Last Updated on 2026年1月5日 by 渋田貴正
投資事業有限責任組合とは、ベンチャー投資やファンド運営で多く使われる制度で、無限責任組合員と有限責任組合員という二つの立場がある点が特徴です。こうした組合において、組合員が途中で抜けたい、あるいは抜けざるを得なくなる場面は決して珍しくありません。もっとも、「出資しているのだから自由にやめられる」と考えてしまうと、後から思わぬ落とし穴にはまることがあります。投資事業有限責任組合における組合員の脱退は、法律上も実務上も一定のルールに強く縛られているからです。
組合員の脱退には、大きく分けて任意脱退と、本人の意思に関係なく生じる非任意脱退(当然脱退)があります。
投資事業有限責任組合の任意脱退とは?
投資事業有限責任組合法では、組合員は「やむを得ない場合」を除き、原則として任意に脱退することはできないとされています。これは、投資事業有限責任組合が中長期の投資計画を前提としており、組合員が自由に抜けられると、組合財産がいつ減るか分からず、事業そのものが成り立たなくなるためです。いわば、ファンドにとっての「出口」は、個人の気分で開閉できる非常口ではない、というイメージです。
ここでいう「やむを得ない場合」とは、民法上の任意組合と同様に、人的信頼関係が破壊され、もはや共同事業を継続できないような事情を指します。たとえば、無限責任組合員が組合契約に反する行為を行い、他の組合員の利益が著しく害された場合や、事業方針の大幅な変更によって当初想定していた投資の前提が崩れた場合などが典型例です。
もっとも、実務ではこの「やむを得ない場合」だけに頼ることは少なく、組合契約で脱退事由をあらかじめ定めているケースが多く見られます。たとえば、一定期間経過後の任意脱退を認める条項や、法人組合員の解散を脱退事由とする条項などです。組合契約は、法律の枠内であれば比較的自由に設計できるため、契約内容の確認が極めて重要になります。
任意脱退を行う場合、脱退の意思表示は原則として他の組合員全員に対して行う必要があります。ただし、組合契約で「無限責任組合員に対する通知で足りる」と定めていることも多く、その場合は契約の定めが優先されます。また、事前の予告期間を設けるかどうかも、組合契約で定めることが可能です。
| 任意脱退事由 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| やむを得ない場合 | 人的信頼関係が破壊され、共同事業を継続できないような事情がある場合に、組合員の意思により脱退するもの | 単なる投資判断の変更や都合では足りない。客観的に見て継続不能といえる事情が必要 |
| 組合契約で定めた脱退事由 | 一定期間経過後の脱退、特定の事由発生時の脱退など、組合契約であらかじめ定められた脱退 | 実務では最も多いパターン。まず組合契約を確認することが出発点 |
| 組合契約に基づく任意脱退の特約 | 「やむを得ない場合」に該当しない場合でも、契約上認められたルールに従って行う脱退 | 契約で認められていれば有効。逆に契約にない脱退は原則不可 |
投資事業有限責任組合の当然脱退とは?相続時の注意点
一方で、本人の意思に関係なく、法律上当然に脱退の効果が生じる場合もあります。これが非任意脱退です。代表的なものとして、自然人組合員の死亡、破産手続開始の決定、後見開始の審判、そして除名があります。
死亡の場合、相続人が当然に組合員の地位を引き継ぐわけではありません。組合は人的信頼関係を前提とするため、「その人を信頼していた」ことと「相続人を信頼する」ことは別だからです。この点は、株式会社の株式相続と大きく異なるところで、会社でいえば合同会社などの持分会社に近いイメージです。
つまり、自然人組合員が死亡した場合、法律上は脱退となり、相続人が当然に組合員の地位を承継するわけではありません。相続人が組合に関与する場合でも、持分の相続による譲渡ではなく、脱退を前提とした新規加入という整理になります。組合契約で相続人承継を認めている場合も、法律構成上は当然に脱退しつつ、相続人の加入の承認についてはあらかじめ組合契約で承認する旨の特例を設けているものと理解するのが実務的です。
破産手続開始の決定があった場合も、法律上当然に脱退となります。これは、破産手続が清算を目的とする以上、組合員としての地位を維持させることが制度趣旨に合わないためです。なお、民事再生や会社更生の場合は、当然脱退には当たらない点も押さえておく必要があります。
| 当然脱退事由 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 死亡 | 自然人である組合員が死亡した場合に、法律上当然に脱退となる | 相続人が当然に組合員の地位を承継するわけではない点が最大の注意点 |
| 破産手続開始の決定 | 組合員について破産手続開始の決定があった場合に、法律上当然に脱退する | 組合契約で排除することは不可。民事再生・会社更生は含まれない |
| 後見開始の審判 | 自然人組合員が成年後見開始の審判を受けた場合に、当然に脱退となる | 保佐・補助開始の審判は含まれない点に注意 |
| 除名 | 正当な事由があり、他の組合員の一致等により組合員資格を剥奪される場合 | 手続の適正さが極めて重要。不適切な除名は無効リスクが高い |
相続が発生した場合、投資事業有限責任組合の持分は、相続人にとって把握が難しい財産の一つです。株式のように登記や公的な一覧があるわけではなく、通常は組合側から相続人へ自動的に連絡が来る仕組みもありません。そもそも組合側が相続人を把握していないケースも多いです。この場合、相続人自身が、被相続人の通帳の入出金履歴や契約書、メールなどを手掛かりに、投資事業有限責任組合への関与の有無を調査する必要があります。
また、自然人組合員が死亡した場合、法律上は当然脱退となり、相続人が当然に組合員の地位を承継するわけではありませんが、相続税の計算上は、死亡時点で被相続人が有していた経済的価値を評価する必要があります。多くのケースでは、死亡時点で持分払戻額が確定しておらず、相続税申告期限までに正確な金額を把握できないことも珍しくありません。このように、投資事業有限責任組合が関係する相続では、「分からないことがある前提」で、法務と税務を一体として整理し、期限を意識しながら対応することが、実務上の大きなポイントになります。
脱退に伴う持分払戻しと税金
組合員が脱退すると、組合員としての地位は失われ、以後は原則として権利義務も消滅します。ただし、脱退時点で具体的に発生していた権利義務については清算の対象となります。これに関連して重要なのが、持分の払戻しです。
持分の払戻しは、脱退時点の組合財産の状況に基づいて計算されます。資産が負債を上回っていれば、その持分に応じた金額が払い戻されますが、負債が資産を上回る場合、無限責任組合員は損失分担割合に応じて追加の負担が必要になることがあります。一方、有限責任組合員は、原則として追加の払込み義務を負いません。この違いは、名前のとおり責任の範囲が異なることを、これ以上なく端的に示しています。
また相続が絡む場合に注意が必要なのが、相続税評価との関係です。自然人組合員が死亡した場合、法律上は脱退となりますが、相続税の計算上は、死亡時点で被相続人が有していた財産的価値を評価する必要があります。この評価対象となるのは、「組合員としての地位」そのものではなく、脱退に伴って最終的に相続人が取得する経済的価値です。
実務的には、相続税評価額は、死亡時点における組合財産の状況を前提として算定される、持分払戻請求権に準ずる経済的価値を基礎に考えることになります。ただし、死亡時点ではまだ持分の確定計算が終わっていないことも多く、その場合には、決算状況、未実現損益、評価差額などを考慮して合理的に評価する必要があります。
| 場面 | 法律上の整理 | 相続税評価の考え方 |
|---|---|---|
| 組合員の死亡時に持分払戻額が確定していない場合 | 法律上は当然脱退。相続人が組合員の地位を承継するわけではない | 死亡時点における持分払戻請求権に準ずる経済的価値を評価対象とする |
| 組合員の死亡時に持分払戻額が確定している場合 | 脱退後、払戻額が具体的に確定 | 確定した払戻金額を基礎に相続税評価を行う |
このように、組合員の脱退は、税務とも密接に関係します。持分の払戻しが行われる場合、その内容によっては譲渡所得や雑所得などの課税関係が問題になることがあります。また、損失が確定するタイミングや、既に分配された損益との関係も整理が必要です。法律的な面だけ見て「脱退できるか」を判断し、税務を後回しにすると、後から想定外の税負担が発生することもあるので、法的な面と税務面は一体に考える必要があります。
投資事業有限責任組合の組合員脱退は、「やめます」の一言で済む話ではありません。組合契約の設計、脱退事由の該当性、手続の適正さ、そして脱退後の財産関係や税務まで、一連の流れを正しく整理することが重要です。投資事業有限責任組合の脱退や持分払戻し、税務の整理について不安がある場合は、税理士・司法書士として法務と税務の両面から一体的にサポートできる当事務所へぜひご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
