Last Updated on 2025年12月17日 by 渋田貴正

電気を使う製品を販売しようとするとき、「PSEマークは必要ですか?」という質問は、業種や規模を問わず非常によく出てきます。特に、これから会社を設立して新たに事業を始める方や、海外から日本市場へ進出しようとする外国会社にとっては、事業計画の初期段階で必ず意識しておくべき論点の一つです。

PSEマークは、電気用品安全法に基づく安全表示制度です。名前だけを見ると「マークを付けるかどうか」の問題に見えますが、実際には、誰が製造者・輸入者として法的責任を負うのか、どこまで日本の法規制が及ぶのかを判断する制度でもあります。そのため、PSEマークが必要かどうかは、「製品の性質」だけでなく、「どのような形で販売・流通させるのか」によって結論が変わります。

電気用品安全法とPSEマークの基本的な考え方

電気用品安全法では、日本国内で流通する電気用品の安全性を確保するため、一定の電気用品について技術基準への適合と表示義務を課しています。ここでいう電気用品とは、単に電源を使うものすべてを指すわけではなく、政令で定められた対象製品に限られます。

対象となる電気用品は、「特定電気用品」と「特定電気用品以外の電気用品」に分類されます。特定電気用品に該当する場合は、第三者認証機関による適合性検査を経たうえでPSEマークを表示する必要があります。
一方、特定電気用品以外であっても、自己確認を前提としたPSE表示が求められるため、「どちらにせよ無関係」というケースは多くありません。

区分 概要 PSEマーク 適合確認の方法
特定電気用品 感電や火災などの危険性が特に高いとされる電気用品 ひし形PSE 第三者認証機関による適合性検査が必要
特定電気用品以外の電気用品 特定電気用品ほど危険性は高くないが、安全確保が必要な電気用品 丸形PSE 製造者・輸入者による自己確認が必要

重要なのは、完成品だけでなく、内部に含まれる部品が特定電気用品に該当する場合、その部品について安全基準適合が必要になる点です。「部品は外から見えないから大丈夫」というわけではありません。

輸入販売を行う場合のPSEマークの考え方

海外で製造された電気用品を日本に輸入して販売する場合、電気用品安全法上の責任主体は「輸入者」です。
ここでいう輸入者とは、単に通関手続きをした人ではなく、日本国内でその製品を流通させる立場にある事業者を指します。

輸入販売を行う場合、製造が海外であっても、日本における輸入者は、国内製造者とほぼ同じ義務を負います。つまり、対象となる電気用品については、安全基準への適合確認を行い、PSEマークを表示した状態で販売する必要があります。この点は、「製品は海外で作っているからPSEマークは関係ない」と誤解されやすい部分ですので注意が必要です。

国内製造・国内販売の場合のPSEマークの考え方

日本国内で電気用品を製造し、そのまま国内で販売する場合は、典型的に電気用品安全法の適用を受けます。
対象製品に該当する場合は、PSEマークの取得・表示はもちろん、事前の事業届出も必要になります。

この場合は判断が比較的シンプルですが、製造を外注している場合や、OEM形態を取っている場合には、「誰が製造事業者にあたるのか」を契約内容から慎重に確認する必要があります。

PSEマークが不要なケース

すべての電気用品にPSEマークが必要というわけではありません。ビジネスの形態によっては、PSEマークが不要となるケースも存在します。

ケース PSEマークの要否 考え方
日本国内での展示・紹介のみ 不要 販売・引渡しを伴わなければ「販売」に該当しない
評価・研究目的での使用 原則不要 反復継続的な販売でなければ対象外
共同研究での試験利用 ケースによる 実質的に販売と同視されるかで判断
日本を経由しない海外販売 不要 日本国内で流通しないため

展示会やデモンストレーション、大学などとの共同研究で製品を使用するだけであれば、直ちにPSEマークが必要になるわけではありません。ただし、展示品をそのまま譲渡する、名目は評価用でも実態は販売に近い、といった場合には、判断が変わる可能性があります。

展示と販売の境界は意外とあいまいで、「売るつもりはなかった」という主観は、法律上の判断ではあまり重視されません。この分野では、「やっていること」で判断される点に注意が必要です。

PSEマークと事業届出はセットで考える

PSEマークの話になると、マークの有無だけに意識が向きがちですが、電気用品を製造・輸入して販売する場合には、事業届出も必要になります。
これは許可制ではありませんが、未届のまま事業を行うと、行政指導や是正の対象になる可能性があります。

PSEマークが「安全性の証明」だとすれば、事業届出は「誰が責任を持つのかを明らかにする手続き」です。どちらか一方だけでは足りない点は、実務上よく見落とされます。

外国企業や新規参入事業者にとって、PSEマークの要否判断は、単なる法令チェックではなく、事業設計そのものに直結します。輸入スキームや会社設立の形を誤ると、本来不要だったはずの対応が必要になることもあります。
当事務所では、電気用品を扱う事業の日本国内での立ち上げにあたり、会社設立や外国会社野登記、実務スキームの整理を含めてサポートしていますので、少しでも不安があれば早めにご相談ください。