Last Updated on 2026年1月9日 by 渋田貴正
相続放棄は、相続が始まったことを知った日から原則3か月以内に、家庭裁判所へ申述する必要がある手続です。期限が短いことに加え、相続人が海外在住の場合には、「どの公的書類が必要なのか」「日本の書類が取れない場合はどうするのか」といった点で不安を感じる方が少なくありません。実務では、すべての書類を教科書どおりに揃えられないケースも多く、その事情をどう整理し、どう説明するかが相続放棄の可否を左右する場面もあります。
日本国籍の方であっても、海外在住者の場合、海外勤務中で最寄りの日本領事館まで数時間かかる、交通費だけで数万円かかる、育児や介護の事情で外出自体が難しいといった状況は決して珍しくありません。ただ、実務のご相談を受けていると、「相続放棄をするには、必ず日本領事館に行かなければならない」と誤解されている方も少なくありません。実際には、相続放棄の手続において、領事館への来館が必須となるケースは限られています。
また、外国籍の相続人の場合、日本の戸籍がなく、本国の証明書の取得に時間がかかるケースもありますが、家庭裁判所は形式面だけで一律に判断するわけではありません。合理的な事情や背景を踏まえたうえで、個別に判断が行われます。相続放棄の手続で本質的に重要なのは、書類を機械的にそろえることではなく、「相続人本人であること」と「放棄の意思が本人のものであること」を、どのように説明し、裏付けるかという点です。
海外在住かどうかにかかわらず、相続放棄では次の書類が基本になります。
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 相続放棄申述書 | 家庭裁判所に提出する正式な申述書 |
| 被相続人の死亡が分かる戸籍 | 死亡の事実と相続開始を証明 |
| 相続人であることが分かる資料 | 戸籍や公的記録により相続関係を確認 |
海外在住者の場合、問題になるのは、この「相続人であること」や「本人確認」をどの書類で行うかという点です。以下では、国籍や居住状況ごとに実務の考え方を整理します。
海外在住の日本国籍者が相続放棄する場合の公的書類
海外在住の日本国籍者については、日本の戸籍制度が前提になります。これは日本在住の相続人と異なることはありません。
被相続人との親子関係などは戸籍で確認できますが、実務上問題になりやすいのは、署名や住所の確認です。海外在住の相続人の場合、基本的には国内の窓口を立てて、その住所を書類の送達場所として指定するといったことが行われます。
海外在住の外国籍者が相続放棄する場合の公的書類
海外在住の外国籍者については、原則として国籍国または出生国の公的書類を起点に考えます。出生証明書、婚姻証明書、パスポートなどにより、氏名、生年月日、親子関係を確認します。これらの書類で被相続人との関係が合理的に説明できる場合には、相続放棄申述書に添付して家庭裁判所へ提出します。
国によっては、出生証明書に親の氏名が記載されていない、形式が日本と大きく異なるといったケースもありますが、その場合でも制度上の事情を補足説明し、他の資料と組み合わせて説明することで対応することになります。海外在住の外国籍者の場合、「書類が存在するかどうか」は比較的明確で、「取得に時間がかかる」という問題に帰着することが多い点が特徴です。
日本在住の外国籍者が相続放棄する場合の公的書類
実務上、より判断が難しくなりやすいのが、日本に長期間居住している外国籍者のケースです。日本で出生し、日本の市区町村に出生届が提出されているものの、本国側では出生登録をしていない、あるいは制度上そのような登録制度が存在しないということも少なくありません。このような場合、本国の出生証明書の取得は事実上困難になります。
日本在住の外国籍者の相続放棄で中心となる資料は、出生届記載事項証明書や外国人登録原票記載事項証明書など、日本で作成・管理されてきた公的記録です。出生届記載事項証明書には、本人の氏名、生年月日、父母の氏名などが記載されており、被相続人との親子関係を直接的に説明できる資料となります。外国籍であっても、日本で出生届が受理されていれば、極めて有力な資料です。
また、外国人登録原票記載事項証明書は、氏名の変遷、国籍、住所履歴などを確認するための重要な資料です。現在は在留カード制度に移行していますが、過去の身分関係を説明する場面では、実務上なお重視されることがあります。
日本在住の外国籍者について、家庭裁判所から形式的に「本国の出生証明書は提出できますか」と確認されることがあります。この場合、単に「取得できません」と答えるのではなく、なぜ取得できないのか、その理由を日本側の資料とともに説明することが重要です。
たとえば、日本で出生し、日本には出生届を提出しているが、本国では出生登録制度がない、あるいは一定期間内に届出をしなければ登録できない制度である、といった事情を上申書で整理します。そのうえで、出生届記載事項証明書や外国人登録原票により、相続人本人であることが合理的に確認できることを示します。家庭裁判所は、「どの国の書類が揃っているか」よりも、「相続人本人であることが合理的に説明できるか」を重視します。
海外在住、日本国籍、外国籍、本国の証明書がすぐに用意できない。このような条件が重なると、不安になるのは当然です。ただし、相続放棄は条文をなぞるだけの手続ではありません。事情をどう整理し、どの資料で、どのように説明するか。その組み立て次第で、結果は大きく変わります。少しでも不安がある場合は、早い段階で専門家に相談することで、無用な遠回りや期限リスクを避けることができます。
当事務所では、海外在住者や外国籍の相続放棄について、実務経験に基づいた対応を行っています。ご事情に応じて、家庭裁判所からの書類の送達先や連絡窓口として当事務所が対応することも可能です。海外との往復や連絡負担をできるだけ減らし、手続全体を見通した形でサポートしますので、どうぞ安心してご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
