Last Updated on 2025年6月8日 by 渋田貴正
日本にオフィスや店舗がなくても、個人事業主登録はできます
海外居住の人(国籍問わず)が日本で個人事業主登録するには日本国内での事業実態が重要です。では、どうすれば「事業の実態がある」と認められるのでしょうか?
これは、単に申請書を提出すればよいということではなく、「日本国内で事業を行っている」と認められる実態があるかどうかがカギとなります。
税務署に提出する「個人事業の開業届出書」は、日本国内で事業活動を開始したことを届け出るものです。実際には、この書類自体は提出すればおおよそ受理してもらえますが、受理してもらえることと日本で事業実態が認められるかどうかは別問題です。開業届出書は単なる届け出(事実行為)であり、それが何らかの法的な効果を生むということはありません。
ここで出てくるのが、「恒久的施設(Permanent Establishment/PE)」という概念です。
恒久的施設(PE)とは? ~店舗や事務所がなくても該当するケース~
恒久的施設とは、外国に居住する個人や法人が、ある国で継続的に事業活動を行っているとみなされる拠点や人的存在のことです。たとえば、日本国内にオフィスや工場などの施設があれば、わかりやすくPEになりますが、物理的な施設がなくてもPEと認定されることがあります。
事業所がなくても日本にPEがあるとみなされる主な要件(OECD租税条約モデル第5条)
要件 | 内容 |
日本に契約代理人がいる | 顧客との契約締結を反復して行う |
代理人が独立していない | 事業主から直接の指示を受けて動いている |
契約が事業の中心的活動に関するもの | サービス提供、財産の譲渡、ライセンスなど |
つまり、日本にオフィスやスタッフがいなくても、代理人が契約締結やその補助行為を反復して行っていれば、PEと認定されうるということです。
これは日本の税務実務でも重視されており、「代理人PE」と呼ばれる扱いになります。
実際に代理人PEによって日本での開業が認められた例と注意すべき点
事例:海外在住のITエンジニアが日本の顧客と契約
Aさんは東南アジアに在住し、日本企業と業務委託契約を結んでIT開発を行っています。契約はすべてオンライン上で行われますが、契約交渉や価格の提示、サポート対応などを日本の代理人が担当していました。この場合、税務署は「日本において実質的な営業活動が行われている」と判断し、開業届が受理されました。
ただし、代理人が「独立した立場」と認められる場合(例えば、多数の取引先を持つ独立した弁護士や税理士)はPEにならない可能性もあります(OECDモデル租税条約第5条第6項)。
銀行口座の開設・屋号使用など、実務面での壁
個人事業主として日本で活動するには、銀行口座の開設が必要になるケースも多いですが、これが意外とハードルになります。
多くの銀行では、口座開設にあたり「日本国内の住所」や「賃貸契約書の写し」などを求めてきます。そこで有効なのが、日本在住の代理人を立てて口座開設手続を行う方法や、バーチャルオフィスやシェアオフィスを住所として利用する方法です。
また、屋号を使って「○○商店 渋田貴正」のような名義の口座を作る場合、税務署への開業届と一致した屋号が必要になります。その意味でも、書類の整合性と信頼性を保つことが開業成功の鍵です。
個人事業主としての登録には、商業登記(会社設立のような登記)は不要です。ですが、次のような場面では任意で登記をしておくとメリットがあります。
登記の活用例 | メリット |
屋号を対外的に使用したい | 契約書や請求書で信頼を得やすい |
屋号付きの銀行口座を開設したい | 口座名義が明確になる |
後に法人化を予定している | スムーズな移行に役立つ |
海外居住者の日本での個人事業主登録による税務リスクと開業後の留意点
恒久的施設と認定された場合、その施設に帰属する所得に対して、日本の所得税が課税されます(所得税法第3条)。また、課税売上が1,000万円を超えた場合には、消費税の納税義務も発生します(消費税法第9条)。さらに、インボイス制度導入後は、免税事業者では取引に支障が出る可能性もあります。
海外居住者にとっては、「日本では事業をしていない」と主張したい気持ちがあるかもしれませんが、税務署からPEとして見なされると、申告義務や調査リスクが発生します。誤解を避けるためにも、開業段階での書類整備と顧問契約の締結が有効です。
当事務所では、以下のような海外居住者向けサポートを行っています。
- 税務署への開業届作成および代理提出
- 日本在住の代理人との契約書作成支援
- 銀行口座開設に向けた住所・屋号整備
- 必要に応じた商号登記や法人化支援
- PEリスクに備えた税務アドバイスと顧問契約
これまでにも多数の「日本に物理的拠点を持たない海外在住者」の方からご相談を受けており、それぞれのケースに合わせた柔軟な対応を行っています。
「日本に物理的な拠点がないから、個人事業主として登録できない」と思い込んでいませんか?
実際には、海外在住者でも、日本に店舗やオフィスといった物理的な事業所を設けなくても、一定の条件を満たせば個人事業主として登録することが可能です。
「海外にいても日本で開業届を提出したい」「法人を設立するほどでもないが、日本で納税したい」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。