Last Updated on 2025年7月23日 by 渋田貴正
不動産の売買を検討している際に、登記簿上の所有者がすでに解散した会社であった、というケースは決して珍しくありません。特に被相続人が会社を経営していたケースや土地開発、再開発事業などではよくあるパターンです。
こうした場合、どのように所有権移転登記を行えばよいのでしょうか。状況に応じて必要な手続が大きく異なりますので、以下に分類して詳しくご説明します。
清算中の会社で、清算人が現存している場合
会社が解散した後も、清算人が選任されており、清算結了登記がまだされていない場合には、清算人に登記申請の権限があります。
この場合の手続きは比較的シンプルです。清算人と買主が共同で所有権移転登記を申請し、必要な添付書類を整えれば、通常の売買と同様に進められます。
状況 | 手続き | 登記申請に必要な代表者 |
清算中で、清算結了前 | 清算人が売買契約を締結 | 清算人 |
清算人との売買は完了しているが、登記が未了のまま清算結了してしまった場合
このケースは意外に多く見られます。売買契約は清算人と締結済みであっても、その後に清算結了登記が完了し、会社の登記簿が閉鎖されてしまったというものです。
このような場合、実は「清算結了の登記の抹消」は不要です。清算人の名前で、便宜的に所有権移転登記を申請することが認められています。
ただし、添付書類が少し特殊になります。会社の印鑑証明書が取得できないため、代わりに以下の書類を添付します。
- 清算人個人の印鑑証明書(市区町村長発行)
- 会社の閉鎖登記事項証明書
状況 | 手続き | 添付書類の特徴 |
売買は清算中に実施、登記が未了で清算結了済 | 清算人名義で登記可能(抹消不要) | 印鑑証明書は個人名義で代用 |
③ 清算結了後に売買契約を締結したい場合
最も注意が必要なのがこのパターンです。会社の清算がすでに結了しており、登記簿が閉鎖されている状態では、法人格自体が消滅しており、もはや不動産の売買契約を締結することはできません。
このような場合には、錯誤を理由として「清算結了登記の抹消」を申請し、法人格を一時的に復活させる必要があります。清算結了が誤って申請された、あるいはまだ未処理の不動産が残っていた等の事情が要件になります。
清算人が死亡・行方不明の場合は、家庭裁判所で新たな清算人を選任してから登記を進めることになります。
状況 | 手続き | 特記事項 |
清算結了後に売買契約を結びたい | 清算結了登記を錯誤で抹消後、清算人を復活させて売買契約 | 清算人が不在なら選任手続が必要 |
④ 解散後の法人を事業目的で復活させる場合(会社継続)
売買ではなく、会社を再度事業継続させる目的で復活させる場合は「会社継続の登記」を行う必要があります。この場合は「清算事業」ではなく、「会社の継続」になるため、通常の会社に戻すことになります。
ただし、この手続きには注意点があります。
- みなし解散の場合、継続登記できるのは解散日から3年以内(会社法472条1項)
- 旧代表者の地位は復活しないため、新たに代表取締役等を選任し登記する必要がある
これは売買契約のためだけに行うにはやや大がかりな手続きですので、目的が「不動産の処分」だけであれば清算人の手続で対応するほうが現実的です。
まとめ表:清算会社の不動産売買における登記対応早見表
状況 | 必要な登記手続 | 清算人の扱い | 備考 |
清算中・清算結了前 | 通常の売買と同様 | 現在の清算人で可 | 登記簿は閉鎖されていない |
売買済だが清算結了済 | 便宜的に登記可 | 清算人の個人証明書を使用 | 抹消登記不要 |
清算結了後に売買予定 | 清算結了登記の抹消 | 清算人の復活または選任 | 手続が複雑 |
会社事業の継続目的 | 会社継続の登記 | 新たな代表者が必要 | 解散から3年以内のみ可 |
会社が解散・清算されたからといって、必ずしも不動産の売買ができないわけではありません。しかし、そのまま登記ができる場合と、法人格や清算人を復活させる手続きが必要な場合とがあります。
当事務所では、清算中・清算結了後の法人に関する登記や売買に関する手続きを多く取り扱っております。手続きの可否や、どのルートを選べばよいかお悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。税理士・司法書士として、適切な登記・税務処理を一貫してサポートいたします。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。