Last Updated on 2026年1月6日 by 渋田貴正

投資事業有限責任組合では、組合員が途中でその持分を第三者に譲渡したいと考える場面があります。投資方針の変更や資金需要の発生、グループ内での持分整理、個人組合員が資産管理会社を設立した場合など、理由はさまざまです。ただし、投資事業有限責任組合の持分は、株式会社の株式のように自由に売買できるものではありません。法的にも税務的にも独特の整理が必要であり、「出資しているのだから売れるはず」と安易に進めると、後からトラブルや想定外の税負担が生じることがあります。

法的側面から見た投資事業有限責任組合の持分譲渡

まず法的な側面です。実務で使われる「持分譲渡」という言葉には、いくつか異なる意味が含まれており、ここを整理せずに話を進めると誤解が生じやすくなります。

一つ目は、組合財産そのものに対する持分の処分です。投資事業有限責任組合法では、組合財産の持分の処分は、組合および第三者に対抗できないとされています。これは強行的な規定と解されており、仮に組合契約で自由に処分できるよう定めたとしても、組合員としての地位が第三者に移転するわけではありません。つまり、「組合財産の一部を譲渡したつもり」でも、法的には当事者間の債権関係にとどまり、組合との関係では効力を持たないという整理になります。

二つ目は、組合員としての地位そのものの譲渡です。投資事業有限責任組合法には、地位譲渡に関する明文規定はありませんが、任意組合に関する判例や実務の考え方を踏まえると、原則として他の組合員全員の同意があれば、組合員の地位を譲渡することは可能とされています。実務では、多くの投資事業有限責任組合の組合契約において、一定の条件のもとで地位譲渡を認める条項が設けられています。そのため、持分譲渡を検討する場合には、まず組合契約の定めを確認することが出発点になります。

三つ目は、組合契約に基づいて発生した個別の権利義務の移転です。すでに確定している分配請求権などは、通常の債権譲渡によって移転させることができますし、未履行の出資義務については、免責的債務引受の問題として整理されます。ただし、これらは組合員たる地位の譲渡とは別次元の話であり、混同しないことが重要です。

区分 内容 法的な位置づけ
① 組合財産の持分の処分 組合財産そのものに対する持分を第三者に譲渡する行為 投資事業有限責任組合法上、組合および第三者に対抗不可(強行規定)
② 組合員の地位の譲渡 組合員としての地位そのものを第三者に移転する行為 明文規定はないが、任意組合の判例・実務を踏まえ、原則として全組合員の同意があれば可能
③ 個別の権利義務の移転 分配請求権や未履行出資義務など、組合契約に基づく個別の権利義務の移転 分配請求権は債権譲渡、出資義務は免責的債務引受として整理

このように、投資事業有限責任組合の持分譲渡は、「何を譲渡するのか」によって法的な意味合いが大きく異なります。実務で問題になるのは、ほとんどの場合「組合員の地位の譲渡」であり、その前提として、組合契約と同意関係の確認が不可欠です。

税務面から見た投資事業有限責任組合の持分譲渡

次に税務の視点です。投資事業有限責任組合の持分譲渡は、税務上は「組合員としての地位を売った」という形式よりも、「組合財産に対する持分を譲渡した」と実質で評価されます。組合員の持分価値は、組合財産に対する経済的な持分から成り立っていると考えられているためです。

そのため、持分を譲渡した組合員には、譲渡対価と、譲渡時点における組合財産の帳簿価額を基礎とした自己持分との差額に応じて、譲渡益または譲渡損が発生します。出資金を回収しただけという整理にはならない点が重要です。

特に注意が必要なのは、組合財産に不動産や有価証券が含まれている場合です。不動産が含まれている場合には、その性質に応じて、長期譲渡所得や短期譲渡所得として課税関係が分かれることもあります。また、評価差額が大きい場合には、想定以上の税負担が生じるケースもあります。譲渡条件を決める段階で税務面を検討しておかないと、「税金が発生した結果、思ったより手取りが少ない」という結果になりかねません。

ここで、簡単な数値例を用いて、税務上の考え方を仕訳の形で確認します。法人Xと法人Yが、それぞれ1,500万円ずつ出資して投資事業有限責任組合を組成し、組合はその資金で不動産を3,000万円(土地1,800万円、建物1,200万円)で取得していたとします。その後、法人Xが自己の持分の40%を、法人Yに1,200万円で譲渡したケースを考えます。

この場合、法人Xが譲渡したのは、組合財産に対する自己持分の40%に相当する経済的価値です。帳簿価額ベースでは、土地720万円、建物480万円、合計1,200万円が自己持分に対応します。譲渡対価が1,200万円であるため、帳簿価額と譲渡対価は一致し、譲渡損益は発生しません。

法人X側の仕訳イメージは、次のとおりです。

借方 現金預金 12,000,000
貸方 投資事業有限責任組合出資金 12,000,000

仮に譲渡対価が1,600万円であった場合には、差額400万円が譲渡益として認識されることになります。このように、仕訳自体はシンプルに見えても、その前提として「どの資産に対応する持分を譲渡したのか」という税務上の整理が行われている点が重要です。

次に、組合員の持分を譲渡した人が個人の場合と法人の場合で、税務上の取扱いがどのように異なるかを整理します。

譲渡者 利益が出た場合 損失が出た場合
個人 原則として譲渡所得として課税。不動産に対応する部分は長期・短期の区分に応じて分離課税 譲渡損失は原則として他の所得と損益通算不可。
法人 法人税上の益金として課税。資産の内容に応じて譲渡益を区分 法人税上の損金として処理。ただし寄附金該当や評価損否認とならないよう注意が必要

このように、同じ持分譲渡であっても、譲渡者が個人か法人かによって、課税関係や損失の使い方は大きく異なります。特に個人の場合、損失が出ても使えないケースが多いため、譲渡条件の設定段階から税務面を意識しておくことが重要です。

投資事業有限責任組合の持分譲渡では、法務と税務のどちらか一方だけを見て判断するのは危険です。組合契約で譲渡が認められていなければ、そもそも法的に成立しませんし、税務上の影響を考慮せずに譲渡条件を決めると、後から修正申告やトラブルにつながることもあります。また、相続や脱退と組み合わさるケースでは、持分譲渡なのか、脱退と持分払戻しなのかの整理を誤ると、課税関係が大きく変わる点にも注意が必要です。

投資事業有限責任組合の組合員の持分譲渡は、単なる「出資の売買」ではなく、組合という枠組み全体を前提にした法的・税務的判断が求められます。組合契約の確認から、譲渡スキームの設計、税務上の影響整理まで含めて検討したい場合には、税理士・司法書士として法務と税務の両面から一体的にサポートできる当事務所へぜひご相談ください。