Last Updated on 2025年6月30日 by 渋田貴正
取締役が2名の会社で、代表取締役1名が突然退任したら――もう1人が自動的に代表取締役になるのでしょうか?このようなご相談は実務でも非常に多く寄せられます。
結論から言えば、原則として残った取締役が自動的に代表取締役になることはありません。
代表取締役は「取締役の中から選定されることによって成立する地位」であり、自動的に移行するものではないからです。
しかし、定款の内容や代表取締役の選定方法によっては、例外的に自動的に代表となるケースもあり得ます。
代表取締役はどうやって決まる?
まずは代表取締役の選任方法を確認しておきましょう。これは会社の機関設計によって異なります。
会社の種類 | 代表取締役の選任方法 |
取締役会設置会社 | 取締役会の決議で選任 |
取締役会を設置しない会社 | 定款の定め、または取締役の互選による |
多くの中小企業は「取締役会非設置会社」に該当し、定款の定めまたは取締役同士の互選により代表取締役を決定する形をとっています。
実務でよくあるケースと定款の重要性
例えば、定款に以下のような記載がある会社を考えてみましょう。
「当会社は取締役2名以内を置き、取締役の互選により代表取締役1名を選定する。」
このような定めがある場合で、取締役2名のうち代表取締役が死亡などで退任したとき、残った取締役が自動的に代表取締役になるかが問題となります。
実務ではこのような定款がある場合、
「取締役が1名のみの場合には、その者が当然に代表取締役となる」趣旨と解され、選任行為や就任承諾なしで登記できる場合もあります。
一方、定款にこのような明文の規定がない会社も多くあります。
定款に明確な定めがない場合は?
定款に「取締役が1名になった場合はその者が当然に代表取締役となる」といった趣旨の規定がない場合には、原則どおり代表取締役の選任手続きが必要です。
取締役が1名になっていても、会社法第349条1項に基づき、自己を代表取締役に選任し、その旨を記載した決定書を作成、就任承諾書も添えて登記申請を行う必要があります。
(株式会社の代表)
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登記実務での扱いと必要書類
代表取締役が退任した場合には、以下の登記が必要です。
- 退任した代表取締役の退任登記
- 新たに選任された代表取締役の就任登記(または定款に基づく就任登記)
登記に必要な主な書類
書類名 | 内容 |
取締役の決定書 | 代表取締役を選定したことを記録 |
就任承諾書 | 新代表取締役が就任を承諾した証明 |
登記申請書 | 変更内容を法務局に申請する書類 |
印鑑届出書 | 代表印の変更がある場合に必要 |
定款により残存取締役が当然に代表になるケースを除き、これらの書類は必須となります。
さらに代表取締役が変更になると、商業登記だけでなく、各種届出も必要になります。
提出先 | 届出書名 | 提出期限 |
税務署 | 異動届出書 | 原則1か月以内 |
都道府県税事務所 | 代表者変更届 | 自治体により異なる |
市区町村 | 法人市民税の異動届 | 自治体により異なる |
年金事務所 | 事業所関係変更届 | 原則5日以内 |
これらの手続きを怠ると、行政からの通知が旧代表者のまま送られるなど、トラブルにつながるおそれがあります。
登記されていなければ銀行口座が使えない?
代表取締役が死亡・辞任しても、法務局に登記されていなければ、銀行側はその変更を確認できません。
すると、代表者の権限であるはずの口座操作・取引・振込ができず、会社の業務が完全にストップすることもあります。
また、電子証明書を使った電子申告やマイナポータル連携なども「代表者情報に基づく認証」が前提となるため、代表者変更登記を怠ると税務手続にも支障が出ます。
定款の見直しで将来のトラブルを防ぐ
取締役が2名しかいない会社では、代表取締役が1名退任すると、定足数を満たせなくなることもあり得ます。
このような事態に備えて、以下のような定款整備を検討することも有効です。
- 「取締役が1名になった場合は、その者を代表取締役とする」旨の規定を追加
- 常に取締役全員が代表権を持つとする規定(会社法第349条2項)に変更
- 将来の体制変化を見越して取締役会設置の検討
代表取締役の変更や定款の見直しについてお悩みの方は、登記と税務をワンストップで対応できる当事務所にぜひご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。