Last Updated on 2025年8月13日 by 渋田貴正
マイクロ法人とは?どこがお得に見えるのか
「マイクロ法人」とは、社長1人やごく少人数で運営する小さな会社を指す通称です。よくある使い方は、個人事業は続けつつ、別に小さな法人を作り、個人事業主から外注費としてその会社に多少の支払いを行い、それを原資に会社側で役員報酬を低めに設定して社会保険(健康保険・厚生年金)に加入するというパターンです。
健康保険の適用事業所は、法人の事業所が広く強制適用とされています。厚生年金も法人の事業所は適用事業所とされ、保険料は会社と本人で折半します。そのため、少額といえど役員報酬を支払えば会社での健康保険や厚生年金保険の加入者となり、個人事業主として国民健康保険に加入する必要はなくなります。
マイクロ法人がお得なケース
ケース別の比較:年商が低い時/高い時
以下は概算です。控除は最小限(基礎控除のみ)とし、健康保険は東京都9.98%・厚生年金18.3%、住民税は概ね10%で簡便計算します。介護保険や各種所得控除・扶養控除等は考慮していません。
前提①:年商800万円・経費400万円(利益400万円)
A. マイクロ法人+個人事業:マイクロ法人で年108万円の役員報酬(≒月9万円)を支給して社保加入。個人側で事業利益400万円を計上。
B. 法人一本化:すべてを1社にまとめ、年240万円の役員報酬を支給。
<概算比較(円)>
・国税(所得税) A:約352,000 B:約39,000
・住民税 A:約347,000 B:約35,000
・社会保険合計 A:約305,000 B:約679,000(労使合計)
・法人税(概算30%)A:0 B:約378,000
・合計負担 A: 約1,004,000 / B: 約1,131,000
この前提では、年商が小さい局面ではマイクロ法人のほうが総負担がやや軽くなります(約13万円差)。
前提②:年商3,000万円・経費1,200万円(利益1,800万円)
A. マイクロ法人+個人事業:マイクロ法人の役員報酬は同じ年108万円。個人側で事業利益1,800万円。
B. 法人一本化:すべてを1社にまとめ、年800万円の役員報酬を支給。
<概算比較(円)>
・国税(所得税) A:約4,370,000 B:約14,000
・住民税 A:約1,747,000 B:ほぼ0
・社会保険合計 A:約305,000 B:約2,262,000(労使合計)
・法人税(概算30%)A:0 B:約2,660,000
・合計負担 A: 約6,422,000 / B: 約4,938,000
年商・利益が大きくなると、個人側の超過累進課税が効いてくるため、法人一本化のほうが総額で有利になりやすいです。法人側では役員報酬の設計や留保利益の活用で全体最適を図れます。
なぜ年商が大きくなると、マイクロ法人よりも法人一本化のほうが全体最適になりやすいかといえば、そもそもマイクロ法人スキームは、個人事業の利益を個人に残しつつ、別に小さな法人で最低限の役員報酬を支給して社会保険に加入する発想だからです。ところが年商(=利益)が大きくなるほど、個人側の所得に対して超過累進課税が強く効き、税率が段階的に上がっていきます。結果として、個人に利益を残す設計は不利になりやすく、法人に利益を移して設計する「一本化」のほうが総額を抑えやすくなります。
また、税金や社会保険料のことに目が行きがちですが、金融機関や取引先は、規模・継続性・BSの厚みを重視します。一本化して規模感が見える決算を積み上げるほうが、与信や採用での信頼が得やすく、結果として事業の選択肢が広がります。マイクロ分割は、スモールメリット(社保の一時的最小化)と引き換えに、スケールに必要な信用のストーリーを弱める副作用があります。
以上を総合すると、年商が伸びるほど「個人で受け取る所得」を膨らませる設計は不利になりやすく、「法人で稼ぎ、役員報酬は必要十分に、残りは法人に留保して将来の投資や退職金原資に回す」という一本化の考え方が、税・社保・実務・信用のすべてで合理的になっていきます。
事業を中長期で大きくしていきたい方には、マイクロ法人のような細かな“節約テクニック”よりも、一本化したシンプルな体制をおすすめすることが多いです。法人でしっかり稼ぎ、必要な役員報酬は定期同額で適正化し、残りは法人に留保して次の投資や人材採用に回す――このほうが、税金と社会保険の合計負担をコントロールしやすく、銀行や取引先からの見え方も良くなります。
もちろん、創業直後や売上がまだ小さい間は、マイクロ法人の考え方が役立つ場面もあります。ただ、売上が伸びてきたタイミングでは、複雑さや管理コスト、説明コストのほうが上回りやすくなります。スピード感を持って成長させるなら、早めに一本化の分岐点を試算し、経営資源を“成長の打ち手”に集中させることが結果として近道になるでしょう。
当事務所では、会社の設立・変更登記や、社会保険の適用・手続、役員報酬設計、当事務所では登記と税務をワンストップで設計・実行いたします。現在の売上・費用・目標年収をお知らせいただければ、最短で「いちばん得な形」を具体的な数字でご提案します。どうぞお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。