Last Updated on 2026年1月24日 by 渋田貴正
2025年分の所得税の確定申告から、特に高所得者向けの新しい考え方に基づく制度が始まっています。それが、「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」です。ミニマムタックス税制と呼ばれることもあります。
名前だけを見ると、給与が非常に高い人向けの制度のように感じられるかもしれません。しかし実務では、この制度が本当に問題になりやすいのは、株式譲渡益など分離課税の所得が中心となるケースです。「株式の譲渡は分離課税だから税率は一定」という従来の感覚が、そのまま通用しない場面が出てきています。
まずイメージしやすい例として、非上場株式の譲渡を考えてみます。長年会社を経営してきた創業者が、M&Aや事業承継の一環として、自身の保有する非上場株式を譲渡したケースです。譲渡益は数億円規模になりますが、給与や事業所得はそれほど多くありません。本人としては、「自分は総合課税の高額所得者ではない」「たまたま株を売っただけ」という感覚を持ちやすい場面です。しかし、このようなケースこそ、2025年から始まったこの制度の影響を受けやすくなっています。
極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(富裕層向けミニマムタックス税制)とは
この制度は、基準所得金額が3億3,000万円を超える場合に適用対象となります。基準所得金額とは、簡単に言えば「その年に得た所得を合算した金額」です。給与や事業所得といった総合課税の所得だけでなく、株式譲渡益などの申告分離課税の所得も含まれます。税額の計算方法が分かれていても、ミニマムタックス税制の判定にあたってはどれだけ稼いだかという点では単純に数字が合算される点が、この制度の最大の特徴です。
具体的には、基準所得金額が3億3,000万円を超えると、通常の所得税の計算方法とは別にもう一つの計算が行われます。基準所得金額から3億3,000万円を差し引いた金額に、22.5%を掛けるという計算です。この22.5%は、所得税と復興特別所得税を考慮した水準です。この金額が、いわば「最低限確保されるべき税負担のライン」になります。通常の方法で計算した所得税額と、この最低税額を比較し、多い方が最終的な税額になります。そのため、制度の対象になったからといって、必ず税額が増えるわけではありません。
| 計算方法 | 最終的に納める所得税額 | |
|---|---|---|
| 通常の方法で計算した所得税額>(基準所得金額 − 3億3,000万円)× 22.5% | ・総合課税:累進税率による通常計算 ・分離課税:株式譲渡益などの通常計算 |
通常の計算による所得税額をそのまま納めます |
| 通常の方法で計算した所得税額<(基準所得金額 − 3億3,000万円)× 22.5% | (基準所得金額 − 3億3,000万円)× 22.5% | 上記の計算式による金額まで引き上げた所得税額を納めます |
すべての人がこの制度を意識する必要はありません。特定口座(源泉徴収あり)で上場会社の株式を売買している一般的な投資家の方であれば、この制度が問題になる場面は多くありません。そもそも申告が不要の所得については上記の基準所得金額に含める必要はないためです。
一方で、この制度を本当に気にすべきなのは、非上場株式の譲渡やMBO、TOB、先物取引など、給与などの総合課税対象とは別に申告しなければならない分離課税で多額の所得が一時的に発生する人です。これらは「分離課税だから安心」と考えやすい一方で、所得水準としては極めて高額になります。
ただ、増税のための制度ではありますが、上記の3.3億円の所得ということから分かるように、この制度はごく限られた超高所得者で、かつ金融所得が多い人に向けた課税強化のための制度です。通常の給与所得者や、一般的な投資をしている方が、日常生活の中で意識する必要はほとんどありません。
この制度が適用されるかどうかの出発点は、基準所得金額が3億3,000万円を超えるかどうかです。
年収や事業所得が数千万円程度であれば、そもそも判定の土俵に上がりません。
また、総合課税の場合は、所得が増えるほど累進税率により税負担も自然に重くなります。
そのため、制度が用意する22.5%という最低ラインを、通常の計算だけで大きく上回るのが一般的です。
分離課税の場合には特に要注意
ここで重要なのが、分離課税との関係です。上場会社の特定口座などを除く株式譲渡益(非上場株式など)は原則として申告分離課税で、所得税15%と復興特別所得税0.315%を合わせた約15.3%の税率で計算されます。一見すると、22.5%とは大きな差があるように感じられます。この制度における分離課税の分岐点はとてもシンプルで、通常の分離課税による税額が22.5%ラインを上回るかどうかです。
同じ5億円の所得であっても、課税方式によって制度との関係は大きく異なります。
分離課税で5億円の所得がある場合は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所得の性質 | 株式譲渡益などの申告分離課税 |
| 通常の所得税率 | 約15.3% |
| 通常の所得税額 | 約1億8,360万円(12億円 × 約15.3%) |
| 最低税額の計算 | (12億円 − 3.3億円)× 22.5% |
| 最低税額 | 約1億9,575万円 |
| 制度の影響 | 最低税額の方が大きく、納税額は最低税額が適用される |
一方、総合課税で5億円の所得がある場合は次のようになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所得の性質 | 給与所得・事業所得などの総合課税 |
| 適用税率 | 累進税率(最高45%) |
| 通常の所得税額 | 22.5%ラインを大きく上回る |
| 最低税額の計算 | (12億円 − 3.3億円)× 22.5% |
| 最低税額 | 約1億9,575万円 |
| 制度の影響 | 実質的な影響はほぼなし |
この比較から分かるとおり、総合課税の高額所得者については、通常の税額計算の時点で、この制度が想定する最低負担を大きく超えるため、実務上はほとんど問題になりません。一方で、分離課税の場合は税率が低く一定である分、この制度が意味を持ちます。
この制度は2025年分の所得税から適用されています。過去の株式譲渡に遡って影響が出ることはありませんが、今後予定されている非上場株式の譲渡や大口の分離課税所得については、この制度がある前提で整理しておくことが重要です。税率だけを見るのではなく、「どの制度の判定に引っかかるか」という視点を持つことで、想定外の負担や不安を避けることができます。
非上場株式の譲渡や高額な分離課税所得が関係する場面では、早めに専門家へ相談することで、安心して進めることができます。当事務所では、税務と法務の両面から、状況に応じた最適な整理をご提案しています。ぜひお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
