Last Updated on 2025年8月20日 by 渋田貴正
日本で合同会社を設立する人は年々増えています。合同会社は「日本版LLC」と呼ばれることもあり、低コストで設立できる上、経営の自由度が高いことから注目を集めています。実際、法務省の統計でも合同会社の新設数は毎年増加傾向にあり、スタートアップや海外事業を目指す方に選ばれることが多くなっています。
一方、アメリカにもLLC(Limited Liability Company)という似た仕組みがありますが、税務や登記の制度には大きな違いがあります。特にアメリカのLLCには「Disregarded Entity(無視される事業体)」という独特の税務上の扱いがあり、日本の合同会社と同じ感覚で利用すると思わぬ課税トラブルになることがあります。
日本の合同会社とは
日本の合同会社は、会社法に基づく法人の一形態です。設立コストが低く、株式会社よりも手続きが簡単なことから、近年人気が高まっています。特に個人事業主が法人化する場合や、海外事業の拠点として選ばれるケースも増えています。
合同会社の最大の特徴は「社員が有限責任を負う」点です。つまり、会社が負債を抱えても出資額を超えて個人が責任を負うことはありません。これはリスクを限定しつつ、法人格を持ってビジネスを進められる大きなメリットです。
また、登記を行うことで法人格を取得します。法人格を持つことで、会社名義で不動産を登記したり契約を結んだりすることが可能になります。税務上は法人として扱われ、法人税や消費税などを会社単位で申告・納税する義務があります。
アメリカのLLCとは
アメリカのLLC(Limited Liability Company)も、日本の合同会社と同様に出資者が有限責任を負う会社形態です。設立が比較的容易で、中小規模のビジネスに適している点は共通しています。
しかし大きな違いは、税務上の扱いが柔軟であることです。アメリカのLLCは課税の仕組みを選択でき、以下のようなパターンがあります。
- 複数の出資者がいる場合:パートナーシップ課税(構成員課税)
- 1人出資の場合:Disregarded Entityとしてオーナー個人の所得と一体化
- 選択によりC Corporation課税を受けることも可能
このように、LLCは事業内容や投資戦略に応じて課税方法を柔軟に選べる点が、日本の合同会社との大きな相違点です。また、出資者の人数次第では個人課税になるなどの違いがあります。
Disregarded Entityとは
アメリカLLCのうち、特に単独出資の場合に自動的に適用されるのが「ディスリガーデッドエンティティDisregarded Entity(無視される事業体)」という考え方です。これは税務上は会社を存在しないものとみなし、オーナー個人の所得として申告する仕組みです。
例えば、日本人がアメリカで100%出資のLLCを設立した場合、特別な選択をしなければ自動的にDisregarded Entity扱いとなります。この場合、米国での家賃収入や事業収入はLLCの所得ではなく、オーナー個人の所得としてIRS(アメリカ国税庁)に申告する必要があります。
一方、日本の合同会社にはDisregarded Entityという制度はなく、必ず法人自体が課税主体となります。そのため、米国LLCを利用する際には「日本の合同会社と同じ感覚で扱うと誤解が生じる」ことに注意が必要です。
日本の合同会社とアメリカのLLCの違いを比較
以下に、日本の合同会社とアメリカLLCの違いを整理しました。
項目 | 日本の合同会社 | アメリカのLLC |
法的地位 | 独立した法人格 | 各州法に基づく法人格 |
税務上の扱い | 法人税の課税主体 | 選択制(法人課税/パススルー課税) |
Disregarded Entity | 制度なし | 単独出資の場合に原則適用 |
設立手続 | 法務局で登記 | 州に登録 |
利益配分 | 定款に基づく | 柔軟に設定可能 |
この比較からも、日本の合同会社は「法人課税が原則」であるのに対し、アメリカLLCは「税務上の扱いを選択できる」点が最大の違いです。
日本の合同会社で海外事業を行う場合の注意点
日本で合同会社を設立し、海外事業を展開するケースも増えています。例えば、日本法人として合同会社を立ち上げ、アメリカやアジアで子会社や現地拠点を持つパターンです。
この場合、合同会社自体は日本の法人税法に基づいて課税されます。海外で得た所得は、原則として日本本社の合同会社に帰属します。そのため、海外現地法人やLLCとの取引関係をどう設計するかによって、日本での課税額が変わる可能性があります。
特に、アメリカLLCを利用する場合には、LLCがDisregarded Entity扱いとなるか、法人課税を選択するかで日米の課税関係が大きく変わります。二重課税防止条約の適用や外国税額控除の活用が必要になるケースも少なくありません。
海外事業を行う際に誤解が生じやすいポイントは次のとおりです。
- LLCを合同会社と同じと考えてしまう
→ 登記や法的地位は似ていても、税務上は全く別物。 - Disregarded Entityを見落とす
→ 単独出資のLLCは自動的にオーナー課税。日本での申告に影響する。 - 二重課税のリスク
→ 日米両方で課税対象となる場合、外国税額控除を活用しなければ税負担が増える。
これらは個人で判断するのが難しい分野であり、専門家のアドバイスを受けながら進めることが安心につながります。
日本の合同会社とアメリカLLCは一見よく似ていますが、税務の仕組みや登記制度には大きな違いがあります。特に海外事業を検討される方にとって、LLCのDisregarded Entity制度は避けて通れないテーマです。
当事務所では、合同会社の設立登記から海外LLCとの税務関係まで、司法書士と税理士の両面からサポート可能です。国際的なビジネスを安心して進めたい方は、ぜひ当事務所にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。