Last Updated on 2025年7月7日 by 渋田貴正

.外国の企業が日本国内に支店を設置し、外国会社の登記をして事業活動を行うケースが増えています。例えば、アメリカの企業が日本支店を設け、日本で収集した市場データや顧客動向を本社に提供し、一定の対価を本社から支店へ支払うといったビジネスモデルです。

このような場合、次のような疑問を抱かれる方が多いのではないでしょうか。

  • 本社から支店への支払は「売上」として消費税の対象になるのか?
  • 消費税の申告義務や課税事業者としての扱いは?
  • 支店を設立する際の登記手続きはどうなる?

今回は、こうした疑問に対して、税務と登記の両面からわかりやすく解説していきます。

本社へのサービス提供は「課税売上」になる?

結論から申し上げると、日本支店が本社にサービス(役務)を提供し、対価を受け取ったとしても、消費税の課税売上には該当しません。

その理由は、支店と本社は「同一法人内」であるためです。法人の中での内部的なやりとりは、たとえ会計上で収益や費用として処理されていても、「外部に対して行った取引(資産の譲渡や役務の提供)」には当たりません。これは本社が海外にある場合でも同様です。日本で外国会社の登記をしたとしても、それは別法人を設立したわけではなく、同じ法人の日本支店を登記しているだけです。

したがって、支店が本社に情報を提供し、たとえば「発生したコストの110%を収入として本社から支店へ送金」していたとしても、これは社内での内部取引として扱われ、消費税の課税対象にはなりません。

輸出取引としての免税扱いにはならない?

「国外の本社にサービスを提供しているのだから、輸出免税になるのでは?」という疑問もよくいただきます。しかし、こちらも非該当です。

消費税法上の「輸出免税」は、商品の輸出など明確に資産の移転があった場合に限られます。情報提供などの役務は、たとえ海外の相手に対してであっても「資産の輸出」には該当しないとされています。

したがって、日本支店が本社に提供する役務は「輸出免税取引」にもなりません。

日本支社で支払った費用について仕入税額控除は受けられる?

原則は受けられないが、「課税事業者の選択」で対応可能

消費税には、「課税売上に対応する仕入には、支払った消費税を控除できる(仕入税額控除)」という制度があります。

しかし、日本支店が本社に提供する役務は「課税売上」ではないため、原則として、国内で支払った仕入税額の控除は認められません。

ただし、例外として「課税事業者の選択届出書」を税務署に提出することで、売上が非課税・免税であっても、仕入税額控除を受けられる場合があります。たとえば、支店設立時の設備投資やオフィス家賃など、支払消費税が多額になると予想される場合には、あらかじめこの届出をしておくことが有効です。

【整理】日本支店が本社にサービスを提供する際の消費税の扱い

内容 消費税上の扱い
本社へのサービス提供 内部取引のため非課税
輸出免税の適用 該当しない
支店の課税売上 なし(原則)
仕入税額控除 課税事業者選択で可能に

日本支店設立時の「外国会社の登記」も忘れずに

ここまで税務面の解説をしてきましたが、日本で事業を開始するには、登記手続きも重要です。外国会社が日本で継続的に取引を行う場合には、法務局での登記が必要になります。基本的なことですが、登記の観点が抜けていることが多いので注意が必要です。

(登記前の継続取引の禁止等)
会社法 第818条 外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることができない。

登記時に必要な情報の一例

  • 外国法人の基本情報(名称、本店所在地、代表者など)
  • 日本支店の所在地
  • 日本における代表者(日本に居住している必要があります)
  • 定款や設立証明書等の外国文書の日本語訳
  • 公証された文書の提出(場合によってはアポスティーユ付き)

こうした手続きは、司法書士が代行できます。特に海外本社との連携や日本語文書の作成に不安がある場合は、専門家のサポートが安心です。

まとめ:税務と登記の両面から事前の対策を

外国法人が日本支店を通じて事業活動を行う際、会計上は取引のように見える支出・収入が、税務上は「取引」と見なされないことがあります。また、課税売上がない場合でも、消費税の仕入控除を受けたいなら「課税事業者の選択届出」が必要となるため、事前の計画が非常に重要です。

また、日本支店を設置するには法務局での登記手続きが義務付けられており、その書類作成や提出にも注意が必要です。

当事務所では、外国法人の日本支店設立にかかる税務対応(課税事業者選択、消費税の申告等)はもちろん、外国会社の登記や公証書類の整備まで、ワンストップで対応可能です。税理士と司法書士の両資格を活かし、安心かつスムーズな支店設立をお手伝いします。ご検討中の方は、ぜひお気軽にご相談ください。