Last Updated on 2025年9月27日 by 渋田貴正

合同会社は複数の社員(出資者)が集まり、柔軟に経営できる形態です。
しかし実際には、経営方針の相違や将来の方向性の違いから、共同経営を解消したいと考えることも少なくありません。

ここで大切なのは、解消の場面では「退社する人」と「残る会社側」とで見るべきポイントが異なることです。

合同会社の共同経営の解消方法と会社への影響

合同会社の共同経営を解消する方法は大きく3つです。

  1. 社員の退社と持分の払戻し

社員が会社を退社し、会社がその社員に出資を含めた持分を返還する方法です。
とはいえ在庫や固定資産などを分割するのは会社経営に影響したりそもそも物理的に不可能だったりしますので、持分を現金などで返還する「払戻し」が可能ですが、これは会社の資金繰りに大きく影響します。

  • 会社側のメリット
    残る社員だけで経営を続けられるため、会社自体は存続可能。解散の手間を避けられます。
  • 会社側のデメリット
    払戻し資金を準備する必要があるため、資金繰りを圧迫する可能性があります。特に複数の社員が同時に退社する場合は要注意です。

また、退社社員に対する課税(みなし配当など)は本人の問題ですが、税負担が交渉に影響することも多いため、会社側も理解しておいた方が円滑に進みます。

  1. 持分の譲渡

退社する社員が、自分の持分を他の社員や第三者に譲渡する方法です。
合同会社では、株式会社と違って持分の譲渡には原則として社員全員の同意が必要です。

(持分の譲渡)

会社法 第585条
  1. 社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない。
  2. 前項の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員は、業務を執行する社員の全員の承諾があるときは、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができる。
  • 会社側のメリット
    払戻しのために会社資金を出す必要がなく、資金繰りへの負担を避けられます。
  • 会社側のデメリット
    譲渡先の承認が必須で、残る側が望まない人物が入ってくることを防ぐ必要があります。場合によっては買い取り資金を会社側で用意しなければならず、事実上「払戻し」と同じ負担が生じることもあります。

持分の評価方法(時価か純資産額か)で揉めやすいのも、この方法の特徴です。公平性を確保するために、専門家による評価を行うケースもあります。

  1. 会社の解散

共同経営を根本から解消し、会社を清算する方法です。
全員が合意して解散登記を行い、清算手続きに入ります。

  • 会社側のメリット
    社員間の対立を完全に清算でき、残る・退くといった不均衡を避けられます。
  • 会社側のデメリット
    会社自体がなくなるため、事業を継続したい場合は新たに法人を設立する必要があります。また、解散登記・清算人選任・清算結了と複数の手続きを経るため、手間と時間がかかります。

税務署や都道府県への届出、決算処理なども伴うため、会社側の事務負担は3つの方法の中で最も大きいといえます。

このように「退社と払戻し」「持分の譲渡」「会社の解散」には、それぞれ会社側にとっての実務的な負担やリスクが存在します。
どの方法を選ぶかは、会社の資金状況や今後の事業継続の意向によって変わるため、慎重な検討が必要です。

方法 会社側のメリット 会社側のデメリット 実務負担度
社員の退社と持分の払戻し ・会社は存続できる
・残る社員で経営を続けられる
・払戻し資金の準備が必要
・資金繰りを圧迫する可能性あり
・退社社員の課税負担が交渉に影響
中程度(変更登記+資金対応が必要)
持分の譲渡 ・会社資金を使わずに対応できる場合がある
・会社存続が可能
・全社員の同意が必要
・望まない人物が入るリスク
・評価額を巡りトラブルになりやすい
低〜中程度(登記不要の場合もあるが承認調整が必要)
会社の解散 ・対立を完全に清算できる
・残る/退くの不均衡を解消できる
・会社がなくなるため事業継続不可
・手続きが多く時間とコストがかかる
高(解散登記・清算人登記・税務届出など一連の清算手続きが必要)

合同会社の共同経営解消時の税務上の注意点

税務上の課税は基本的に 退社する社員側に発生 します。
しかし、会社側としても「相手に課税がある=その分、条件交渉が難航する」ことを理解しておく必要があります。

持分払戻しの場合

会社から退社社員に出資を払い戻す場合、戻す金額と出資額との差額によって退社社員に課税が生じます。
課税そのものは社員個人の問題ですが、会社側は「どういう扱いになるか」を把握しておくことでトラブル防止につながります。

出資額 払戻額 退社社員の税務上の扱い 会社側の留意点
出資額と同額 例:100万円出資 → 100万円払戻し 課税なし 資金繰りの負担のみ
出資額より多い 例:100万円出資 → 150万円払戻し 超過分(50万円)は配当課税 社員に課税が生じるため、源泉徴収などの事務が必要
出資額より少ない 例:100万円出資 → 80万円払戻し 差額(20万円)は損失(給与などその他の所得との通算はできない) 損失は社員の自己負担、会社に直接影響なし

持分譲渡の場合

退社社員が持分を他の社員や第三者に売却するケースです。
こちらも課税は退社社員側にかかりますが、買い取る側(残る社員や会社)にとっては「いくらで買うか」が大きな負担になります。

出資額 譲渡額 退社社員の税務上の扱い 会社側の留意点
出資額と同額で譲渡 例:100万円出資 → 100万円譲渡 課税なし 公平感が保ちやすい
出資額より多い 例:100万円出資 → 200万円譲渡 差額(100万円)が譲渡所得 高額買い取りにより会社側の資金繰りに影響
出資額より少ない 例:100万円出資 → 80万円譲渡 差額(20万円)は損失(控除不可) 社員が不満を抱く可能性あり、会社側の説明力が重要

合同会社の持分は株式のように損益通算ができません。そのため、退社社員の税務負担を理解しておくと、交渉の場でスムーズに話を進められます。

合同会社の共同経営解消時の登記上の注意点

登記の申請は会社側の責任です。退社社員が放置しても、会社が正しく対応しなければならない点に注意しましょう。

解消方法ごとの必要登記

解消方法 必要となる登記 会社側の実務負担
社員の退社(払戻し) 代表社員、業務執行社員が退社した場合は「変更登記」 役員変更登記と同様の扱い。放置すると登記簿と実態が不一致に
持分の譲渡 原則登記不要。ただし業務執行社員が変わる場合は「変更登記」 出資割合が変わる場合、定款の修正が必要になることも
会社の解散 「解散登記」「清算人選任登記」「清算結了登記」 税務署や都道府県への届出も必須。煩雑なため専門家の関与が望ましい

会社側は「誰が業務執行社員として残るのか」を早めに決め、登記を怠らないことが重要です。

実務でよくある会社側の課題

ケース1:払戻しにより資金が減少

退社社員に出資を返還するために会社資金が大きく減少。運転資金を圧迫することがあります。資金繰りシミュレーションを事前に行うことが大切です。

ケース2:持分譲渡の価格交渉

退社社員が高額での買い取りを希望し、残る社員が対応できないことがあります。会社としては、適正な評価額を算定し、トラブルを避ける必要があります。

ケース3:解散手続きの煩雑さ

解散を選択した場合、登記と税務署への届出がセットになります。清算結了までに数か月かかることも多く、会社側の負担が大きい手続きです。

例として、会社側が持分払戻しの形で解消を進める手順をかん

  1. 定款を確認し、払戻しや譲渡のルールを把握
  2. 資金繰りや税務影響をシミュレーション
  3. 社員間で解消方法について合意を得る(どうしても合意できなければ弁護士への依頼を検討する必要も?交渉事なので税理士などは対応できない)
  4. 出資評価額を算定し、条件を確定(場合によっては減額交渉も必要)
  5. 法務局で必要な登記を申請
  6. 税務署・都道府県へ必要に応じて届書を提出

この流れを漏れなく行うことが、会社側の安全な運営につながります。

合同会社の共同経営を解消する場面では、退社社員の税務負担、会社の資金繰り、登記の実務が複雑に絡み合います。
会社側としては、社員間の合意形成に加え、実務処理を迅速に行わなければなりません。

当事務所では、税理士と司法書士の両方の立場からサポート可能です。
「退社に伴う資金繰りをどう考えるか」「どの登記が必要か」といった具体的な疑問にもワンストップで対応します。

共同経営の解消を検討されている会社様は、ぜひお気軽にご相談ください。