Last Updated on 2025年9月15日 by 渋田貴正

合同会社と株式会社では、出資の区分方法に大きな違いがあります。

合同会社は柔軟性が高く、資本金を1円にしてその他全額を資本剰余金とすることも可能です。ちなみに合同会社では資本準備金という区分自体は存在せず、資本剰余金と利益剰余金で管理します。

一方、株式会社は原則として会社法の制約を受け、設立や株式発行の際には払込額のうち2分の1以上を資本金とし、残りを資本準備金にする仕組みが設けられています。これは出資額の一部を必ず資本金に確保することで、対外的な信用力を保つ目的があります。

第445条
  1. 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
  2. 前項の払込み又は給付に係る額の2分の1を超えない額は、資本金として計上しないことができる。
  3. 前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。

 

合同会社から株式会社への組織変更で資本金はどのように計上されるか

合同会社から株式会社に組織変更する際には、重要なポイントの一つが資本金の引継ぎです。

合同会社が株式会社に組織変更する場合は、会社法445条の「2分の1ルール」がそのまま適用されるわけではありません。組織変更の場面では、会社計算規則34条により特別の扱いが定められています。

持分会社が組織変更をする場合には、組織変更後株式会社の次の各号に掲げる額は、当該各号に定める額とする。

  • 一 資本金の額 組織変更の直前の持分会社の資本金の額
  • 二 資本準備金の額 0
  • 三 その他資本剰余金の額 イに掲げる額からロに掲げる額を減じて得た額
    • イ 組織変更の直前の持分会社の資本剰余金の額
    • ロ 組織変更をする持分会社の社員に対して交付する組織変更後株式会社の株式以外の財産の帳簿価額(組織変更後株式会社の社債等(自己社債を除く。第5号ロにおいて同じ。)にあっては、当該社債等に付すべき帳簿価額)のうち、組織変更をする持分会社が資本剰余金の額から減ずるべき額と定めた額
  • 四 利益準備金の額 0
  • 五 その他利益剰余金の額 イに掲げる額からロに掲げる額を減じて得た額
    • イ 組織変更の直前の持分会社の利益剰余金の額
    • ロ 組織変更をする持分会社の社員に対して交付する組織変更後株式会社の株式以外の財産の帳簿価額(組織変更後株式会社の社債等にあっては、当該社債等に付すべき帳簿価額)のうち、組織変更をする持分会社がその他利益剰余金の額から減ずるべき額と定めた額

この規則に従うと、組織変更後の株式会社における株主資本は次のように計上されます。

  • 資本金 … 組織変更直前の合同会社の資本金をそのまま引き継ぐ
  • 資本準備金 … 0円でスタート
  • その他資本剰余金 … 合同会社の資本剰余金をベースに算定。社員に株式以外の財産を交付した場合は、その帳簿価額分を差し引く
  • 利益準備金 … 0円でスタート

つまり、合同会社時代に資本金が1円、資本剰余金が9,999,999円だった場合、株式会社化しても資本金は1円のまま、資本準備金はゼロ、その他資本剰余金が9,999,999円という形で引き継がれるのです。

「株式会社化したら資本金を必ず500万円以上にして50%以上が資本金でなければならない」というわけではありません。

 

合同会社から株式会社への組織変更後に資本金を厚くしたいときの手段

組織変更直後の資本金が小さいままだと、登記記録は見かけ上少ない資本金となってしまうため、金融機関や取引先からの信用に不利となる場合があります。そのような場合は、組織変更後に次の方法で資本金を厚くすることが可能です。

  • 剰余金の資本組入れ
    株主総会の決議によって、その他資本剰余金から資本金へ振り替えることができます。登記が必要で、登録免許税は増加資本金の0.7%(最低3万円)がかかります。
  • 募集株式の発行
    新たに出資を受けて資本金を増やす方法です。この場合は会社法445条の一般ルールが適用され、払込額の2分の1以上を資本金に計上する必要があります。

例として、合同会社で1,000万円の出資がなされ、資本金1円・資本剰余金9,999,999円としていたケースを考えましょう。

  • 株式会社化直後
    資本金:1円、資本準備金:0円、その他資本剰余金:9,999,999円
  • その後の対応
    信用力強化や融資対応のため資本金を厚くしたい場合、株主総会で剰余金の資本組入れを行い、例えば資本金500万円に変更することが可能です。あるいは新株発行による増資で直接資本金を増やすこともできます。

登記と税務の実務的影響

登記の観点

組織変更の登記申請では、合同会社時代の資本金額をそのまま株式会社の資本金として記載します。資本準備金はゼロとなるため、必要があればその後の剰余金処分で調整します。

また、資本金を厚くするには、剰余金の資本組入れや新株発行に伴う登記を別途行う必要があります。

税務の観点

資本金の額は税負担に直結します。

  • 法人住民税の均等割は資本金と資本剰余金が1,000万円を超えると増加
  • 外形標準課税は資本金1億円超で対象
  • 中小企業向け税制(交際費損金算入や軽減税率など)の可否も資本金額で判定

したがって、組織変更後の資本金設計は、単なる登記上の金額設定ではなく、税務戦略や信用面も踏まえて決定することが重要です。

合同会社から株式会社への組織変更は、登記と税務の両面で専門的な判断が求められます。特に資本金の額は、信用力や税負担に直結するため、事前の設計が欠かせません。

当事務所では、登記手続きはもちろん、資本金設計や税務戦略まで一体的にサポートしています。将来の成長や融資を見据えた最適な組織変更をご希望の方は、ぜひお気軽にご相談ください。