on 2026年3月18日 by 渋田貴正
株式会社を設立する際、多くの方は「資本金はいくらにするか」「事業目的をどう書くか」といった点に意識が向きがちです。しかし、実務の現場で後からトラブルになりやすいのは、実は「機関設計」です。会社を設立するときに決めるこの部分は、いわば会社の骨格にあたる部分です。ここをなんとなくで決めてしまうと、「取締役が足りない」「この構成は変更できない」といった問題が後から出てきて、定款変更や登記のやり直しが必要になるケースも少なくありません。
実際に、「とりあえず株式会社で」と設立したものの、取締役会を置いたことで役員数の維持に苦労したり、結局取締役会を廃止することになって登記費用が掛かってしまうといった相談は非常によくあります。株式会社の機関設計は自由に見えて、法律上は選べる組み合わせが厳密に決まっています。だからこそ、設立時点で全体像を把握しておくことが重要です。
株式会社は公開会社かどうか、大会社かどうかで期間設計が変わる
株式会社の機関設計は自由に選べるように見えますが、実際には「公開会社かどうか」「大会社かどうか」という2つの区分によって、選べる組み合わせが大きく制限されます。この2つは会社法上の重要な分類であり、ここを誤解したまま設計すると、そもそも選べない構成を前提にしてしまうことがあります。
まず「公開会社」とは、発行している株式の一部でも譲渡制限が付いていない株式がある会社のことです。スタートアップで資金調達を予定している場合などは、この形になることが多いです。
一方で「大会社」とは、資本金が5億円以上、または負債総額が200億円以上の会社をいいます。規模が大きいため、会計監査人の設置など、より厳格なガバナンスが求められます。
この「公開会社かどうか」「大会社かどうか」の組み合わせにより、機関設計は以下の4つに分類され、それぞれ選べるパターンが異なります。
以下でパターンごとに機関設計をまとめました。
・〇:設置が必要(必須機関)
そのパターンを選ぶ場合、必ず置かなければならない機関です。置かないと会社法違反になります。
・×:設置できない(設置不可)
そのパターンでは制度上置くことができない機関です。定款に書いても無効になります。
・△:任意で設置可能(任意機関)
置いても置かなくてもよい機関です。会社の規模や方針に応じて選択できます。
公開会社でない大会社以外の会社
すべての株式の譲渡に制限があり、かつ規模もそれほど大きくない会社です。いわゆるオーナー会社や家族経営の会社の多くがこの区分に該当します。設計の自由度が最も高く、シンプルな機関構成からスタートできるのが特徴です。会社設立時の多くはこのパターンを前提に検討することになります。
| パターン | 取締役 | 取締役会 | 監査役 | 会計参与 | 監査役会 | 会計監査人 | 監査等委員会 | 指名委員会等 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ① | 〇 | × | × | △ | × | × | × | × |
| ② | 〇 | × | 〇 | △ | × | × | × | × |
| ③ | 〇 | × | 〇 | △ | × | 〇 | × | × |
| ④ | 〇 | 〇 | × | 〇 | × | × | × | × |
| ⑤ | 〇 | 〇 | 〇 | △ | × | × | × | × |
| ⑥ | 〇 | 〇 | 〇 | △ | 〇 | × | × | × |
| ⑦ | 〇 | 〇 | 〇 | △ | × | 〇 | × | × |
| ⑧ | 〇 | 〇 | 〇 | △ | 〇 | 〇 | × | × |
| ⑨ | 〇 | 〇 | × | × | × | 〇 | 〇 | × |
| ⑩ | 〇 | 〇 | × | × | × | 〇 | × | 〇 |
公開会社である大会社以外の会社
すべてまたは一部の株式の譲渡制限がなく、外部株主を受け入れる前提の会社です。ただし規模は大会社には該当しません。ベンチャー企業やスタートアップなど、今後の資金調達や株主構成の変化を見据えた会社がこの区分に該当します。一定のガバナンスが求められるため、機関設計の選択肢はやや制限されます。
| パターン | 取締役 | 取締役会 | 監査役 | 会計参与 | 監査役会 | 会計監査人 | 監査等委員会 | 指名委員会等 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ① | 〇 | 〇 | 〇 | △ | × | × | × | × |
| ② | 〇 | 〇 | 〇 | △ | 〇 | × | × | × |
| ③ | 〇 | 〇 | 〇 | △ | × | 〇 | × | × |
| ④ | 〇 | 〇 | 〇 | △ | 〇 | 〇 | × | × |
| ⑤ | 〇 | 〇 | × | × | × | 〇 | 〇 | × |
| ⑥ | 〇 | 〇 | × | × | × | 〇 | × | 〇 |
公開会社でない大会社
すべての株式について譲渡制限はあるものの、資本金や負債額が大きく、会社の規模としては大会社に該当するケースです。典型的には、グループ会社の中核企業や、オーナー企業でも大規模に成長した会社が該当します。この場合、外部株主はいなくても、規模に応じた厳格な機関設計が求められます。
| パターン | 取締役 | 取締役会 | 監査役 | 会計参与 | 監査役会 | 会計監査人 | 監査等委員会 | 指名委員会等 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ① | 〇 | × | 〇 | △ | × | 〇 | × | × |
| ② | 〇 | 〇 | 〇 | △ | × | 〇 | × | × |
| ③ | 〇 | 〇 | 〇 | △ | 〇 | 〇 | × | × |
| ④ | 〇 | 〇 | × | × | × | 〇 | 〇 | × |
| ⑤ | 〇 | 〇 | × | × | × | 〇 | × | 〇 |
公開会社である大会社
株式の譲渡制限がなく、かつ規模も大きい会社です。いわゆる上場企業やその準備会社がこの区分に該当します。最も厳格なガバナンスが求められ、機関設計もほぼ定型化されています。設立時からこの形を選ぶことは稀ですが、将来的に目指すべき形として理解しておくことは重要です。
| パターン | 取締役 | 取締役会 | 監査役 | 会計参与 | 監査役会 | 会計監査人 | 監査等委員会 | 指名委員会等 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ① | 〇 | 〇 | 〇 | × | 〇 | 〇 | × | × |
| ② | 〇 | 〇 | × | × | × | 〇 | 〇 | × |
| ③ | 〇 | 〇 | × | × | × | 〇 | × | 〇 |
この一覧を見ると、「取締役会を置くと一気に制約が増える」「大会社になると会計監査人がほぼ必須になる」といった構造がはっきり見えます。つまり、機関設計は単なる形式ではなく、「会社の規模と成長ステージに応じた制度選択」です。
特に中小企業では、最初から複雑な設計にする必要はありません。むしろシンプルに始めて、必要に応じて段階的に変更する方が合理的です。ただし、その変更には必ず登記が伴うため、「最初の設計」が重要になります。
当事務所では、単なる制度説明ではなく、「将来の資金調達」「役員構成」「税務設計」まで踏まえた機関設計をご提案しています。後から制度に縛られないためにも、設立前の段階でぜひ一度ご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
