Last Updated on 2025年10月7日 by 渋田貴正

会社を設立したり、設立後に増資を行ったりする際には、引受人(=株主になる人)が会社に資金を払い込む手続きが必要です。通常は、払込期日または払込期間内に、会社名義の口座に対して払込みを行うのが原則です。

払込期日は、株式会社の機関設計によって決定機関が異なります。

決定機関 決定内容の概要
取締役会設置会社 株主総会・取締役会 株主総会で決めるほか、株主総会が発行株式数・払込金額などの基本事項を決議し、払込期日などの細目は取締役会に委任して決定することもできる
取締役会非設置会社 株主総会 取締役会が存在しないため、株主総会自体が払込期日を含めて決定

ところが実務では、「払込期日や払い込み期間の開始よりも前に、申込証拠金として資金を払い込む」ケースがしばしば見られます。例えば次のような場合です。

  • 外国からの送金に時間がかかるため、払込期日前に資金を移動しておきたい
  • 増資後すぐに登記申請をしたいので、事前に資金を振り込んでおく
  • 期日当日の送金だと間に合わないため、余裕をもって払い込みたい

こうした「払込期日前の入金」は、法律上・登記上どのように扱われるのでしょうか。

払込期日前の入金は登記上認められるか

結論から言えば、払込期日前であっても、一定の条件を満たせば登記は受理されます。

これは、会社法や商業登記規則に明示的な規定があるわけではありませんが、実務上の通達や登記審査の運用により確立されています。

登記上は、上記のような理由から引受人が払込期日前に申込証拠金として払込みを行っているという実務的なあり方を反映して、預金通帳における入金記録の日付が払込期日又は払込期間に先立つ場合であっても,登記申請は受理されるとされています。

つまり、払込期日よりも前の日付であっても、実際に引受人から会社の口座に資金が払い込まれていれば、登記申請は可能ということです。

申込証拠金と払込金の関係

ここで重要になるのが「申込証拠金」という考え方です。

用語 意味 会計・登記上の扱い
申込証拠金 株式引受けの申込み時に、将来の払込みに備えて前もって納める資金。形式的には預り金的性質。ただし、貸借対照表上は純資産の部に計上される 払込期日が到来した時点で払込金として転化される。
払込金 引受人が株式を引き受ける際に、払込期日までに会社に払い込むべき出資金。 資本金・資本準備金への計上、登記の対象となる。

事前に払い込まれた金銭は、払込期日までは「申込証拠金」として扱われ、期日が到来した時点で正式な払込金となります。このように法律構成上は二段階ですが、実務上はまとめて扱われることも多く、通帳記載の日付が株主総会などで決めた払込期日や払込期間から外れているというだけで登記が却下されることはありません。

税務上も、払込期日前に入金があった場合、その時点で資本金が増加したとは扱いません。

資本金の増加は、払込期日または払込期間の末日をもって効力が生じると考えられており、法人税の別表記載などもその時点を基準に行います。

例えば増資の場合、以下のようになります。

区分 日付 税務上の資本金額への反映 登記上の取扱い
申込証拠金入金 7月3日 反映されない 通帳記録として登記添付可能
払込期日 7月10日 資本金に反映 払込期日基準で登記
登記申請(増資) 7月15日 期日基準で別表記載 申込証拠金を含めた払込額で登記申請可能

このように、払込期日前の入金があっても、税務・登記の基準日は「払込期日」であることに注意が必要です。住民税の均等割や消費税の課税義務の判定において重要なポイントです。

払込期日前の入金の注意点

払込期日前の払い込みは、実務では便利な反面、いくつか注意点があります。

通帳記録の日付と払込期日の関係を確認する

登記申請時に添付する「通帳コピー」や「払込金保管証明書」に記載される入金日が払込期日前でも、基本的には登記官は受理します。しかし、期日との対応関係が不明確な場合には補正を求められることがあります。例えば、複数回に分けて入金がされている場合や、払込期日が大幅に後の場合には、「申込証拠金としての入金である」ことを説明する書面を添付するなどした方がスムーズです。場合によってはデッドエクイティスワップとして扱われる可能性もあります。

株式申込書・引受書との整合性を取る

払込期日前に入金がある場合でも、引受書や株式申込書の日付が払込期日より後だと、整合性が取れず補正になる可能性があります。実務では、申込書の日付を入金日より前に設定するか、同日にするなど、書類間の整合性を意識することが重要です。

外国送金の場合の為替レートや着金日にも注意

外国人投資家が出資する場合は、海外送金の着金日が払込期日前になるケースも多くあります。この場合、着金日=申込証拠金の入金日と考え、払込期日に資本金に振替える処理を明確に残しておくことが望まれます。

設立後に新たな資金を調達するために増資を行う場合でも、払込期日前に申込証拠金として払い込むことは可能です。実務では、株主総会や取締役会での決議日、払込期日、実際の入金日、登記申請日のタイミングを整理しておくことが重要です。

手続き 日付 内容
増資決議(株主総会または取締役会) 7月1日 募集株式の発行に関する決議を行い、払込期日を7月10日と定める
申込証拠金の事前入金 7月3日 引受予定者が払込期日前に会社口座へ申込証拠金として入金
払込期日 7月10日 申込証拠金が払込金に転化し、正式に資本金・資本準備金に組み入れられる
登記申請 7月15日 通帳コピーを添付し、払込期日前の入金でも登記可能
税務処理・別表記載 7月末 払込期日(7月10日)を基準として資本金の増加を別表に記載

このように、増資の場合も事前入金を活用することで、資金調達と登記スケジュールを柔軟に設計できます。特に複数の投資家が関与する場合や外国送金を伴う場合には、早期着金によって安心して増資手続きを進めることが可能です。

払込期日前の払い込みは、法律上・登記上・税務上それぞれに微妙な扱いの違いがあります。特に払込期日の決定手続や書類の日付関係は、登記補正の原因になりやすいポイントです。当事務所では、会社の増資登記や税務処理に関して、税理士・司法書士の両面から実務対応を行っています。スムーズな増資手続きをご希望の方は、ぜひ当事務所にご相談ください。