Last Updated on 2026年1月28日 by 渋田貴正
日本に帰国を検討されている方の中には、海外で亡くなった配偶者の遺族年金を受け取っている方もいらっしゃると思います。「外国の遺族年金は日本で課税されるのか」「日本の遺族年金と扱いは同じなのか」「相続税はかかるのか」といった疑問は、実務でも非常に多く寄せられます。
結論から申し上げますと、遺族年金はどの国の制度であっても日本では所得税は非課税と整理されます。一方で、受給権の内容によっては相続税が課税されるケースがあります。同じ遺族年金でも、所得税と相続税では見方がまったく異なります。ここを理解しておかないと、「税金がかからないと思っていたのに、後から指摘された」ということになりかねません。
外国で遺族年金を受給している方の課税
外国の遺族年金に対する所得税の取り扱い
たとえば、アメリカ在住中に配偶者を亡くし、アメリカの社会保障制度に基づく遺族年金を受給している方が、日本への帰国を検討しているケースです。「日本の遺族年金は非課税と聞いたことがあるが、外国の遺族年金も同じなのか」という疑問を持たれるのは自然です。
この場合、日本の所得税では、遺族が受ける恩給および年金は非課税とされています。所得税法上、国籍や支給国を限定する文言はなく、実務上も外国制度に基づく遺族年金について非課税として扱われています。
これはアメリカに関わらず、諸外国の法律に基づいて受給している遺族年金全てに当てはまります。
| 所得税法 (非課税所得) 第9条 次に掲げる所得については、所得税を課さない。 (中略) 三 恩給、年金その他これらに準ずる給付で次に掲げるもの (中略) ロ 遺族の受ける恩給及び年金(死亡した者の勤務に基づいて支給されるものに限る。) |
したがって、日本に帰国してから外国の遺族年金を受け取り続けても、所得税の確定申告で収入として申告する必要はありません。
所得税法では、生活保障的性格の強い給付については、課税になじまないものとして非課税所得に分類しています。遺族年金は、亡くなった方の勤務や加入実績に基づき、遺族の生活を支えるために支給される給付という性質が重視されています。この考え方は、日本の制度に限らず、外国の公的遺族年金についても同様に当てはまると整理されています。
外国の遺族年金に対する相続税の取り扱い
ここで注意が必要なのが相続税です。「所得税がかからない=すべての税金がかからない」と考えてしまう方が少なくありませんが、これは誤解です。
相続税では、遺族年金の受給権そのものに着目します。相続税法では、将来にわたって定期的に金銭を受け取る権利を「定期金に関する権利」と呼び、一定の場合に相続財産として評価するとしています。
たとえば、被相続人の死亡により、配偶者が外国の遺族年金を新たに取得したとします。
・毎月の遺族年金額:15万円
・年間受取額:180万円
・平均余命などを基にした評価倍率:8倍(仮定)
この場合、
180万円 × 8 = 1,440万円
となり、1,440万円が相続税の課税価格に算入されます。この数値例はイメージをつかむために非常に単純化したものなので実際の倍率や計算方法は制度内容によって異なりますが、年金額の何年分もの金額が相続財産として評価される可能性があるという点が重要です。
日本の遺族年金と外国の遺族年金の相続税上の違い
ここが非常に重要なポイントです。日本の公的遺族年金については、受給権そのものも相続税の課税対象にはなりません。
理由は、日本の遺族年金が、相続財産として被相続人の財産を引き継ぐものではなく、遺族に固有の社会保障給付として新たに発生する権利と整理されているためです。
一方、外国の遺族年金については、制度の内容によっては、被相続人の死亡を原因として経済的価値のある受給権を取得したと評価され、「定期金に関する権利」として相続税の対象になる場合があります。民間の生命保険に近いイメージです。
| 区分 | 所得税 | 相続税(受給権) |
|---|---|---|
| 日本の公的遺族年金 | 非課税 | 課税されない |
| 外国の遺族年金 | 非課税 | 課税される場合あり |
同じ「遺族年金」という名前でも、国が変わるだけで相続税の結論が変わる点は、まさに国際相続ならではの注意点といえます。
外国の遺族年金については、「その国の制度でどのような法的構成になっているか」によって、日本の相続税の取扱いが異なります。
日本の相続税法上、被相続人の死亡を原因として、経済的価値のある受給権を新たに取得したと評価できる場合には、その受給権は「定期金に関する権利」として相続税の課税対象となります。
一方で、制度上、遺族が自己の資格に基づいて給付を受ける権利を取得するにすぎず、被相続人が有していた財産が遺族に移転したとはいえない場合には、原則として相続税の課税対象とはなりません。
また、相続が発生したタイミングも重要です。相続税は、「相続が発生した時点」における、被相続人および相続人の居住区分等を基準として課税関係が判定されます。
そのため、外国に居住している間に配偶者が死亡し、その時点で日本の相続税の課税関係が生じない場合には、その後に日本へ帰国したとしても、過去の相続について日本の相続税が課されることはありません。
一方で、日本に帰国後に相続が発生した場合には、遺族年金の受給権の性質によっては、「定期金に関する権利」として相続税の課税対象となる可能性があります。
| 相続発生時の状況 | 日本の居住区分(相続人) | 日本の相続税の課税関係 |
|---|---|---|
| 日本に帰国後に配偶者が死亡 | 日本居住者 | 受給権の性質によっては、日本の相続税の課税対象になる可能性あり |
| 外国在住中に配偶者が死亡 | 非居住者 | 原則として、日本の相続税は課税されない |
| 外国在住中に相続発生 → その後日本へ帰国 | 相続発生時は非居住者 | 原則として、日本の相続税は課税されない(帰国後に遡って課税されることはない) |
したがって、「外国の遺族年金であるから一律に課税される・されない」と判断するのではなく、
当該制度が
・被相続人の有していた受給権が相続により承継される性質のものか
・それとも遺族固有の給付請求権が新たに発生する制度なのか
を個別に確認する必要があります。
日本への帰国をきっかけに、遺族年金や相続に関する不安をお持ちの方は、早めに専門家へご相談ください。当事務所では、税務と登記の両面から状況を整理し、安心して日本での生活をスタートできるようサポートしております。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
