Last Updated on 2026年2月5日 by 渋田貴正

日本に住所を有する外国籍の方の中には、過去に母国や第三国で働き、一定の貯金をしたうえで来日された方も多いと思います。そのような方からよく受ける質問が、「日本に来る前に貯めたお金を、日本の口座に送金したら税金がかかりますか?」というものです。結論からいうと、一定の条件を満たす場合には、送金しても日本で課税されない可能性があります。ただし、誰でも自動的に非課税になるわけではなく、実務上は注意すべきポイントがいくつもあります。

非永住者の課税の基本構造

日本に住所を有する外国籍の方で、過去10年以内の日本での居住期間が5年以下である場合、所得税法上、「居住者」の中でも特に「非永住者」に該当します。非永住者の特徴は、日本国内源泉所得は原則としてすべて日本で課税されますが、国外源泉所得については、日本で支払われた場合または日本へ送金された場合に課税されるという点にあります。

裏を返すと、日本に来る前の時点で形成された海外の貯金が、そもそも「国外源泉所得」に該当しない、あるいは課税対象となる所得ではないと整理できる場合には、日本へ送金しても課税されない余地があります。

「日本に来る前の貯金」なら送金しても課税されない?

日本に来る前に海外で働いて得た給与や事業収入については、その当時、日本に住所も居所もない「非居住者」の立場で得た所得になります。非居住者の期間中に得た国外源泉所得は、日本の課税対象外です。そのため、その時代に稼ぎ、貯めたお金については、日本の税法上、そもそも所得税課税の射程外で形成された資金と整理できます。したがって、その資金であることを客観的に説明できるのであれば、日本へ送金しても課税対象外と扱える可能性があります。

非永住者の送金課税では、「どこにあるお金か」よりも、「いつ、どの立場で稼いだお金か」が重要になります。整理すると、次のようなイメージです。

資金の形成時期 日本での課税
日本に来る前(非居住者時代)に稼いだお金 原則として課税されない可能性
非永住者として日本に住んでいる期間中に海外で稼いだお金 日本へ送金すると課税対象

同じ「海外のお金」であっても、形成された時期によって扱いが大きく異なります。「海外から日本に送金すると課税される」と理解されがちですが、実際には、送金という行為そのものに税金がかかるわけではありません。非永住者でない通常の居住者であれば、もともと持っていた海外預金を日本に送金しただけで課税されることはありません。非永住者の場合に送金が問題になるのは、非永住者期間中に生じた国外源泉所得について、一定の場合に限って課税するという例外的な制度が設けられているためです。

お金に色はないという考え方と送金課税

実務でよくある誤解が、「この送金は昔から持っている貯金だから課税されないはずだ」という考え方です。しかし、税務の世界ではよく「お金に色はない」と言われます。つまり、口座の中にあるお金について、「これは昔の貯金」「これは最近稼いだお金」といった区別は、原則としてされません。

数値例で考えてみます。ある外国籍の方が、日本に来る前から海外口座に1,000万円の預金を持っていたとします。その後、日本に住み始めて非永住者となり、海外での取引により国外源泉所得として500万円の利益を得ました。この時点で海外口座の残高は1,500万円です。

この方が、非永住者期間中に海外口座から日本へ100万円を送金した場合、「もともとの1,000万円から送った」と主張したとしても、その主張どおりには整理されない可能性があります。つまり、口座に十分な「昔の貯金」が残っていたとしても、非永住者期間中に得た国外源泉所得が存在する限り、送金すると課税対象になる余地があるということです。

このように、「どのお金を送ったか」よりも、「非永住者期間中に課税対象となり得る国外源泉所得が存在するかどうか」が重要になります。

そのため、以下のような資料をできるだけ保存・整理しておくことが重要です。
・日本に来る前の給与明細や契約書
・当時の銀行残高証明書
・口座の取引履歴

「証明できるかどうか」が、課税・非課税を分ける最大の分岐点になります。

なお、ここで説明している「お金に色はない」という考え方は、海外口座の中にある資金が、どの時期に形成されたものかを区別できないという意味での話です。

一方で、非永住者の送金課税には、もう一つ別のルールとして、「送金された金額は、まず国内源泉所得(国外支払)に対応する部分から充当し、なお残額がある場合に国外源泉所得に対応するとみなす」という仕組みがあります。

このルールは、国内源泉所得はそもそも日本で課税される所得であるため、送金課税の対象となる国外源泉所得をできるだけ後回しにするという意味で、結果的に納税者に不利にならないよう配慮された順序です。

これに対して、前述の「お金に色はない」という話は、「海外口座の中に昔の貯金が残っているから、その貯金部分を送金したと主張できるわけではない」という資金の性質の判定の問題を指しています。

この二つを混同しないことが、非永住者の送金課税を理解するうえでの重要なポイントです。

本に来る前の貯金を送金する場合でも、いきなり全額を送金するのではなく、
・資金の形成時期
・非永住者に該当する期間
・現在の口座残高の内訳
を整理したうえで進めることが安全です。送金してしまってからでは、選択肢が大きく狭まります。

日本に来る前の貯金を日本へ送金しても、条件を満たせば課税されない可能性があります。しかし、その判断には国際税務の知識と実務的な証拠整理が不可欠です。海外資金の送金や非永住者の課税関係でお悩みの方は、国際税務に対応できる税理士として、当事務所が状況を丁寧に確認し、最適な対応をご提案いたします。