Last Updated on 2025年12月28日 by 渋田貴正

日本で登記をして事業を始める外国会社にとって、消費税の扱いは誤解されやすい分野です。「日本で登記したのだから、登記した日を基準とするのでは?」と考える方も多いのではないでしょうか。しかし、実際には日本で登記した外国会社であっても、消費税の基準期間や課税期間、新設法人の考え方は、日本での登記日ではなく、本国法人を基準に判断されます。外国会社の場合、日本で外国会社登記が絡むため複雑に見えがちですが、消費税の考え方自体はシンプルです。法人としての実体は本国にある以上、事業年度や資本金を本国基準で判断するのは、制度上も自然な整理といえます。

外国会社の消費税の納税義務判定

外国会社の消費税では、登記よりも「法人としていつ、どこで成立したか」が重視されます。外国会社とは、外国の法律に基づいて設立された法人のことです。日本で行う外国会社の登記は、日本で継続的に取引を行うための手続きにすぎず、日本で新たに法人が誕生するわけではありません。そのため、消費税の世界では、日本法人の設立登記とはまったく異なる扱いになります。

消費税の納税義務の判定は、外国会社も内国法人と同じ基準で判定します。なかでも重要なのは基準期間や新設法人の判定です。

判定の基準 納税義務の有無 補足説明
基準期間 原則あり 基準期間とは、通常は2事業年度前の課税売上高を指します。基準期間(2期前)の課税売上高が1,000万円超だと納税義務が発生します。
新設法人 あり 設立時資本金が1,000万円以上の場合、初年度から課税事業者となります。
特定期間 あり 1期目後半の売上や人件費が多い場合、2期目から課税されます。

新設法人の判定

消費税には、新設法人について一定期間、免税とする特例があります。しかし、日本で登記した外国会社は、原則としてこの新設法人の特例を利用できません。理由は単純で、法人としてはすでに存在しているからです。日本で初めて事業を始めたとしても、法人そのものが新設でなければ、新設法人とは扱われません。この点を見落としたまま外国会社が日本での消費税について納税義務を考えていると、想定外の消費税負担が発生するおそれがあります。

例えば、2015年にドイツで設立された法人が、2024年に日本で外国会社の登記を行い、日本支店を設けたとします。この場合、「2024年に日本で外国会社の登記したのだから新設法人として消費税は当面免税になる」と考えてしまいがちです。しかし、消費税では、この会社は2015年設立の法人として扱われます。日本での登記時点では、すでに設立から年数の経過した法人であり、新設法人とは評価されません。

基準期間の判定

基準期間の考え方も、本国基準で判断されます。基準期間とは、原則として2事業年度前の課税売上高を指します。この金額が1,000万円を超えるかどうかで、消費税の納税義務が決まります。日本で登記した外国会社の場合、この基準期間は日本での登記前の期間も含めて判断されます。本国での売上高を含めた過去2事業年度が基準になります。日本での売上がまだ少なくても、本国で一定の売上があり、かつそれが日本国内での課税売上と評価される場合には、日本で消費税の申告義務が生じることがあります。ただし、日本で消費税の課税売上が発生するということは、通常、その前提として外国会社の登記を経て事業を行っているはずです。そのため、外国会社の登記がされる2年前の時点で、日本における課税売上高が1,000万円を超えているという状況は、制度上も実務上も一般的には想定しにくいといえます。

課税期間の考え方

課税期間についても注意が必要です。日本法人であれば、定款で定めた事業年度がそのまま消費税の課税期間になります。しかし、外国会社の場合は、本国の事業年度が原則として課税期間になります。日本で登記した日から新しい課税期間が始まるわけではありません。本国の事業年度が1月1日から12月31日であれば、日本での消費税も同じ期間で計算します。日本登記日を起点に課税期間を区切るというわけではありません。

項目 日本法人 外国会社(日本で登記)
設立時期 日本の登記日 本国での設立日
基準期間 日本法人の過去2期 本国法人の過去2期
課税期間 定款で定めた事業年度 本国の事業年度
新設法人の免税 適用される場合あり 本国での設立日によっては適用されない

外国会社のための消費税の納税管理人は誰にすべき?

日本で事業を行う外国会社や、国内に事務所等を有しない事業者が消費税の課税事業者に該当する場合、実務上あわせて検討が必要になるのが「納税管理人」です。
納税管理人とは、納税者に代わって、日本国内で税務署への届出や申告、納付などの手続きを行う人をいいます。
日本に住所や事務所がない場合でも、消費税の納税義務自体は発生します。そのため、申告や納付を誰がどのように行うのかを明確にする必要があり、その受け皿として納税管理人制度が設けられています。
消費税の納税義務が生じる場合には、単に税額を計算するだけでなく、納税管理人の選任や届出まで含めて対応する必要があります。

納税管理人には、特別な資格要件があるわけではありません。日本国内に住所を有する個人であれば、原則として誰でも選任することができます。そのため、実務上は、日本における代表者を納税管理人にするか、税理士などの専門家を納税管理人にするかで検討されることが多くなります。

日本における代表者を納税管理人にする場合、事業内容を把握している人物が税務署との窓口になるという点では合理的です。ただし、納税管理人は、単に書類を受け取るだけの存在ではありません。消費税の申告書や各種届出書の提出、税務署からの問い合わせへの対応など、一定の税務知識が求められます。代表者が税務に不慣れな場合や、頻繁に海外を行き来する場合には、実務負担が大きくなることがあります。

これに対し、税理士を納税管理人に選任するケースも多く見られます。税理士であれば、消費税の申告や納税手続に日常的に対応しており、基準期間や特定期間の判定、届出の要否などについても適切な判断が可能です。納税管理人を税理士にすることで、申告漏れや届出忘れといったリスクを抑えやすくなります。また、日本における代表者が交代した場合でも、納税管理人を変更せずに済む点は、実務上の安定性という意味で大きなメリットといえます。

制度上は、日本における代表者と税理士のいずれを納税管理人に選任することも可能です。ただし、消費税の納税義務が生じる以上、納税管理人は形式的に置けば足りる存在ではありません。申告・納付・税務署対応まで含めて考えると、税務対応を一体的に任せられる体制を整えることが重要です。

外国会社のための消費税の納税地

消費税の申告を行う際には、「どの税務署に申告するのか」という納税地の問題も重要になります。
納税地とは、消費税の申告書や届出書を提出する税務署を特定するための基準です。原則としては、事業所や事務所など、実際に事業活動の中心となる場所が納税地になります。
もっとも、国内に明確な事業所がない場合や、複数の拠点がある場合には、一定のルールに従って納税地を定めることになります。
納税地が不明確なままでは、適切な申告手続を行うことができないため、消費税の納税義務が生じる場面では、早い段階で整理しておくことが重要です。

優先順位 納税地 内容の説明
1 事業所・事務所等の所在地 国内に事業所や事務所がある場合は、その所在地が原則として納税地になります。
2 事業者が選択した場所 国内に事業所等がない場合には、事業者が選択した場所を納税地とします。実務上は、日本における代表者や納税管理人の住所地が選ばれることが一般的です。
3 麹町税務署の管轄区域内の場所 第一・第二のいずれによっても納税地が定まらない場合の補充規定として、麹町税務署が所轄となります。

外国会社の日本進出では、登記と税務を切り離して考えてしまうケースが少なくありません。しかし、消費税は登記のタイミングや事業年度と密接に関係しています。登記時点で本国の事業年度や過去の売上を整理しておかないと、後から修正が難しくなることもあります。消費税は「知らなかった」では済まされない税金です。だからこそ、最初の段階で登記と税務を含めた全体像を把握しておくことが重要になります。

日本で登記した外国会社の消費税は、日本法人の感覚で判断すると誤りやすい分野です。本国の事業年度、過去の売上、日本での取引内容を総合的に見なければ、正しい対応はできません。さらに、消費税の申告義務が生じる場合には、納税地の整理や納税管理人の選任といった実務対応も必要になります。

当事務所では、外国会社の日本進出にあたり、外国会社登記から税務対応までを一体でサポートしています。司法書士として登記を行うだけでなく、税理士として消費税の判断や申告、納税管理人としての対応まで含めて関与することが可能です。登記と税務を別々に考えるのではなく、一つの流れとして整理することで、無理のない実務対応につなげることができます。最初の判断を誤らないことが、日本での事業を安心して続けるための近道です。少しでも不安があれば、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。