Last Updated on 2025年9月18日 by 渋田貴正

株式会社の監査役や一般社団法人の監事の役割とは

会社や法人には「経営する人」と「監督する人」が存在します。株式会社では経営を担うのが取締役で、これを監視するのが監査役です。一般社団法人では理事が経営を担い、監事が理事を監督します。

監査役や監事の役割は次のとおりです。

  • 取締役や理事の業務執行が法律や定款に違反していないか確認する
  • 会計処理に誤りがないかチェックする
  • 必要に応じて株主や社員に報告する

つまり、監査役や監事は「経営を監督する立場」であり、取締役のように経営そのものを行うわけではありません。

監査役や監事を置くのは単なる法律上の義務ではなく、会社や法人の信頼性を高めるためでもあります。経営と監督を分けることで、内部統制が整い、外部からも透明性の高い組織と評価されやすくなります。特に融資や補助金の審査では「ガバナンスの体制」が重要視されるため、監査役や監事の存在は経営基盤を支える要素となります。

兼務が禁止されている法律上の根拠

会社法では以下の通り「監査役は取締役を兼ねることができない」と定めています。

(監査役の資格等)

会社法 第335条
  1. 中略
  2. 監査役は、株式会社若しくはその子会社の取締役若しくは支配人その他の使用人又は当該子会社の会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)若しくは執行役を兼ねることができない。

同様に、一般法人法64条でも「監事は理事を兼ねることができない」と規定されています。

(役員の資格等)
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第65条 
次に掲げる者は、役員となることができない。
中略
2 監事は、一般社団法人又はその子法人の理事又は使用人を兼ねることができない。

これは「自分を自分で監査する」という利益相反を防ぐためです。もし兼務が認められると、監督機能が形骸化し、株主や社員の利益が守られなくなります。

株式会社 取締役と監査役の兼務 NG 自分を監査することになるため禁止
一般社団法人 理事と監事の兼務 NG 同上
株式会社 監査役 → 取締役への転任 辞任後は可能 在任中の兼務は禁止だが、退任後の就任は可
株式会社 取締役 → 監査役への転任 辞任後は可能 同上
一般社団法人 理事 → 監事への転任 辞任後は可能 同上
一般社団法人 監事 → 理事への転任 辞任後は可能 同上

登記実務における注意点

登記申請の段階で、監査役や監事と取締役や理事の兼務は認められません。法務局は登記記録を確認し、法律で禁止されている兼務があれば却下します。

特に中小企業や家族経営の法人では「人数が少ないから同じ人が兼務すればよい」と考えるケースがよくあります。例えば、父親を代表取締役、母親を取締役、息子を監査役にしていた会社で、息子を経営に関与させようとして取締役に加えようとしたところ、監査役も兼ねさせようとした結果、登記で却下されることがありました。結局、息子を取締役にするなら監査役を辞任させ、別の人を監査役に選任する必要がありました。

このように、兼務は認められないため、役員の人選を行う段階であらかじめ考慮することが重要です。

長年監査役を務めていた人が取締役になる場合/取締役から監査役になる場合

「監査役を長年務めていた人は取締役にはなれないのか」と疑問に思う方もいます。結論としては、監査役を辞任したうえであれば、取締役に就任することは可能です。法律は「在任中の兼務」を禁止しているのであり、過去に監査役だったこと自体が制限になるわけではありません。

逆に「取締役を長年務めていた人が監査役に就任できるか」というケースもあります。この場合も、取締役を退任した後であれば監査役に就任することは可能です。

ただし、実務上は注意点があります。監査役は取締役を監督する立場にあるため、直前まで取締役だった人がすぐに監査役に就任すると「本当に独立して監督できるのか」という疑問を持たれる場合があります。特に上場会社や大規模法人では、社外監査役を置くことで独立性を確保するのが一般的です。

したがって、中小企業では法律上問題がなくても、外部からの信用や金融機関からの評価を考慮すると、取締役から監査役への転任には慎重さが求められます。

税務における注意点

監査役や監事と取締役・理事の区別は、役員報酬や退職金の税務処理にも関わります。

  • 監査役報酬と取締役報酬は別の役割に基づくものであり、混在させてはならない
  • 退職金を支給する際、監査役と取締役では算定の基準が異なるため、過去の勤務区分を明確にする必要がある

もし法律上認められない兼務を前提に給与設計を行うと、税務署から否認されるおそれがあります。

監査役や監事が取締役や理事を兼務できないのは、会社や法人の健全性を守るための基本ルールです。しかし、実際の登記や役員変更の場面では「誰をどのポジションに配置するか」で迷うことも多いです。当事務所では、登記と税務の両面から最適な役員構成をご提案しています。役員変更や会社設立をお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。