Last Updated on 2025年6月4日 by 渋田貴正

不動産を複数人で共有している場合、一人でも所在不明の共有者がいると、売却や建て替えといった大事な決定ができず、全員の合意が必要となるためトラブルの原因になります。

そんな悩ましい状況に対応するため、令和3年の民法改正により、「所在等不明共有者の持分取得に関する裁判手続」が創設されました。

所在等不明共有者とは?

「所在等不明共有者」とは、不動産の共有者のうち、誰なのか特定できない、または連絡先が分からない、連絡がつかないといった事情がある人を指します。

このような共有者がいると、不動産を売却したり建て替えたりする際に全員の同意が取れず、手続きが完全にストップしてしまうおそれがあります。

以下は、実際にご相談いただくことが多い具体的なケースです。

ケース 具体例
名義人が死亡しており、その相続登記がされていない 祖父名義の土地が30年以上前から放置されており、相続人が誰かも分からない。市役所で除票を取っても、転居先が不明でたどれない。
兄弟姉妹で共有していたが、長年連絡が取れていない 共有名義になっている弟とは10年以上音信不通。携帯番号も変わっていて所在不明。
相続人が多数存在し、そのうちの一部が不明 相続で兄弟7人の共有となったが、2人が海外に住んでおり、音信不通。連絡先や国籍も不明。
昔の名義のままになっていて実態が分からない 明治時代の土地を調べたら、見たことのない名前が登記されており、誰の子孫かも分からない。
相続登記をせずに代替わりしてしまった 父の死亡後、子どもが代替わりして使用していたが、名義は叔父のまま。叔父もすでに他界し、子や孫の所在が分からない。

このように、「誰の名義か分からない」「名義人は分かっているが連絡がつかない」といった状況に該当する場合、その名義人は所在等不明共有者とされ、この制度の対象となります。

所在等不明共有者持分譲渡権限付与決定申立とはどのような制度か

所在等不明共有者の持分について、他の共有者が裁判所の許可を得たうえで、相当な代価(時価)を供託することで取得できる制度です。登記の際もその裁判に基づいて、単独で名義変更が可能になります。

【所在等不明共有者の持分の取得】
民法 第262条の2
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求した各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。(中略)③ 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない。

申立てができる人と条件

この制度を使えるのは対象不動産の共有であり、遺産分割中の不動産であっても可能です。ただし、いくつかの条件があります。

要件 内容
所在不明であること 共有者の氏名が分からない、または住所不明で連絡が取れない
適切な公告を経ること 裁判所が公告し、異議申立ての機会を設ける必要あり
他の共有者の異議がないこと 公告期間内に異議がなければ手続きが進められます
遺産共有の場合 相続開始から10年以上経過している必要があります

手続きの流れと費用

申立てから裁判所による決定までには、以下のようなステップがあります。

手続の流れ

  1. 地方裁判所に申立て

    • 所管は不動産所在地を管轄する地方裁判所

    • 手数料は1,000円

    • 申立書には不動産の情報や不明共有者の調査内容を記載

  2. 公告手続き

    • 裁判所が公告(官報等)により異議申立ての機会を付与

    • 他の共有者にも通知がされます

  3. 供託命令

    • 裁判所が「持分の時価相当額を供託しなさい」と命じます

    • 供託額は不動産評価額に基づき決定されます

  4. 供託完了・取得決定

    • 期日までに供託が完了すると、裁判所が持分取得を許可

    • これにより、不明共有者の持分を正式に取得できます

手続の概要

手続 内容
裁判所 不動産所在地の地方裁判所
申立費用 1,000円(非訟)
公告期間 裁判所が設定(通常2~3か月)
供託金額 持分の時価(評価額に基づく)
登記方法 単独申請可(所在不明者の代理人として)

持分取得が認められると…

  • 取得者は登記上の単独名義変更が可能

  • 不明共有者は供託金の支払い請求権を得る

  • 第三者への対抗力を得るには登記が必須です

注意すべきポイント

  • 裁判所の判断により供託額が変更されることがあります

  • 異議申立てがあると手続が進まないため、他の共有者との協調が必要です

  • 相続共有の不動産は相続開始から10年を超えていることが必要です

よくある質問(Q&A)

Q. 所在不明共有者の住所をどこまで調査すべきですか?
A. 戸籍の附票、住民票除票、登記簿、公示記録などでできる限り調査し、調査結果を裁判所に提出する必要があります。

Q. 複数の共有者で申立てできますか?
A. はい。その場合は、それぞれの持分割合に応じて按分取得されます。

Q. 所在不明者が突然現れたら?
A. 異議が公告期間内にあれば手続きは中止されますが、確定後であれば供託金を受け取るのみとなります。

不動産共有トラブルでお困りの方へ

共有名義の不動産に所在不明者がいると、売却も建て替えもできないなど、大きな足かせになります。この制度を活用すれば、正当な手続きを経て不明者の持分を取得することが可能になります。

「もしかしてうちも該当するかも?」と感じた方は、お気軽にご相談ください。当事務所では、調査・申立書作成から登記まで一括対応しております。司法書士・税理士の立場から、法的にも税務的にも安心できるサポートをご提供いたします。