Last Updated on 2025年8月16日 by 渋田貴正

インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、消費税の仕入税額控除を受けるための新しい仕組みです(消費税法30条7項)。
原則として「適格請求書(インボイス)」を保存しなければ仕入税額控除は認められません。

しかし実務上は、すべての取引でインボイスを受け取るのが困難な場面があります。そこで法律は、特定の条件に該当する場合に限り、インボイスの保存を免除する「特例」を設けています。

特例には大きく分けて 「金額基準による特例」 と 「業種や取引形態による特例」 の2種類があります。

  • 金額基準の特例 は、1万円や3万円といった取引金額の少額性を理由にインボイス保存を不要とするものです。小規模事業者の1万円未満特例や、公共交通機関・自販機購入の扱いが代表例です。

  • 業種基準の特例 は、古物商や宅建業者など、その事業の性質上インボイスを受け取ることができないケースに限定して設けられています。こちらは金額にかかわらず帳簿保存で控除が可能となるのが特徴です。

この記事では、まず金額基準による特例を整理し、その後に業種や取引形態による特例についてもわかりやすく紹介します。

インボイス制度における小規模事業者とは?

インボイス制度上の「小規模事業者」とは、

  • 基準期間(2期前)の課税売上高が1億円以下、または
  • 特定期間(前年上半期)の課税売上高が5,000万円以下

のいずれかに該当する事業者を指します。

小規模事業者の場合、1万円未満の課税仕入れについては帳簿保存のみで控除可能 という特例があり、事務負担を軽減できる点が大きなメリットです。

小規模事業者に該当する場合の保存義務一覧

金額基準 対象取引 理由
1万円未満 課税仕入れ全般 小規模事業者に対する事務負担の軽減のための特例です。ただし、2029年9月30日までの経過措置となっています。
1万円未満 公共交通機関の運賃(電車・バス・タクシー等) 電車やバス、タクシーなどの運賃は少額かつ日常的に発生するため、すべてにインボイスを発行・受領するのは実務上困難です。そのため、切符や領収書の保存で足りるとされています。
3万円未満 自販機・自動サービス機による購入 自動販売機や券売機ではインボイスの交付が制度的に難しく、取引金額も比較的少額であることから、インボイス保存を免除する合理性があります。購入時のレシートや機械操作記録で足ります。
3万円未満 不特定多数出荷者からの農林水産物の購入 青果市場や漁港などの取引は、出荷者が多数で特定困難なうえ、即時決済・現金取引が一般的です。取引ごとにインボイスを発行するのは実務に適さないため、特例として保存不要とされています。
金額問わず 免税事業者との取引 本来はインボイスを発行できない免税事業者との取引は仕入税額控除できません。ただし、制度導入時の影響を緩和するため、2029年9月まで段階的に控除を認める経過措置が設けられています(80%→50%→0%)。

小規模事業者に該当しない場合の保存義務一覧

金額基準 対象取引 理由
1万円未満 公共交通機関の運賃 電車やバス、タクシーなどの運賃は少額かつ日常的に発生するため、すべてにインボイスを発行・受領するのは実務上困難です。そのため、切符や領収書の保存で足りるとされています。
3万円未満 自販機・自動サービス機による購入 自動販売機や券売機ではインボイスの交付が制度的に難しく、取引金額も比較的少額であることから、インボイス保存を免除する合理性があります。購入時のレシートや機械操作記録で足ります。
3万円未満 不特定多数出荷者からの農林水産物の購入 青果市場や漁港などの取引は、出荷者が多数で特定困難なうえ、即時決済・現金取引が一般的です。取引ごとにインボイスを発行するのは実務に適さないため、特例として保存不要とされています。
金額問わず 免税事業者との取引 本来はインボイスを発行できない免税事業者との取引は仕入税額控除できません。ただし、制度導入時の影響を緩和するため、2029年9月まで段階的に控除を認める経過措置が設けられています(80%→50%→0%)。

上記のようにインボイスの保存義務が免除されている取引については、会計ソフトの摘要欄やメモ機能などを使って、支払った相手先、支払った内容を記録しておく必要があります。

インボイス制度における業種や取引形態による特例

領収書に書かれた金額によって決まる金額基準以外にも、業種の特性や取引の性質を考慮した特例があります。代表的なものを以下にまとめます。

対象業種 特例内容 なぜ特例が認められるのか
古物商(リサイクルショップなど) 一般消費者や免税事業者からの中古品仕入れでも、帳簿保存で仕入税額控除100%可能 一般消費者や免税事業者から中古品を仕入れる場合でも、帳簿に相手先の氏名や品目、取引日などを正確に記録していれば、仕入税額控除を100%行うことができます。これは、中古品の流通は個人からの取引が多く、インボイスを求めることが実務的に困難であるため、帳簿保存のみで認められているのです。
質屋 質流れ品の取得について、帳簿保存で仕入税額控除可能 質流れ品を取得する場合についても、帳簿保存により仕入税額控除が可能です。これは、質流れ品は消費者との取引が中心であり、インボイスの交付を受けることができない事情があるため、特例的に帳簿保存で足りるとされているのです。
宅地建物取引業者 個人からの中古住宅購入について、帳簿保存で控除可能 個人から中古住宅を購入する場合でも、帳簿に必要事項を記載していれば仕入税額控除が可能です。個人が売主の場合はインボイスを交付する義務がなく、業者側でインボイスを受けられないため、帳簿保存での控除が特例的に認められているのです。
郵便切手・印紙の購入 インボイス交付不要。帳簿保存で控除可能 郵便局などで切手や印紙を購入する場合、インボイスの交付は不要とされており、帳簿に取引内容を記録すれば控除できます。これは、切手や印紙の販売は公的性格を持つ特殊な取引であり、インボイスを発行しないことが制度上認められているためです。
金融取引(外国為替等) 取引形態上インボイス交付が不可能なため、帳簿保存で控除可能 外国為替などの金融取引では、取引の性質上インボイスの交付が不可能です。そのため、帳簿に内容を明確に記録しておけば仕入税額控除が可能です。金融取引は証券会社や銀行を介して行われるため、取引履歴を帳簿に保存することで十分とされているのです。

事例1:古物商の場合

中古品を買い取るリサイクルショップが、個人から5万円の家電を買い取ったとします。
相手は消費者であり、インボイスを発行できませんが、古物商の特例により帳簿保存だけで仕入税額控除100%が認められます。

事例2:宅建業者の場合

宅地建物取引業者が、個人から中古住宅を購入した場合も同様です。インボイスがなくても帳簿保存で控除が可能です。

これらは、事業の性質上インボイスを受け取れないことが通常であるために設けられた合理的な特例といえます。

インボイス制度は「金額基準の特例」と「業種ごとの特例」が複雑に絡み合っており、判断を誤ると仕入税額控除を受けられないリスクがあります。
特に小規模事業者特例や古物商特例などは、期限や対象範囲を誤解すると税務調査で否認される可能性があります。

当事務所では、インボイス制度に精通した税理士が、取引内容に応じた正確なアドバイスと帳簿管理の支援を行っています。
「うちの取引は特例が使えるのか」「インボイスを受け取れなかった場合どうすればいいのか」といった疑問をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。