Last Updated on 2025年6月9日 by 渋田貴正
不動産管理会社の「業務実態」を伴う運営が基本
不動産管理会社を設立すると毎月(もしくは毎年)しっかりと会計ソフトなどへの記帳が必要です。その際に最も重要なのは、「会社が実際に業務を行っていること」です。不動産管理会社が単に節税のための形式的な枠組みではなく、あくまで独立した事業体として運営しているのだという意識を持つことが重要です。
例えば、次のような業務が日々行われているかを確認しましょう。
管理業務の内容 | 具体的な例 |
建物管理 | 清掃業者の手配、共用部分の点検、報告書の作成 |
設備対応 | 空調やエレベーターの点検日程管理、修理業者とのやり取り |
賃貸管理 | 入居者募集、内見の調整、契約書類の管理、家賃回収 |
こうした業務が継続的に行われ、その記録が残されていることが大切です。「会社が何をしているのか説明できるか」「業務の履歴を確認できるか」が、不動産管理会社としての実態を支える基盤になります。
よくある誤解として、「家族名義で管理会社を作っただけで節税になる」という考え方がありますが、それでは実体のない「名義貸し」に近く、事業としての正当性を欠き、場合によっては脱税にもなりかねません。業務日誌の作成、清掃や入居者対応の記録、業務の指示や報告メールの保存など、小さな積み重ねが事業実態の裏付けとなります。
不動産管理会社はあくまで「事業を行う会社」です。法人として収益を得る以上、業務が存在し、それに伴う支出や報酬があるという順序を忘れてはいけません。
経費になる費用・ならない費用を分ける視点を持つ
不動産管理会社を通じて事業を行う場合、発生する支出がすべて経費になるとは限りません。税務上、経費として認められるのは、「会社が自らの事業を遂行するために直接必要な支出」であることが原則です。
この原則を忘れてしまうと、「どこまで経費にしてよいのか分からない」「なんとなく会社で払ったから経費になると思っていた」といったトラブルに繋がります。特に、オーナー個人の支出と管理会社の支出が混在してしまうと、適切な会計処理ができなくなり、事業の実態が不明瞭になる恐れもあります。
まずは、次のように費用の性質を整理してみましょう。
費用項目 | 主な負担者 | 理由・説明 |
建物の外壁塗装・屋上防水工事 | オーナー個人 | 不動産自体の維持にかかる費用であり、所有者である個人の資産管理に該当 |
エアコン・給湯器の交換費用 | 原則オーナー個人 | 固定資産としての価値維持に必要な支出であり、会社業務には直接関係しない |
共用部の清掃道具・備品 | 管理会社 | 日常的な管理業務で使用されるため、会社の経費となる |
入居者対応の交通費・通信費 | 管理会社 | 管理業務に付随する直接費用であり、事業経費として計上可能 |
建物の火災保険料 | ケースによる | 管理契約上の取り決めに応じて、どちらが負担するかを明確にする必要あり |
このように、支出の目的とその対象が誰の所有物や業務に関係するかによって、経費になるかどうかが決まるのです。
経費の判断の軸は「誰のための支出か」「会社業務に必要か」
たとえば、共用部分の電球を交換するための購入費は、管理会社の業務に必要不可欠なため経費として扱われます。一方で、居室内部のリフォーム費用は物件価値を高めるためのものであり、管理会社の業務とは直接関係しない限り、オーナー個人の負担が適切です。
「管理会社の口座から支払ったから会社の経費になる」という誤解も多く見受けられますが、支出元ではなく、支出の「内容」と「目的」が最も重要な判断基準となります。
また、曖昧なまま処理してしまうと、会社の決算書や帳簿に不自然な取引が記載され、将来的に信頼性を損なうことにもなりかねません。特に、複数物件を所有している場合や、他の事業も並行して行っているケースでは、「支出の帰属先」を正しく整理しておくことが経営上の安定にもつながります。
管理契約書で費用負担のルールを明記するのがベスト
実務的な対策としては、管理会社とオーナー個人の間で「管理委託契約書」を交わし、どの費用をどちらが負担するかを明記しておくことをおすすめします。
例えば、
- 修繕積立金、火災保険料はオーナー負担
- 清掃業務や軽微な修繕、日常備品は管理会社負担
といった形で、ルールを文書にしておくことで、後の会計処理や税務申告の際にも一貫性のある対応ができます。
所得分散を目的とするなら、役員構成にも工夫を
管理会社を設立するメリットの一つに、所得を家族に分散させて累進課税を抑えるという考え方があります。ただし、この効果を最大化するには、誰がどの業務を担当し、どのように報酬を受け取るのかをしっかり設計することが必要です。
- オーナー自身は代表取締役に就任するが、業務に関与しない場合は報酬なし
- 実務にあたる親族を取締役や業務担当者とし、報酬を支払う
- 複数の役員を設け、業務内容と責任に応じた役職と報酬を設定
また、役員報酬を支払うときに忘れてはならないことは、業務内容を明確にするということです。
親族を役員として報酬を支払う場合、つい節税効果ばかりに意識が向きがちですが、最も重要なのは「業務があるから報酬が発生する」という当たり前の原則です。
報酬は「名義」ではなく「実態」によって正当化されるものです。特に親族に報酬を出す場合は、次の点を明確にしておきましょう。
確認事項 | 内容 |
業務分掌の明文化 | どの業務をどの役員が担当するのか、文書で明示する |
勤務実態の証拠 | 出勤簿や日報、入居者対応記録、報告書などを残す |
報酬の水準 | 業務内容と責任に見合った金額であること。他人に依頼した場合の相場も参考にする |
「親族を役員にしたから報酬を出す」ではなく、「その人が会社のために業務をしているから報酬を支払う」という順序をしっかり守ることが、不動産管理会社の経営において最も大切な視点です。
不動産管理会社を活用することで、税務上のメリットは大きくなりますが、それは業務の実態がしっかりと伴っていることが大前提です。すべての支出や報酬には理由があり、「誰が・何のために・どのように行ったか」が明らかであってこそ、経費として扱えるのです。
制度だけを整えても中身が伴っていなければ、経営として長続きしません。設立当初から「どう業務を行い、どう記録を残すか」という観点を持つことが、安定した運営と信頼性の高い節税の第一歩となります。
不動産管理会社の設立や、経費・報酬設計に関するご相談は、税務と法務を一体でサポートできる当事務所にお任せください。具体的な物件やご家族構成を踏まえて、最適なご提案をいたします。まずはお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。