Last Updated on 2025年6月29日 by 渋田貴正
日本国内の不動産を取得しようとする際に、居住地や法人の所在地が海外である場合には、ある重要な法律が関わってきます。それが「外国為替及び外国貿易法(外為法)」です。
この法律により、海外居住者(非居住者)による日本の不動産取得は「資本取引」に該当し、原則として日本銀行を通じた財務大臣への報告が必要とされています。
外為法における「非居住者」とは?
外為法における「非居住者」とは、次のような方を指します。
種類 | 具体例 |
外国籍の個人 | 海外に住んでいる外国人 |
外国法人 | 本店所在地が海外にある法人(例:米国法人、シンガポール法人) |
日本人の海外長期居住者 | 1年以上にわたり海外に生活拠点を置いている日本人 |
つまり、外為法上は「日本に1年以上居住していない」ことが基準となり、生活の本拠が日本国外にあると判断されれば、日本国籍の有無を問わず非居住者に該当します。
ここで注意が必要なのは、「非居住者」という用語は税法上(所得税法)にも登場するという点です。
所得税法上の非居住者とは、簡単に言えば「日本国内に住所も1年以上の居所も持たない個人」をいい、課税関係(納税義務)を判断するために用いられます。これに対し、外為法上の非居住者は、資本取引や経済規制の対象者を識別するための定義であり、両者は同じ用語でも定義や目的が異なることに注意しなければなりません。
法律名 | 非居住者の定義 | 主な目的 |
---|---|---|
外為法 | 原則として日本に居住しない者 | 資本取引の監視、安全保障 |
所得税法 | 日本に住所・1年以上の居所がない個人 | 課税関係(納税義務)の判断 |
したがって、「外為法上は非居住者でも、所得税法上は居住者となるケース」やその逆も存在しうるため、実務上はそれぞれの法体系に応じた正確な判断が必要です。
外為法上の非居住者によるどのような不動産取得が報告の対象になるか?
報告対象となる取引には、以下のような不動産取得手段が含まれます。
- 売買による取得
- 相続による取得
- 遺贈(遺言による贈与)による取得
ここで注意すべきなのは、取得対価が1円であっても、あるいは無償であっても報告が必要だという点です。たとえば、「親から土地を相続しただけ」「知人から無償で譲り受けた」といったケースでも、外為法上の「資本取引」に該当するため報告が必要になります。
これは、単なる税務上の問題ではなく、日本の経済的・安全保障的な観点から国が資本移動を監視する必要があるという外為法の目的に由来します。
特に不動産は、土地という国の重要な資源に対する所有権の移転を伴うため、外国資本の動向を把握することは、国家の安全保障・国土保全・経済政策に関する基礎情報を得るために重要とされています。
さらに、外為法では、不動産取得の対価の多寡にかかわらず、「経済的価値のある資本の移動」として捉えるため、経済取引の一環として記録・監視対象にする趣旨があります。
そのため、「無料で取得したから報告は不要」と思ってしまうと、後々思わぬ落とし穴にはまることがあるのです。
外為法上の非居住者による不動産取得が報告の対象とならない例外ケース
とはいえ、すべてのケースで報告が必要というわけではありません。以下のような取得目的の場合には、報告が免除されます。
報告不要のケース | 内容の説明 | 報告が不要とされる理由 |
---|---|---|
① 居住用目的(本人・家族・従業員のため) | 非居住者本人やその親族・従業員の日本での居住を目的とする取得 | 経済活動や営利目的ではなく、リスクが小さいため |
② 非営利目的の業務遂行用 | NPO等の非営利活動の遂行に必要な不動産取得 | 外貨の流入出を伴う資本取引とは性質が異なるため |
③ 本人の事務所用 | 非居住者が自身の事業拠点としてオフィスを構える目的で取得する場合 | 管理可能な経済活動であり、透明性が高いため |
④ 他の非居住者からの取得(日本国内者を介さない取引) | 売主・買主がどちらも非居住者で、日本の資本移動に直接関与しない取引 | 日本国内の資本変動には影響しないため監視の必要性が低い |
このように、「日本の対内資本取引に直接的な影響を与えるかどうか」という観点が、報告義務の有無を判断するポイントとなっています。
これらの例外に該当するかどうかを誤認してしまうと、報告漏れにつながる可能性がありますので、目的を明確にしておくことが重要です。
報告手続きの方法と流れ
報告の提出先は、日本銀行本店 国際局 外為法手続担当(50番窓口)です。地方在住の方や海外から対応する場合も多いため、郵送での提出が一般的です。
提出に必要なもの
- 外為法に基づく資本取引報告書(書式は日本銀行HPからダウンロード可能)
- 郵便切手を貼付した返信用封筒(受付印付き控えの返送のため)
- 報告書の控え(提出時に一緒に送付)
なお、代理人による提出も可能であり、その場合でも委任状の提出は不要です。なぜなら、この手続きは単なる事実の「報告」であり、提出によって不動産の取得者に何かしらの権利や義務などの法律効果が生まれるわけではないためです。
提出期限と注意点
報告は、不動産を取得した日から20日以内に行わなければなりません。たとえば、売買契約の決済日や相続登記が完了した日などが基準となります。
提出を怠ると、外為法違反として指導や罰則の対象となる可能性もありますので、必ず期限内に手続きを行いましょう。
海外居住者による日本の不動産取得は、外為法だけでなく、登記や税務にも関係する複雑な手続きが伴います。相続・贈与・売買の形態ごとに異なる対応が求められるため、専門家のサポートを受けることでスムーズかつ確実に進めることができます。
当事務所では、税理士・司法書士のダブルライセンスによるワンストップ対応が可能です。
外為法に基づく報告書の作成はもちろん、相続登記・税務申告・納税管理人の設置など、海外居住者特有の手続きをトータルでサポートしています。
海外在住の方や外国籍の方も、まずはお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。