Last Updated on 2025年12月27日 by 渋田貴正

投資事業有限責任組合とは

投資事業有限責任組合(Limited Partnership for Investment 、LPS)とは、「投資事業有限責任組合契約に関する法律」に基づいて設立される、投資を目的とした組合です。複数の投資家が資金を出し合い、その資金をまとめて企業などに投資するための、いわば投資専用の法的な器といえます。

一般の方にとっては、「投資なら個人で株を買うのと何が違うのか」「結局、損をする可能性があるなら同じではないのか」と感じるかもしれません。しかし、投資事業有限責任組合は単なる投資手段ではなく、責任の範囲と投資のやり方を法律で設計した制度である点に本質があります。

もともと日本では、投資ファンドは民法上の組合を使って組成されてきました。民法上の組合は設立が簡単で柔軟に使える一方、組合員が原則として無限責任を負うという重大な問題を抱えています。無限責任とは、組合が負った債務について、出資額に関係なく、個人の資産まで含めて責任を負う可能性があるということです。ここで注意すべきなのは、結果として失う金額と、法律上どこまで責任を負うかは別次元の話だという点です。

たとえば、投資目的で作られた民法上の組合が、投資先企業の経営に一定程度関与していたとします。その過程で、誤った情報提供や不十分な説明が原因となり、取引先や投資家などの第三者に損害を与えてしまった場合です。この場合、損害賠償請求の相手方は「組合」ですが、民法上の組合には法人格がなく、組合員全員が事業主体とみなされます。その結果、組合財産で賠償しきれない部分について、各組合員が個人として責任を追及される可能性があります。特にベンチャー投資や事業再生投資のように、訴訟や損害賠償などのリスクが想定される分野では、この無限責任は投資家にとって大きな足かせになります。

そこで、出資者については有限責任としつつ、事業内容は投資関連に限定するという一定のルールを法律で定めたうえで設計されたのが、投資事業有限責任組合です。リスクは取れるが、責任は無制限に広がらない。その代わり、何でもできるわけではない。このバランスを法律で実現した点が、この制度の核心です。

個人投資・民法上の組合・投資事業有限責任組合の違い

投資事業有限責任組合の存在意義を理解する上で、「同じ100万円を投資するなら、結局同じではないか」という疑問に答えることが一番の近道かもしれません。

個人投資の場合、株式や投資信託などの多くは有限責任構造になっているため、実務上は100万円以上の損失を負うことは通常ありません。しかし、これは投資対象の仕組みによるものであり、投資家本人が制度として有限責任に守られているわけではありません。

民法上の組合では、組合が第三者に対して負った債務について、出資額に関係なく組合員が責任を負う可能性があります。一方、投資事業有限責任組合では、有限責任組合員については出資額を限度としてのみ責任を負うことが法律で明確に定められています。つまり、「100万円で終わるかもしれない」投資と、「100万円で必ず終わる」投資の違いが、制度として存在しているのです。

個人投資 民法上の組合 投資事業有限責任組合(LPS)
投資の形 個人が直接投資 組合員として共同投資 組合員として共同投資
法律上の責任 原則自己責任 無限責任 有限責任組合員は出資額まで
投資額を超えた請求リスク 原則なし(商品次第) あり得る 有限責任組合員はなし
事業内容の制限 なし なし 法律で投資事業に限定
運営の主体 本人 組合員全員 無限責任組合員

投資事業有限責任組合の法定の事業目的

投資事業有限責任組合は、自由にどのような事業でも行えるわけではありません。法律上、行える事業は投資関連の業務に限定されています。具体的には、以下の通りです。

・株式会社の株式や新株予約権等の取得・保有
・事業者に対する金銭債権の取得や貸付
・匿名組合持分や信託受益権の取得・保有
・事業者に対する経営・技術に関する助言
・他の投資スキームへの出資
・これらに付随する事業

逆に言えば、飲食店経営や一般的な不動産賃貸業など、投資と無関係な事業を主目的として行うことは想定されていません。有限責任という強い保護を与える代わりに、事業内容を投資に限定することで、制度全体のリスクを管理しているのです。

投資事業有限責任組合員はどのような責任を負うのか

投資事業有限責任組合には、無限責任組合員と有限責任組合員の二種類の組合員が存在します。無限責任組合員は、組合の業務を執行し、組合の債務について連帯して責任を負う立場です。組合財産で債務を返しきれない場合には、個人資産や法人資産を使って弁済することになります。

これに対して、有限責任組合員は、出資の価額を限度としてのみ責任を負います。原則として、組合の損失がどれほど大きくなっても、追加でお金を請求されることはありません。ただし、組合の名称に自らの氏名や名称を使わせた場合や、実質的に業務執行をしていると第三者に誤認されるような行為をした場合には、例外的に無限責任を負う可能性があります。有限責任だからといって、何をしても安全という制度ではない点には注意が必要です。

投資事業有限責任組合は、「無限責任の運営者」と「有限責任の出資者」を組み合わせた構造です。全員を守る制度ではなく、守る人と責任を負う人を意図的に分けた制度だと言えます。責任の構造としてはちょうど合資会社にいているかもしれません。

無限責任組合員 有限責任組合員
責任の範囲 組合の債務について全額責任(連帯無限責任) 出資額を限度とする責任
主な役割 組合の業務執行・運営 資金提供(投資)
業務執行権 あり(原則として全員) なし
第三者との対外的立場 組合の代表的存在 原則として前面に出ない
出資以上の請求リスク あり なし(例外を除く)
登記の要否 氏名(名称)・住所を登記 登記不要
責任が重くなる典型例 損害賠償・契約違反・訴訟敗訴など 名称使用・業務執行と誤認される行為

投資事業有限責任組合が向いているケース、向いていないケース

投資事業有限責任組合は、誰にでも必要な制度ではありませんが、複数人で資金を出し合い、計画的に投資を行いたい人には非常に相性が良い制度です。個人ではアクセスしにくい投資案件に参加したい場合や、責任の範囲を明確にしたうえでリスクを取りたい場合、投資を「思いつき」ではなく「仕組み」として整理したい場合には、投資事業有限責任組合のメリットが活きてきます。

個人で100万円を投資するのと、10人で100万円ずつ出して1,000万円を投資するのとでは、投資できる規模も大きく異なってきます。知人同士が特定のベンチャーに出資する場合などに向いているでしょう。そのほかにも、投資事業有限責任組合は、複数人でリスクを分散しつつ、一定の規模と継続性を持った投資を行いたいケースで活用されることが多い制度です。

一方で、単発で少額投資をしたいだけの場合や、投資スキームの設計や管理を煩雑に感じる場合、すべての投資家が事業運営に深く関与したいようなケースでは、必ずしも適した制度とはいえません。投資事業有限責任組合は、簡単だから使う制度ではなく、あらかじめ設計して使う制度だからです。

投資事業有限責任組合は、リスクをゼロにする制度ではありません。あくまで、リスクの取り方と責任の広がり方を整理する制度です。制度を十分に理解せずに形だけ組合を作ると、思わぬ責任問題や税務上の誤解、登記や契約上の不備につながることもあります。

投資事業有限責任組合の設立やスキーム設計は、税務と登記を切り離して考えることができません。投資を「結果」ではなく「設計」から考えたい方は、税理士・司法書士の両面から支援できる当事務所へぜひご相談ください。