Last Updated on 2025年5月31日 by 渋田貴正

合同会社に「自己株式」のような制度はある?

株式会社では「自己株式」という制度があり、会社が自社株を取得することが可能です。

(総則)

会社法 第155条
株式会社は、次に掲げる場合に限り、当該株式会社の株式を取得することができる。(後略)

それでは、合同会社においても、会社が社員の出資持分を取得する「自己持分」のような制度はあるのでしょうか?

合同会社には「株式」という制度そのものがないため、「自己株式」という表現そのものは当てはまりません。それでは、「自己株式」に相当する「自己持分」というものが存在するかといえば、法律上そのような定義は存在しないです。

まず、株式会社の自己株式と、合同会社の持分に関する基本的な違いを表にまとめました。

比較項目 株式会社(自己株式 合同会社(自己持分に相当する場面)
法的根拠 会社法第155条~第165条 明確な規定なし(社員の退社・持分払戻しなどにより発生)
取得の可否 条件付きで可能(財源規制あり) 会社が持分を取得することは制度上想定されていない
会計処理 資本剰余金等からの支出 持分払戻しによる純資産の減少
登記の有無 なし(株主情報の変更は登記対象外) 社員の退社・加入は登記事項(商業登記法第73条)
税務処理 株主側に譲渡益課税 退社社員に譲渡所得課税が発生することあり

このように、合同会社は株式会社とは根本的に制度設計が異なり、「自己株式」のような発想はなじみにくいのが現実です。

しかし、社員が退社する際などで、合同会社自身が持分を取得するかどうかを検討すべきケースもあり、実務上の取扱いが問題となることがあります。

合同会社の持分と「自己持分」の問題点

合同会社において、社員が退社して持分が宙に浮く、あるいは一時的に会社が取得するような状況になることがあります。

しかし、合同会社の社員は出資者でありかつ経営者でもあるため、会社が自らの持分を持つというのは制度的に矛盾を生じます。合同会社自体が社員になることはできません。この点は所有と経営が分離している株式会社との大きな違いです。株式は出資した金銭(または現物出資)の対価であり、株式会社を構成しているのは株式ではなく出資したお金です。一方、合同会社ではお金そのものを持分として表現していて、合同会社が持分を買い取るということは、すなわち自分を構成している部分を食べてしまうようなイメージです。

自己持分が発生しうるケースと実務対応

しかし、以下のようなケースでは、実質的に会社が持分を保有しているかのような状態になることがありますが、これらは一時的な経過措置として扱われるべきです。合同会社が自己持分を保有しているというよりも、退社する社員に対して金銭を貸し付けるようなイメージであり、社員は他の社員に持分の引き取ってもらうなどの段取りが必要です。

ケース 状況 実務対応
社員の退社(払戻し) 持分の払戻し後、新たな社員が決まらず一時的に会社のみが存在 残る社員に分配、または新たな出資者の加入が必要
相続・贈与 持分の帰属先が未確定 相続人等による承継か譲渡手続き
全社員の退社 会社に社員が不在 清算手続き・解散の検討が必要

これらのケースで会社が持分を「所有」したように見えても、法的には無効または解消すべき状態です。

税務上・登記上の取り扱い

合同会社が社員から持分を払戻し、出資金を返金する場合には、登記上、税務上の注意が必要です。

内容 税務上の取扱い
払戻し金額が出資額を超える場合 退社社員に対して譲渡所得課税が生じる可能性あり
払戻しが元本以内の場合 課税なし(原則)
消費税 非課税取引(消費税法別表第一)
登録免許税 社員の変更登記:1万円(登録免許税法別表)

会社側としては、帳簿処理や源泉徴収の要否を含め、税理士など専門家の確認を得て処理することが重要です。

合同会社においては、株式会社のように会社が自社の出資を取得する「自己株式」の制度は存在しません。

会社が社員の持分を取得したように見える場面でも、制度的にその状態を継続することはできず、速やかに譲渡・払戻し・解散などの処理が必要になります。

とくに登記や税務の対応を怠ると、法的なリスクや税務調査の対象となることもありますので、注意が必要です。

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