Last Updated on 2026年3月3日 by 渋田貴正

海外に長年住んでいたご家族が亡くなり、日本に住んでいる相続人が預金を相続するケースは珍しくありません。このような場合、「日本に住んでいるのだから、すべての相続財産に日本の相続税がかかるのではないか」と考える方が多いですが、実際にはそうとは限りません。

日本の相続税では、日本に住んでいる相続人であっても、「無制限納税義務者」と「制限納税義務者」に分かれ、それによって課税される範囲が異なります。この違いは、特に外国預金などの海外財産を相続する場合に非常に重要になります。

日本に住んでいる相続人の中に、無制限納税義務者と制限納税義務者が混在している場合は、特に注意が必要です。実は、同じ相続の中で相続人ごとに課税範囲が異なることがあります。

とくに被相続人が外国籍であったり、長年海外に居住していた場合には、日本在住の相続人の中に「一時居住者」と「無制限納税義務者」が混在するケースが少なくありません。その結果、同じ財産であっても、ある相続人には課税され、別の相続人には課税されないという状況が生じます。

この点が、国際相続を難しくしている大きな要因のひとつです。

無制限納税義務者と制限納税義務者とは

無制限納税義務者とは、相続によって取得した財産が日本国内にあるか外国にあるかを問わず、すべての財産に日本の相続税が課税される人をいいます。一般的な日本居住者の多くは、この無制限納税義務者に該当します。

一方で、日本に住んでいても「一時居住者」と呼ばれる外国人の方は、制限納税義務者となります。制限納税義務者は、日本国内にある財産のみが相続税の対象となり、外国にある財産には日本の相続税は課税されません。

一時居住者とは

一時居住者とは、日本に住所がある外国人のうち、相続開始前15年以内に日本に住所があった期間の合計が10年以下の人をいいます。例えば、海外から日本に赴任して数年間働いている外国人などが該当します。(永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者を除く)

一時居住者の最大の特徴は、外国財産に日本の相続税が課税されない点です。つまり、同じ日本在住の相続人であっても、一時居住者かどうかによって、相続税の課税範囲が大きく変わります。

無制限納税義務者と制限納税義務者が相続人に混在する場合の相続税の課税関係

以下の例で、遺産分割の結果でどのように相続税が課税されるのかを比較してみましょう。

被相続人
・外国在住
・相続開始前10年以内に日本に住所なし

相続人
・相続人A:日本在住の一時居住者である相続人(制限納税義務者)
・相続人B:ずっと日本に住んでいる相続人(無制限納税義務者)

この2人が相続するケースを考えます。

ケース1 外国預金1億円のみの場合

遺産
外国の銀行預金:1億円

この場合、日本国内の財産は存在しません。

① 半分ずつ相続した場合

相続人 取得額 日本の課税対象
A(一時居住者) 5,000万円 課税なし
B(無制限納税義務者) 5,000万円 5,000万円

一時居住者は外国財産に課税されないため、無制限納税義務者が取得した部分のみが課税対象になります。

② 全部を一時居住者が相続した場合

相続人 取得額 日本の課税対象
A 1億円 課税なし

外国預金のみのため、日本の相続税はかかりません。

③ 全部を無制限納税義務者が相続した場合

相続人 取得額 日本の課税対象
B 1億円 1億円

全額が日本の相続税の課税対象になります。

まとめ(外国預金)

取得者 日本の課税対象額
一時居住者のみ 0円
半分ずつ 5,000万円
無制限納税義務者のみ 1億円

このように、同じ財産でも誰が取得するかによって課税額が大きく変わります。

ケース2 国内預金1億円のみの場合

 

遺産
日本の銀行預金:1億円

国内財産は、制限納税義務者であっても課税対象になります。

① 半分ずつ相続した場合

相続人 取得額 日本の課税対象
A(一時居住者) 5,000万円 5,000万円
B(無制限納税義務者) 5,000万円 5,000万円

課税対象合計は1億円です。

② 全部を一時居住者が相続した場合

相続人 取得額 日本の課税対象
A 1億円 1億円

一時居住者であっても、国内財産には相続税が課税されます。

③ 全部を無制限納税義務者が相続した場合

相続人 取得額 日本の課税対象
B 1億円 1億円

まとめ(国内預金)

取得者 日本の課税対象額
一時居住者のみ 1億円
半分ずつ 1億円
無制限納税義務者のみ 1億円

国内財産については、相続人の区分に関係なく課税されます。

国際相続では遺産分割によって相続税が大きく変わります

今回の例から分かるとおり、外国財産については、一時居住者が取得すれば日本の相続税は課税されませんが、無制限納税義務者が取得すれば課税されます。

つまり、日本の相続税は単純に「いくらの財産を相続したか」だけで決まるものではありません。

誰がその財産を取得するのか、その相続人が一時居住者に該当するかどうか、そして財産が日本国内にあるのか国外にあるのかによって、課税される範囲が大きく変わります。

同じ1億円の預金であっても、取得する人や財産の所在地によって、日本の相続税が0円になることもあれば、全額が課税対象になることもあります。

これは法律で定められた正式な取扱いであり、遺産分割の内容によって適法に税額が変わります。そのため、国際相続では遺産分割の検討が極めて重要になります。

国際相続では、まず相続人が無制限納税義務者に当たるのか、それとも制限納税義務者に当たるのかという納税義務者の判定が必要になります。また、財産が日本国内に所在するのか国外に所在するのかという所在地の判断も重要です。さらに、外国預金や海外不動産、外国株式などの評価方法についても、日本の相続税法に基づいた適切な評価を行わなければなりません。そして最終的には、これらを踏まえた正確な相続税申告を行う必要があります。

これらの判断は専門性が高く、少しの見落としや誤解が大きな税額の差につながることがあります。判断を誤ると、本来払う必要のない相続税が発生してしまったり、逆に申告漏れとなって後から追徴課税を受けたりする可能性もあります。

当事務所では、税理士と司法書士の両資格を活かし、国際相続における相続税申告と遺産分割をワンストップでサポートしております。海外財産を含む相続で不安を感じている方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。専門家として、安心できる解決策をご提案いたします。