Last Updated on 2025年11月13日 by 渋田貴正
株式会社でよくあるご相談の一つが、
「取締役会設置会社で取締役が1名辞任して2名になったが、退任登記だけ先に出せるのか?」
という問題です。
結論からお伝えすると、
退任登記単独では申請できません。必ず “補充” または “取締役会廃止(定款変更)” を同時に整える必要があります。
内部の実態としては一時的に取締役が2名になることは起こり得ますが、
登記簿にその状態を反映することは許されないため、法務局は補正・却下を行います。
株式会社版として、法律の根拠から登記実務まで正確に解説します。
取締役会設置会社は3名以上の取締役が必須(会社法331条5項)
会社法331条5項には次のように明記されています。
取締役会設置会社は、3人以上の取締役を置かなければならない。
これにより、
取締役会を設置している会社は、取締役が3名を下回った時点で法律上の要件を満たさない状態
になります。
取締役が1名辞任し、残り2名になっただけでは、取締役会は法律上成立しません。
内部状態としては「一時的に2名」はあり得る
会社法には、
「辞任後○日以内に補充しなければならない」
という期限規定はありません。
そのため内部実務では、
- 辞任した
- 後任者を探している
- 株主総会の日程調整中
といった事情で、社内的には一時的に2名になっている状態は存在し得ます。
ここまでは、一般法人法と同じ考え方です。
しかし登記簿には「取締役会あり・取締役2名」は登載できない
ここが最も重要です。
登記簿は外部に公示するための制度であり、
「取締役会設置会社で取締役2名」という矛盾した状態を登記することはできません。
したがって、法務局は「退任登記だけ」の申請に対して次のように対応します。
- 退任登記単独
→ “取締役会あり・取締役2名” は外部公示上矛盾するため 補正/却下
- 辞任+後任取締役の就任登記を同時申請
→ 3名体制を維持できるため 受理可能
- 辞任+取締役会廃止(定款変更)を同時申請
→ 非設置会社へ移行するため 受理可能
つまり、
退任登記だけ → 不可
退任+補充 or 退任+取締役会廃止 → 可
というのが全国の法務局で共通する実務です。
権利義務取締役が残る場合は人数に含まれる(会社法346条2項)
会社法346条2項には、次の規定があります。
任期満了または辞任により退任した取締役は、後任者が就任するまでなお取締役としての権利義務を有する。
これは「権利義務取締役」と呼ばれる制度で、
後任が選任されていない限り、その退任者は形式上「取締役数」に含まれます。
したがって:
- 任期満了 → 後任未選任
→ 権利義務取締役が残るため形式上“3名扱い” - 即時辞任・死亡
→ 権利義務取締役にならないため“人数が即時減少”
となります。
なぜ登記ではここまで厳密なのか?
理由は明確です。
**→ 取締役会は外部に対して代表取締役など重要な権限を持つため、
その構成を誤って公示すると第三者取引に重大な影響が出るからです。**
登記簿に
「取締役会あり・取締役2名」
と記載されてしまうと、
- 取締役会は実際には成立しない
- 代表取締役の選定も不可能
- 会社の意思決定が外部的に無効になりかねない
という混乱が生じます。
そのため、法務局は極めて厳格に対応します。
実務上の対応まとめ
| 状況 | 登記の扱い | 必要な対応 |
| 辞任 → 2名のまま退任登記だけ提出 | ✕ 補正 | 補充 or 取締役会廃止 |
| 辞任+補充就任を同時申請 | ○ | 3名体制維持 |
| 辞任+取締役会廃止(定款変更)を同時申請 | ○ | 非設置会社へ移行 |
| 任期満了で権利義務取締役が残る | ○ | 形式上3名扱い。ただし早期の後任選任が望ましい |
司法書士に依頼するメリット
取締役会の存否は会社の根幹を左右するため、
誤った登記対応をすると会社の意思決定が無効になったり、金融機関や契約先とのトラブルにもつながります。
当事務所では、退任・補充・取締役会廃止登記、定款変更など、
会社法と登記の両面に精通した司法書士が最適な対応をご提案いたします。
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司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
