Last Updated on 2025年12月28日 by 渋田貴正
中国国籍の方が日本で亡くなった場合、その相続関係(相続人の範囲・相続分・遺留分制度の有無・遺産管理方法など)は原則として中国法に基づいて判断されます。中国では2021年施行の「民法典」により相続制度が体系化されましたが、依然として地域慣習や証拠収集の難しさが実務負担を大きくしています。特に、遺言がある場合には公証遺言・自筆遺言・録音遺言など複数形式が認められており、形式的有効性の判断が複雑です。
本稿では、実務で最も相談が多い「無遺言相続」を前提に、中国法を日本の国際私法に当てはめながら、相続登記・預貯金・中国側手続の全体像を整理します。
相続法の基本構造と中国への当てはめ
国際相続では、各国がどのように「相続の準拠法」を決めているかが出発点になります。
| 分類 | 説明 | 中国の扱い |
|---|---|---|
| 相続統一主義か相続分割主義か | 相続統一主義:財産の種類を問わず本国法で判断/分割主義:不動産は所在地法・動産は本拠地法など | 「動産=被相続人の常居所地法」「不動産=不動産所在地法」を採用 |
| 人的不統一法国か | 宗教・民族により複数体系が併存する国 | 一部の少数民族法が存在するが、一般的な都市部中国人には適用されないケースが多い |
| 場所的不統一法国か | 財産種類で準拠法が変わる国 | 該当(不動産所在地法を採用のため) |
ここで日本の通則法36条との関係が重要です。
日本の国際私法は「相続は原則として本国法(中国国籍の場合は中国法)」としつつ、通則法41条により、外国法が日本へ差し戻す反致を日本法を適用します。一方、中国民法典は次のように規定します。
| 不動産の相続 | 不動産所在地法による |
| 動産の相続 | 被相続人の常居所地法による |
したがって、日本にある不動産については、中国法が「所在地法(=日本法)」を準拠法と定めているため、反致が成立し、日本の相続法が適用されることになります。これがフィリピンなど「統一主義」を採用する国との最大の相違点です。
一方、動産(預貯金・株式など)については、中国法が常居所地法を適用するとしているため、中国国籍者が日本居住であれば日本法、中国居住であれば中国法が適用されます。
中国の法定相続人制度(無遺言相続の基本)
中国民法典1127条以下では、無遺言相続の法定相続人を次のように定めています。
| 相続順位 | 相続人の範囲 | ポイント |
|---|---|---|
| 第1順位 | 配偶者・子(婚生子・非婚生子・養子を含む)・父母 | 均等相続。孫・外孫は代襲相続が可能。 |
| 第2順位 | 兄弟姉妹・祖父母・外祖父母 | 第1順位がいない場合に相続。 |
| 特則 | 扶養関係のある人 | 被相続人を生前扶養していた者は、一部の財産を分与されることがある。 |
中国法は日本のような遺留分制度を明確には採用していませんが、配偶者・未成年子・高齢父母など扶養を受けるべき者が不利益を受けないよう裁判所が調整する実務運用があります。
以上を前提に、日本側手続で必要となる「相続人確定」には、中国の出生・婚姻・家族関係証明(戸口簿 Hukou)など、証明書収集が不可欠です。
中国国籍の被相続人が所有していた日本にある不動産の相続登記
大きなポイントは次の2点です。
① 中国法が「不動産の相続=所在地法(日本法)」と定めているため、相続人が誰かなど相続関係は日本の民法で確定する
② 日本の不動産登記法に従い相続登記を行う必要がある
必要書類(例)
・日本の死亡届・住民票の除票(中国で死亡した場合は中国での死亡証明書)
・中国側の出生証明・婚姻証明・家族関係証明(戸口簿)
・相続関係説明書(日本形式)
・翻訳文
2024年の相続登記義務化により、相続開始から3年以内の登記が求められるため、中国書類の収集に時間がかかる点は特に注意が必要です。
中国国籍の被相続人が所有していた日本にある預貯金・株式・動産の相続手続
預金・証券の相続では、準拠法が次のように分かれます。
| 被相続人が日本居住の場合 | 動産の準拠法は日本法 |
| 被相続人が中国居住の場合 | 動産の準拠法は中国法 |
金融機関に提出する主な書類
・中国の戸口簿・出生証明・婚姻証明
・遺産分割協議書(必要に応じ日本法で作成)
・署名証明書(Signature Certificate)
・翻訳文
特に証券会社では、中国在住の相続人に対し、在外公館での署名証明を強く求める傾向があります。
中国国内にある不動産・預貯金の相続手続
中国側の財産については、中国民法典および関連規定に基づき手続を行います。
典型的な流れ
・公証処での相続公証(相続関係と分配内容の確認)
・不動産登記処での名義変更(不動産登記簿の変更)
・銀行口座の凍結解除手続(必要書類の提出)
・残余財産の分配
中国では「公証処(Notary Office)」が強い権限を持つため、公証書が取得できないと実務が進まないケースも多くあります。日本の書類を中国語訳し、領事認証(Apostille非加盟のため認証必要)が求められる点にも注意が必要です。
国際相続では、対象となる財産の種類や被相続人の居住状況により、適用される法律が三層的に切り替わる点が大きな特徴です。まず、日本に所在する不動産については、中国民法典が「不動産は所在地法による」と定めているため、日本の国際私法上の反致が成立し、日本法が準拠法として適用されます。一方、預貯金や株式といった動産については、被相続人の常居所地が判断基準となり、日本居住者であれば日本法、中国居住者であれば中国法が適用されるという可変的な構造を持っています。さらに、中国国内の不動産や預貯金などの財産については、中国法および中国の公証制度が直接適用されるため、日本側の相続関係が確定していても、中国側の手続が独自に進む必要があります。
このように、財産の所在地、被相続人の居住状況、各国の国際私法の規定が複雑に絡み合うため、相続全体の法的整理には高度な専門的判断が求められます。
当事務所では、司法書士・税理士のワンストップ体制で、日本側相続登記・預金手続、中国側公証書翻訳・認証取得支援、相続人確定のための資料整備まで総合的にサポートしています。「どの国の法律が適用されるのか複雑でわからない」
「日本と中国にまたがる財産を一括して手続きしたい」「相続登記義務化の期限が迫っている」といった方は、ぜひご相談ください。初回相談は無料で承っております。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
