Last Updated on 2025年8月4日 by 渋田貴正

「友人と始めた合同会社だけれど、人間関係がうまくいかなくなった」
「体調の都合で経営から退きたい」
「自分が代表社員のままではリスクが大きい」

そんな悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。

合同会社では、社員(出資者)が業務を執行し、その中から会社を代表する「代表社員」が選ばれます。複数名で出資して設立した合同会社でも実質的に1人が業務執行を担っているケースでは、「代表社員を辞任したいけれど後任がいない」という状況が起こりがちです。

合同会社では、「社員全員が出資者かつ経営者」という原則のもと、会社の内部運営を柔軟に構築できます。一方で、代表者が1人しかいないような構造では、その代表者が辞任することで会社が停止してしまうというリスクも抱えています。

株式会社のように「代表取締役権利義務者」や「一時代表取締役」の制度がない理由は、合同会社が基本的に社員間の合意によって自由に運営される会社形態だからです。
代表の変更・辞任・選任などは社員の話し合いと定款に基づいて進めるべきとされており、国による保護(裁判所選任)を前提としない構造となっています。

合同会社の代表社員は辞任できる?

結論から言えば、合同会社の代表社員も辞任することは可能です。
ただし、代表社員の選任方法に応じて手続きの要件が異なるため、まずは定款を確認する必要があります。

代表社員の選任方法 辞任の扱い
定款で「○○が代表社員」と定めている場合 定款変更が必要(原則として総社員の同意)
定款で「社員の互選で定める」と記載されている場合 辞任の意思表示のみで足りる(登記実務上も可)

定款で明示された代表社員は、「定款変更」という形式的手続が必要になります。一方、互選による代表社員であれば、意思表示による辞任が可能ですが、他の社員との合意形成は実務上不可欠です。

代表社員の辞任後、後任がいないとどうなる?

代表社員が辞任すると、会社には新たな代表社員が必要になります。代表者がいないまま放置すると、次のような支障が発生します。

  • 法務局への登記ができない
  • 銀行口座の使用や変更ができない
  • 税務申告書の署名者がいない
  • 契約書に代表者として署名できない
  • 清算手続も進められない

特に合同会社では、株式会社と違い「代表者不在でも旧代表が暫定的に権利義務代表取締役として業務を続けなければならない」という制度がないため、代表者が欠けた時点で事実上会社が機能停止するリスクがあります。

業務執行社員が残っていれば自動的に代表社員になるの?

ここで注意すべきなのは、「代表社員が辞任すれば、残っている業務執行社員が自動的に代表社員になるのでは?」という誤解です。

これは一部の場合のみ該当し、常に自動的に代表権が移るわけではありません。

状況 代表権の扱い
業務執行社員が1人だけになる場合 その者が自動的に代表社員とみなされる(定款の趣旨により)
業務執行社員が2人以上残る場合 自動的に代表にはならない。あらためて代表社員を選任する必要がある

つまり、たとえ業務執行社員が存在していても、代表社員を誰とするかは会社の意思によって決定されるべきであり、「たまたま残ったから代表になる」という考え方は否定されています。

株式会社との違い:権利義務者制度がない

株式会社では、代表取締役が辞任しても、後任が就任するまで「代表取締役権利義務者」として地位が継続します。

しかし、合同会社にはこのような制度は存在しません。

項目 合同会社 株式会社
代表辞任後の処理 直ちに代表者不在となる 権利義務者として継続(会社法第351条)
自動的な代表権の移行 原則なし(一人だけになった場合を除く) 権利義務者により業務継続可能
裁判所による対応制度 一時代表社員の制度なし 一時代表取締役を裁判所が選任可能
登記への影響 2週間以内に変更登記が必要 後任選任後に登記変更するのが一般的

合同会社では、代表者不在が即座に実務トラブルにつながるという点で、より注意が必要です。

辞任したいときの実務的な対応策

代表社員を辞任したい場合、次のような対応が検討されます。

方法 内容 補足
他の社員に代表権を付与 互選などで代表社員を選定 社員間の合意形成が必要
新たな社員を加入させて代表に 家族・知人等を社員にして代表権を与える 同時に登記必要
解散・清算する 継続が困難な場合 解散登記・税務署届出等
後任決定まで辞任を留保 信頼できる後任が見つかるまで辞任を先延ばし 法的には有効な対応

代表社員が辞任した場合は、2週間以内に登記の変更申請が必要です(商業登記法第915条)。
登記が遅れると、過料(罰金)を科されることがあります。

また、税務署には「法人代表者の変更届出書」の提出も必要です。変更がなければ、法人税や消費税の申告書の署名欄に不備が生じ、受理されない可能性があります。

代表社員辞任は制度理解が不可欠

合同会社では、代表社員が1人しかいないことも多く、その辞任は会社にとって大きな影響を及ぼします。

しかも、株式会社のような「権利義務者」や「一時的な裁判所選任代表」の制度がないため、代表者不在=会社の停止という構造になりがちです。

さらに、定款による選任方法や業務執行社員の残数によって、代表権の移行の有無や手続きが変わるため、会社の状況ごとに適切な対応が必要です。

当事務所では、合同会社の代表社員の辞任や後任の選定、定款確認・変更、登記申請、税務署への届出など、実務のすべてをワンストップでサポートしております。

「辞任したいけど、どう進めればよいか分からない」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。あなたの会社と立場に応じて、最適な手続きをご提案いたします。