Last Updated on 2026年1月15日 by 渋田貴正

特に売上1,000万円前後の会社で起こりがちな消費税に関する話題で多いのが、「本当は免税事業者でいられると思っていたのに、課税になってしまった」「逆に、免税になると思っていたが課税を選ぶ余地があるのではないか」という声です。特に特定期間の判定は、ネットや書籍では「半年間の売上と人件費が両方1,000万円以下なら免税」という説明で終わっていることが多く、実務で悩むポイントが抜け落ちがちです。実際の現場では、数字の組み合わせ次第で「どちらの基準を見るか」によって結論が変わり、あえて課税事業者になるという判断が意味を持つ場面もあります。

特定期間とは何か

消費税の特定期間とは、原則として「前事業年度の開始日から6か月間」を指します。2期目で基準期間が存在しない事業者であっても、この特定期間の状況によって、当期が課税事業者になるかどうかが判定されます。具体的には、特定期間において①課税売上高が1,000万円を超えるか、または②給与等支払額が1,000万円を超えるか、このいずれかに該当すると、その事業年度は課税事業者になります。ここで重要なのは、「両方が1,000万円を超える必要はない」という点です。どちらか一方が超えれば課税事業者になる、という構造になっています。裏を変えると、どちらか一方が超えなければ免税事業者に留まることができることも意味しています。

特定期間の判定について、実務の現場や一般的な解説では、「課税売上高と給与等支払額のいずれかが1,000万円以下であれば免税事業者になる」という理解が広く浸透しています。細かい条文構造はさておき、「どちらかが1,000万円を超えなければ免税でいられる」という感覚で捉えている方も少なくありません。その背景には、消費税について「免税でいられるなら、その方が得だ」というイメージが根強くあることが影響しています。

確かに、免税事業者であれば消費税の申告や納税は不要ですし、資金繰りの面だけを見れば楽に感じます。ただ、この「免税=得」という発想が、実務上の判断をかえって歪めてしまうことがあります。特定期間の判定は、本来「免税を維持できるかどうか」だけを見る制度ではなく、「事業の実態がどの段階に来ているのか」を映す指標の一つだからです。

あえて課税事業者になるという実務判断

例えば、特定期間の課税売上高が900万円、給与等支払額が1,100万円のケースと、課税売上高が1,100万円、給与等支払額が900万円のケースを比べてみます。どちらも「どちらかが1,000万円を超えている」という意味では同じですが、事業の中身は大きく異なります。前者は人材を先行して確保している成長準備段階である可能性が高く、後者は売上が先に立って伸びている局面と考えられます。

特に前者のように、人件費や外注費、設備投資などの先行投資が発生しているケースでは、あえて課税事業者になることに実務上の意味が出てきます。課税事業者になれば、仕入や経費に含まれる消費税について仕入税額控除を受けることができ、結果として消費税の還付が生じる可能性もあるからです。「売上がまだ伸びきっていない段階で人を入れる」「先に体制を整える」というフェーズでは、免税にこだわるよりも、課税を前提に考えた方が資金繰りの面で合理的なことも少なくありません。

また、実務では「課税事業者選択届出書を出していなかったから還付は受けられないのではないか」と不安に思われることもありますが、特定期間の要件を満たして課税事業者となっている場合には、その事業年度について消費税の申告自体が必要になります。その結果として、計算上還付になるのであれば、届出の有無にかかわらず還付を受けることは可能です。

このように、特定期間の判定は「免税か課税か」という二択で終わる話ではなく、その数字が示す事業フェーズをどう読み解くかが重要です。ここに、一般的な理解と実務感覚との間に生じる違和感があります。

結論から言うと、特定期間の判定において「売上と人件費のどちらを採用するかを任意に選択する」という制度はありません。法律上は、要件に該当すれば自動的に課税事業者になります。ただし、実務では「どちらの基準に該当するか」を冷静に把握した上で、あえて課税事業者になることを前提に事業設計をする、という判断は十分にあり得ます。例えば、課税売上高が1,100万円で人件費が900万円のケースでは、売上基準により課税事業者になります。この場合、将来的に設備投資が予定されており、仕入税額控除を受けたいのであれば、「免税でいたい」と無理に考えるよりも、早期に課税事業者として整理した方がトータルで有利になることがあります。実務では「免税でいられるか」ではなく、「課税になったときにどう設計するか」を先に考える、少し大人な消費税の向き合い方が必要です。

特定期間の状況 課税判定 実務上の着眼点
売上900万円/人件費1100万円 課税事業者 人件費増加の一時的要因か、恒常的か
売上1100万円/人件費900万円 課税事業者 売上拡大フェーズか、偶発的な売上か

どちらも課税事業者ですが、前者は「人を先に入れた事業」、後者は「売上が先に伸びた事業」です。消費税の負担感や今後の課税売上の見通しは大きく異なります。あえて課税事業者になるというより、「課税事業者になることを前提に、次の一手をどう打つか」という発想が現実的です。免税にしがみつくより、制度を理解した上で使いこなす方が、結果として事業は安定します。

外国会社と人件費基準が使えない理由

外国会社については、人件費による特定期間判定は使えないことになっています。背景には、国外での給与支払の把握が困難であることや、人件費の定義などで実態と乖離した免税・課税判定が行われるリスクがありました。そのため、外国会社の場合、特定期間の判定は課税売上高一本で判断されます。ここは「知らないと普通に間違える」ポイントす。

外国会社の日本支店や日本での登記が絡むケースでは、消費税の判定を誤ると修正申告や追徴につながりやすい部分です。登記と税務を切り離して考えないことが、実務では非常に重要です。

消費税の特定期間判定や外国会社の扱いは、条文だけを読んでも分かりにくい分野です。数字の組み合わせや事業の実態によって結論が変わるため、「これで大丈夫だろう」と自己判断するのが一番危険です。少しでも迷いがある場合は、早い段階で専門家に相談することで、後から修正に追われるリスクを大きく減らせます。当事務所では、消費税と登記を一体で捉えた実務的な視点からご相談をお受けしていますので、「このケースはどうなるのか」と感じた時点で、気軽にご相談いただければと思います。