Last Updated on 2026年2月3日 by 渋田貴正
外国法人が日本で不動産を売却する場合、「日本に事務所も人もいないのに、日本で法人税を申告する必要があるのか」という疑問を持たれることが多くあります。結論からいえば、日本に恒久的施設(PE)がない外国法人であっても、日本国内に所有している不動産を売却すれば、日本で法人税の課税関係が生じます。不動産の売却は、日本との関係性の中でも特に課税関係が顕在化しやすい取引です。
日本の法人税法では、外国法人については「国内源泉所得」に限って課税するという仕組みを採っています。そして、日本の不動産を売却した場合の譲渡益は、その国内源泉所得の中でも「国内にある資産の譲渡による所得」に該当します。まずはこの枠組みを押さえることが重要です。
外国法人の国内源泉所得とは何か
外国法人に課税される国内源泉所得は、いくつかの類型に分けて整理されています。日本の不動産の売却益がどこに位置づけられるのかを確認するため、全体像を簡単に見ておきましょう。
| 国内源泉所得の種類 | 内容の概要 |
|---|---|
| ① 恒久的施設(PE)に帰属する所得 | 日本の拠点を通じて行う事業から生じる所得 |
| ② 国内にある資産の運用・保有による所得 | 配当、利子、使用料などの投資的な所得 |
| ③ 国内にある資産の譲渡による所得 | 日本の不動産や一定の株式などの売却益 |
| ④ 人的役務提供事業の対価 | 日本で行ったサービス提供の報酬 |
| ⑤ 国内不動産等の貸付けによる所得 | 日本の土地・建物を貸して得る賃料収入 |
| ⑥ その他その源泉が国内にある所得 | 上記に当てはまらない国内源泉所得 |
日本の不動産を売却して得られる譲渡益は、このうち③「国内にある資産の譲渡による所得」に該当します。
日本の不動産は「所在地基準」で国内資産と判断されて日本で法人税課税
不動産が国内にある資産かどうかは、非常にシンプルです。不動産は「所在地」によって判断されます。日本国内に所在する土地や建物であれば、それだけで「国内にある資産」に該当します。
つまり、
日本にある不動産を売却する
→ 国内にある資産の譲渡
→ 国内源泉所得
という一直線の整理になります。
ここにPEの有無は関係しません。不動産の売却については、PEがないから課税されない、という考え方は成り立たない点が重要です。
日本に支店や事務所を設けていない外国法人であっても、日本の不動産を売却すれば、その譲渡益は原則として日本で法人税の課税対象となります。PEの有無は、「課税されるかどうか」を決める要素というより、「どのように課税計算をするか」に影響する要素と考えると分かりやすいでしょう。
不動産売却は、外国法人の取引の中でも「PEがなくても課税される代表例」です。この点を理解していないと、「日本には拠点がないから大丈夫だと思っていた」という状態になりやすく、後から大きな修正が必要になることがあります。
海外法人と海外在住個人の日本国内不動産の売却時の課税の違い
日本不動産を売却した場合の課税は、外国法人と海外在住の個人(非居住者)とで、税目や計算方法が異なります。よく混同されるため、整理しておきましょう。
| 区分 | 海外法人(外国法人)が売却 | 海外在住の個人(非居住者)が売却 |
|---|---|---|
| 適用税目 | 法人税 | 所得税・復興特別所得税 |
| 日本不動産売却益 | 国内源泉所得(法人税課税) | 国内源泉所得(所得税課税) |
| 確定申告 | 原則として法人税の確定申告が必要 | 原則として確定申告が必要 |
| 税率構造 | 法人税率による | 譲渡所得の税率による |
また、それぞれのケースでの源泉所得税の徴収義務は以下の通りです。(租税条約は考慮しない)
| 買主\売主 | 非居住者の個人が売却 | 外国法人が売却 |
|---|---|---|
| 個人が取得 (自己または親族の居住用・1億円以下の土地など) |
源泉徴収不要 | 源泉徴収不要 |
| 個人が取得 (上記以外) |
10.21%源泉徴収 | 10.21%源泉徴収 |
| 法人が取得 (用途・金額を問わない) |
10.21%源泉徴収 | 10.21%源泉徴収 |
日本の不動産を外国法人が売却した場合、買主側で10.21%の源泉徴収が行われるケースがあります。ただし、これは課税関係が完結するものではありません。源泉徴収はあくまで前払的な位置づけであり、外国法人は原則として法人税の確定申告を行い、譲渡益を計算したうえで、源泉税額を控除して納税または還付を受けることになります。「源泉で引かれているから法人税の申告をしなくてよい」という理解は誤りです。
株式の譲渡は「国内にある資産」の考え方が異なる
不動産と異なり、株式については「どこの国にある資産か」が直感的に分かりにくいものです。株式の場合、すべての日本法人株式が自動的に国内源泉になるわけではなく、一定の要件を満たす場合に限って国内源泉所得に該当します。
例えば、不動産を多く保有する法人の株式を売却する場合など、実質的に不動産の譲渡と同視されるケースでは、日本で課税されることがあります。一方で、単に日本法人の株式を売却しただけでは、必ずしも国内源泉になるとは限りません。
株式譲渡については、事案ごとの判断が不可欠であり、不動産売却よりも専門的な検討が必要になります。
外国法人の日本不動産売却は、国内源泉所得という枠組みを理解することで、課税の出発点が明確になります。そのうえで、源泉徴収、法人税申告、株式譲渡との違い、登記との関係まで含めて整理することが重要です。
当事務所では、外国法人の日本不動産売却について、法人税の申告要否の整理から申告対応、さらに外国会社の登記や不動産登記まで含めて一体的にサポートしています。売却を検討し始めた段階で一度整理しておくことが、結果として最も安全で効率的な選択になります。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
