Last Updated on 2025年7月12日 by 渋田貴正
日本に住んでいる方が、海外に所有する不動産を売却した場合、その売却益に対して日本で課税される可能性があります。ただし、課税されるかどうかは、その人の「居住者区分」や「送金の有無」などによって大きく異なります。
この記事では、永住者・非永住者・非居住者に分けて、それぞれの課税関係をわかりやすく解説します。
居住者区分による海外不動産売却に伴う課税の違い
海外の不動産を売却して得た所得(譲渡益)が日本で課税されるかどうかは、居住者区分によって異なります。
区分 | 定義 | 海外不動産の譲渡益の課税 |
永住者 | 日本に住所があり、かつ過去10年のうち5年以上日本に居住していた人 | 課税される(全所得課税) |
非永住者 | 日本に住所はあるが、過去10年以内に日本に居住していた期間が5年未満 | 送金・国内支払がある場合に課税 |
非居住者 | 日本に住所も居所もない人 | 課税されない |
【ケース1】永住者がオーストラリアの不動産を売却した場合
日本に来て6年目となるオーストラリア市民の方が、シドニーに所有していた土地を3,000万円で売却し、600万円の譲渡益を得たケースです。
日本での課税関係:
- この方は「永住者」に該当します。
- 永住者は「全世界所得」が日本での課税対象となるため、オーストラリアの土地売却益も日本で課税されます。
- 譲渡益は申告分離課税で、所有期間が5年超であれば長期譲渡所得として軽減税率が適用されます。
ここで問題になるのが、オーストラリアでも税金が課税される場合の二重課税の調整についてです。
オーストラリアでの課税との関係:
- 日豪租税条約第13条により、不動産がある国(オーストラリア)でも課税されます。
- オーストラリアで課税された場合でも、日本の確定申告時に外国税額控除を適用することで、二重課税の調整が可能です。
【ケース2】非永住者がフランスの不動産を売却した場合
フランス人会社員が日本での勤務のために来日して3年目。日本滞在は今回が初めてで、フランスのリヨンに所有していた土地・建物を5,000万円で売却し、譲渡益として800万円を得る予定です。
日本での課税関係:
- この方は「非永住者」に該当します。
- 非永住者にとって海外不動産の譲渡益は「国外源泉所得」となり、以下の場合に限って日本で課税されます
- 譲渡代金が日本国内で支払われた場合
- 譲渡益とは無関係であっても、国外から日本への送金があった場合
送金課税の注意点:
- 送金の内容が譲渡益でなくても、自己資金からの送金であっても、日本での課税対象となる可能性があります。
- 課税の対象となる送金額の計算方法は、所得税法施行令第17条第4項に基づき算出されます。
フランスでの課税との関係:
- 日仏租税条約第13条により、フランスの不動産売却益については、フランスで課税することが可能です。
- 日本で申告が必要となる場合には、フランスで支払った税額を外国税額控除として調整することができます。
文中ではオーストラリアやフランスを例に挙げていますが、これらの内容は多くの国に共通する国際課税の基本的な考え方に基づいています。たいていの国との間では、上記と同じように課税が決まります。
永住者・非永住者・非居住者の比較をまとめると以下の通りです。
区分 | 譲渡益の課税有無(国外不動産) | 備考 |
永住者 | 課税される | 全世界所得課税 |
非永住者 | 国内支払・送金がある場合に課税 | 自己資金からの送金も課税対象になる可能性あり |
非居住者 | 課税されない | 国内源泉所得に該当しない限り、日本での課税なし |
実務で気をつけるべきポイント
- 不動産の所有期間が5年を超えるか否かで課税率が大きく変わります。5年を超えると「長期譲渡所得」となり、軽減税率が適用されます。
- 海外での売却契約締結時点の為替レートや、取得時の費用(取得価額・譲渡費用など)も日本での申告時に重要な資料となります。
- 外国税額控除を適用する際は、外国で課税された証明書類(課税通知書や納税証明書など)を入手しておくことが重要です。
- 誤った居住者区分の判断や、送金額の扱いの誤りによって、本来不要な税金を支払ってしまうリスクもあるため、専門家のサポートが必要です。
海外にある不動産の売却は、単なる売買手続きにとどまらず、日本と外国それぞれでの税務判断と申告義務が複雑に絡み合う分野です。特に永住者や非永住者の場合、居住状況や送金状況によって課税の有無が変わるため、適切な対応が求められます。
当事務所では、税理士・司法書士の両面から、海外資産の譲渡に関する税務・法律対応をサポートしております。確定申告や税額控除、必要書類の整備まで一貫対応いたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。