Last Updated on 2025年7月1日 by 渋田貴正
資本金や資本準備金を増加させることを「増資」といいます。増資には、現実にお金を会社に払い込む「有償増資」と、貸借対照表上の株主資本を組み替えて資本金等を増やす「無償増資」があります(さらに新株予約権の行使による増資もありますが、ここでは割愛します)。
このうち「無償増資」は、実際に資金の流入があるわけではなく、会社の内部留保(準備金や剰余金など)を資本金に振り替える形式で行います。そのため、「形式的増資」や「帳簿上の増資」とも呼ばれます。
無償増資の分類:準備金・剰余金の資本組入れ
無償増資は、資本組入れの対象により、大きく以下のように分類されます。
無償増資の方法 | 資本組入れの対象 | 対象会社 |
資本準備金の資本組入れ | 資本準備金 | 株式会社のみ |
利益準備金の資本組入れ | 利益準備金 | 株式会社のみ |
その他資本剰余金の資本組入れ | その他資本剰余金 | 株式会社・合同会社 |
その他利益剰余金の資本組入れ | その他利益剰余金 | 株式会社のみ |
※合同会社(LLC)では、「資本金」の制度があるため、資本剰余金の組入れによる無償増資が認められていますが、準備金制度がないため、株式会社のような準備金からの資本組入れはできません。また、合同会社では利益剰余金を資本金に組み入れることも認められません。
準備金の資本組入れ(資本準備金・利益準備金)
準備金とは、将来の損失補填や債権者保護のために一定額を留保している資本項目です。これを資本金に組み入れることで、より拘束力の強い資本として位置づけ直すことになります。
決議要件
準備金の資本組入れは、いずれも株主総会の普通決議で可能です。これは、会社の財務内容の健全性を高める施策であり、株主の権利を害さないため、特別決議までは不要とされているからです。
ただし、以下のような例外もあります。
例:資本準備金の資本組入れを新株発行と同時に行う場合で、かつ資本準備金の残高が減らない(=資本準備金からの振替ではない)場合には、株主総会の決議なしで、取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会決議)でも可能とされています。
債権者保護手続きは原則不要
準備金を資本金に振り替えるだけで外部流出がないため、債権者保護手続き(公告・異議申述期間の設定)は原則不要です。
ただし、準備金の一部のみを資本金に組み入れる場合は、手続き要否を個別に検討する必要があるため、全額を資本に組み入れるほうが実務的には簡便です。
剰余金の資本組入れ(資本剰余金・利益剰余金)
剰余金とは、過去の利益のうち社内に留保されている部分を指します。これを資本金に振り替えることも無償増資の一つの形です。
決議要件
剰余金の資本組入れも、原則として株主総会の普通決議で可能です。合同会社においては、社員の過半数の同意が必要となります。なお合同会社では利益剰余金の資本組み入れはできません。
なお、剰余金を資本金に振り替えると「分配可能額」が減少するため、一見すると株主に不利に思えるかもしれませんが、会社の自己資本が厚くなるというメリットがあるため、株主保護の観点でも合理的とされています。
債権者保護手続きは原則不要
剰余金の資本組入れについても、債権者保護手続きは不要です。社外流出が発生しないという点では、準備金と同様の理由です。
無償増資に伴う登記の注意点
無償増資を行うと、資本金の額が増加するため、必ず登記が必要となります(会社法第915条、商業登記規則第61条等)。
ただし、新たに株式を発行するわけではないため、次の点に注意が必要です。
項目 | 無償増資での扱い |
登記すべき事項 | 資本金の額の変更 |
発行済株式数の変更 | なし(株数は増えない) |
登記申請期限 | 決議日から2週間以内(会社法第915条) |
無償増資のメリットと活用場面
無償増資は、会社の実質的な財務状況を変えずに資本金を増加させることができるため、以下のような場面で活用されます。
- 対外的信用力の向上(資本金が大きく見える)
- 取引先との信用補強
- 金融機関との融資交渉時の印象改善
- 会社設立時の資本金が少額だった場合の補正
とくに近年では、スタートアップ企業やフリーランス法人が信用補強のために無償増資を行うケースも増えています。
無償増資は、見かけ上の資本強化として非常に有効な手法ですが、会計処理、決議書類の作成、登記申請まで、一連の手続きが発生します。
とくに剰余金の分類や準備金の扱いを誤ると、誤登記や修正登記につながるおそれがあります。ご不安な方は、税務・登記に通じた専門家のサポートを受けることをおすすめします。
当事務所では、税理士・司法書士がワンストップで無償増資に対応しています。お気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。