Last Updated on 2025年2月11日 by 渋田貴正

利益剰余金の資本金への組み入れとは?

株式会社が資本金を増やす方法には、新たに出資を受ける方法(有償増資)がケースとしては多いですが、それまで積み上げてきた利益を資本金に振り替える方法(無償増資)という方法もあります。

無償増資は、新たに外部からお金を入れるわけではなく、会社がそれまで稼いできた利益を資本金に振り替えるので、会計上は株主資本内での数字の移動にすぎません。つまり、会社全体の資金に変化はなく、単なる会計処理の一環として実施されます。

利益剰余金を減少できる額は、株主総会の決議を行った日の利益剰余金の額までです。つまり、利益剰余金が0円になるまで資本に組み入れることが可能ということです。

利益剰余金の資本金への組み入れを行うメリット

会計処理としては、利益剰余金を資本金に振り替えるだけなので非常に単純ですが、そもそもそうすることのメリットはどのようなところにあるのでしょうか?

① 対外的な信用力向上

資本金100万円の会社よりも、資本金1,000万円の会社の方が規模が大きく見え、対外的な信用力が向上します。特に取引先や金融機関に対して「安定した会社」という印象を与えることができます。また、資本金の額は求人応募者にも安心感を与えるため、人材確保の面でも有利に働くことがあります。

② 外部からの資金調達不要

有償増資では、資本金を増やすために外部から資金を調達しなければなりませんが、無償増資であれば新たに資金を調達せずに増資が可能です。例えば、資本金を900万円増やす場合、有償増資なら900万円の現金が必要ですが、無償増資なら1円も動かさずに増資できます。

③ 純資産額の調整

利益剰余金が多く蓄積されると、株主への配当要求が強まるケースもありますが、資本金に組み入れることで、配当可能額をコントロールしやすくなります。

利益剰余金の資本金への組み入れの登記手続き

決議としては株主総会の普通決議で足ります。決議事項としては、
1)減少する剰余金の額
2)資本金の額の増加がその効力を生ずる日
です。

特にそれ以外の手続き(官報公告など)は必要ないので、決議した日にすぐ効力を発生されることもできます。決議後は、2週間以内に増資の登記を行わなければいけません。登記の際にかかる登録免許税は、増加した資本金の額の0.7%(ただし最低3万円)です。

利益剰余金の資本金への組み入れにかかる税金上のポイント

こうして、1円も動かすことなく資本金の額を増加させられるのですが、何点か注意しておくことがあります。

① 法人住民税の均等割

これは税理士が気を付けることかもしれませんが、税法上の資本金等の額は「払い込みを受けた額」として定義されているので、利益剰余金の資本金への組み入れにより増加した額は、法人税法上の「資本金等の額」にはなりません。

このパターンでずれるのは、住民税の均等割の計算です。利益剰余金の資本金への組み入れを行った場合には、間違って法人税法上の資本金等の額で均等割の額を判断しないように注意しておきましょう。均等割は利益剰余金の資本金への組入額も含めて判定します。

② 中小企業の税制優遇

例えば1億円以上の資本金では中小企業のメリットが受けられなくなる点などは有償増資と変わらず、決算書上の資本金の額で判定します。

これまでは資本金に組み入れる前提で話をしてきましたが、資本準備金に組み入れることもできます。もともとの対外的イメージの向上といったメリットを考えると、外には見えない資本準備金への組み入れをする理由はないかもしれませんが。

ちなみに、この方法が取れるのは株式会社だけです。合同会社については、利益剰余金を資本金に組み入れることはできません。(合同会社でも資本剰余金を資本金に組み入れることは可能です。)

当事務所では、登記面だけではなく、税務面からも利益剰余金の資本金への組み入れについての手続きをサポートしております。新たに出資を受けずに資本金の額をアップさせたいといった場合はぜひご相談ください!