Last Updated on 2025年9月2日 by 渋田貴正
外国会社における「日本における代表者」とは
外国会社が日本で継続的に取引を行う場合には、日本に住所を有する「日本における代表者」を登記しなければなりません。
(外国会社の日本における代表者)
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この規定は、国内の債権者保護のためです。日本在住の代表者がいなければ、債権回収や訴訟を行う際に外国での手続きが必要となり、債権者に大きな負担を与えるからです。
それでは、日本在住の代表者が退任したら外国会社野登記を抹消しなければならないのでしょうか?答えとしては、日本在住の代表者がすべて退任したとしても、直ちに外国会社の登記抹消をしなければならないわけではありません。しかし、日本で引き続き取引を行いたい場合には、新たに日本在住の代表者を選任してその登記が必要となります。
日本在住の代表者の退任方法と事由
外国会社の代表者の退任事由は、日本の会社の代表取締役と同様に特に限定はなく広く認められます。
退任事由 | 内容 | 備考 |
辞任 | 本人が辞任届を提出する | 株主総会や取締役会決議は不要 |
解任 | 外国会社本国の機関が解任決議を行う | 日本法人の解任と同様 |
任期満了 | 任期が終了し再任されなかった場合 | 任期制を設けている場合 |
死亡 | 代表者が死亡した場合 | 自然に退任扱いとなる |
住所喪失 | 日本に住所を有さなくなった場合 | 要件を満たさず退任扱い |
その他 | 会社の解散や合併等に伴う場合 | 状況により発生 |
- 基本的な退任理由は代表取締役と共通しています。
- 外国会社特有の要素として「日本に住所を有する」ことが要件であるため、海外転居で住所を失えば退任事由となります。
外国会社の日本在住の代表者全員が退任する場合の手続き
外国会社において日本在住の代表者が全員退任する場合には、会社法第820条に基づき「債権者保護手続」が必要です。この制度は、代表者が不在となることで国内債権者が不利益を受けないようにするために設けられています。
手続きの最初のステップは公告と催告です。会社は官報に「全ての日本における代表者が退任するため、債権者は一定期間内に異議を申し出ることができる」旨を公告しなければなりません。この公告期間は最低1か月で、短縮することはできません。さらに、公告に加えて「知れている債権者」には個別に通知(催告)を行う義務があります。この点は、株式会社の合併に伴う債権者保護手続と異なり、必ず個別催告が必要になる点が特徴です。
次に、債権者から異議が出された場合の対応です。会社は、異議を申し出た債権者に対し、①債務を弁済する、②相当の担保を提供する、③信託会社に財産を信託する、といった方法で債権者保護を行う必要があります。ただし、会社が十分な信用力を持ち、債権者を害するおそれがないと認められる場合には、これらの措置を省略できるケースもあります。
ここで重要なのは、「全員が退任する場合」にのみ債権者保護手続が必要だという点です。複数名の日本在住代表者がいる場合に、その一部だけが退任するケースでは、債権者保護手続は不要です。少なくとも1名が残っていれば、債権者にとって国内窓口が確保されるため、特別な公告や催告を行う必要はありません。
また、これらの手続きを経なければ、退任登記を申請しても効力は生じません。手続きを怠った場合、代表者には100万円以下の過料が科される可能性があるため、慎重な対応が求められます。
日本在住の代表者が全員退任した場合の登記申請に必要な書類と費用
債権者保護手続が終了した後に、法務局で退任登記を行います。登記をして初めて退任の効力が発生するため、公告や催告を終えただけでは効力は生じません。
登記申請書の記載例は次のとおりです。
- 登記の事由:「全ての日本における代表者の退任のため債権者保護手続終了」
- 登記すべき事項:「全ての日本における代表者退任」
- 添付書類の例
- 官報公告を行ったことを証する官報の写し
- 知れている債権者に催告を行ったことを証明する資料(内容証明郵便の控えなど)
- 債権者から異議があった場合には、弁済・担保提供・信託の事実を証する書面
- 債権者を害するおそれがないことを示す資料(必要に応じて)
これらの添付書類は、不備があると法務局から補正を求められ、登記が長引く原因となります。公告や催告の段階から証拠をきちんと残しておくことが重要です。
費用面では、まず登録免許税が1件につき9,000円かかります。加えて、官報公告の費用が約3万円前後発生します。これに加えて、司法書に依頼する場合には別途報酬が必要です。
期間については、公告期間が最低1か月あるため、全体としてはおおよそ1か月半から2か月程度を要します。債権者から異議が出た場合には、弁済や担保提供などの対応に時間を取られるため、さらに期間が延びる可能性もあります。実務では、債権者の状況を事前に把握しておくことでスムーズに進められるケースが多いです。
日本在住の代表者が全員退任した後の、外国会社が取りうる選択肢
代表者全員が退任する際には、外国会社として「撤退するか」「継続するか」を判断する必要があります。
選択肢 | 必要な手続き | ポイント |
撤退する場合 | ①債権者保護手続 → ②代表者退任登記 → ③外国会社登記の抹消 | 日本での取引を完全終了 |
継続する場合 | ①債権者保護手続 → ②現代表者退任登記 → ③後任代表者の就任登記 | 新しい日本在住代表者を選任すれば取引継続可能 |
例えば、日本支店を閉鎖して完全撤退する場合には、公告・催告を経て退任登記を行い、その後抹消登記を申請する流れになります。一方、日本市場に一定の活動を残す場合には、後任代表者を日本に置き、就任登記を行えば営業を継続することが可能です。
外国会社の日本における代表者退任は、公告・債権者保護手続、登記申請、そして「撤退か継続か」の判断によって流れが大きく異なります。複雑な判断や書類準備が伴うため、専門家の支援を受けることが安全かつ確実です。当事務所では司法書士・税理士として登記から税務処理までワンストップで対応可能です。代表者退任や外国会社の撤退・継続手続きでお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。