Last Updated on 2025年7月30日 by 渋田貴正
これから会社を設立し、越境ECなどで海外に商品を販売したいと考えている方にとって、「輸出免税」という制度は聞き慣れないかもしれません。この言葉は聞きなれないかもしれませんが、いわゆる消費税の還付に関する言葉です。
この制度を正しく活用できれば、日本国内で支払った消費税を大幅に抑えることができます。
特に、事業立ち上げ当初に通関や輸送業務を商社などに外注する場合には、「輸出免税の適用を受けられない」リスクもあるため注意が必要です。
輸出免税とは?基本的な仕組み
輸出免税とは、日本国内で仕入れた商品を海外に販売(輸出)した場合、その売上にかかる消費税が免除される制度です。これは特に越境ECビジネスを行う方にとって大きなメリットとなりますが、以下のような要件を満たす必要があります。
要件 | 内容 |
1. 実際に国外に貨物を輸出していること | 貨物が日本から外国へ出荷されている事実があること |
2. 所定の証明書類の保存 | 輸出許可書、輸出申告書の原本などの保存が必要 |
3. 取引の性質が「輸出取引」であること | 国内での役務提供等は該当しない |
設立したばかりの会社が商社等を介して海外に商品を送る越境ECを行うケースでは、特に輸出許可を受けたのが誰かということで免税の権利を持つのかが複雑になることがあります。
商社や輸出代行業者を通じた輸出では注意が必要
たとえば、A社という会社を設立し、海外の顧客に製品を販売するとします。通関や船積み手続きは、経験豊富な商社B社に委託することになるでしょう。輸出申告書や送り状はB社の名義になりがちですが、実際の売買契約はA社と顧客の間で締結され、代金もA社が受け取ります。
このような取引では、実質的な輸出者はA社なのに、税務上はB社が輸出免税の適用主体と見なされる可能性があり、要件を満たさないと、どちらも免税を受けられないという事態に陥ることもあります。
実質的輸出者が免税を受けるための条件とは?
事業を始めたばかりで、通関や輸送は商社に頼らざるを得ないという方も多いでしょう。そのような方が、輸出免税の恩恵を受けるためには、一定の条件をクリアする必要があります。国税庁では、以下のような取扱いを認めています。
実質的輸出者=A社が行うべきこと
対応内容 | 解説 |
輸出申告書の原本を保存 | 輸出実績の証拠として最重要 |
「輸出免税不適用連絡一覧表」の交付 | 商社B社に書面で「免税は当社が適用する」ことを伝える |
経理処理の確認 | 商社B社には当該取引を自社の売上・仕入に計上しないよう依頼する |
商社B社=輸出許可証上の名義人が行うべきこと
対応内容 | 解説 |
「輸出免税不適用連絡一覧表」の写しの保存 | 輸出免税の誤適用を避けるために必要 |
委託手数料の処理 | 国内取引として課税対象になります |
「輸出免税不適用連絡一覧表」とは?越境取引で必須となる税務書類
創業間もない時期において、商社などを頼りに輸出を行う場合、この「輸出免税不適用連絡一覧表」は非常に重要な書類となります。
この一覧表は、実質的な輸出者が免税の適用主体であることを明示し、名義貸しにあたる商社等には免税の適用がない旨を正式に伝えるものです。
具体的には、取引日、商品名、金額、相手国などの情報を一覧にし、商社に交付します。商社側はその写しを確定申告時に所轄税務署へ提出することで、輸出免税を主張しないことが税務上も確認される仕組みです。
つまり、実際に商品を販売し、輸出申告書の原本を保管しているあなたの会社が、正しく輸出免税を受けるために必要な「証明書類」の一部なのです。
さらに重要なのは、この一覧表が「二重控除・二重免税の防止措置」であるという点です。
たとえば、実質的な輸出者であるあなたの会社と、輸出申告名義人である商社の双方が、それぞれの立場で「自分が輸出免税の適用対象である」として処理をしてしまうと、同一の取引について消費税の控除や還付を二重に申告する事態が生じかねません。
そのため、「輸出免税不適用連絡一覧表」によって、免税を受ける者・受けない者を明確に線引きすることで、実務上のトラブルや税務否認を未然に防ぐ仕組みが設けられているのです。
もし上記の手続きを行わずに放置しておくと、免税を受けるべきあなたの会社が受けられないばかりか、商社側も免税の証拠がなく、双方が課税されてしまうという事態になります。
「創業したばかりでよく分からずに商社に任せてしまった」という言い訳は通用せず、税務署から追徴課税を受ける可能性もあるため、正確な事前対応が非常に大切です。
これから越境ECや海外輸出を始める予定の方、すでに会社を設立して商社と輸出取引を始めようとしている方にとって、消費税の輸出免税は、事業の収益性に大きく関わる非常に重要なテーマです。
「自分が免税を受けられるのか?」「どの書類を保存すべきか?」といった疑問は、事前に整理しないと損をする可能性もあります。
当事務所では、会社設立のサポートから、輸出免税の適用判断、帳簿・証憑の整備、契約書チェックまで一貫してご支援しております。越境ECに本気で取り組みたい方は、ぜひ当事務所にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。