Last Updated on 2025年5月29日 by 渋田貴正

実質的支配者とは?設立・契約・銀行手続きで求められる人物像

法人を設立したり、銀行口座を開設したり、大口取引を行う際などに「実質的支配者(Beneficial Owner)を教えてください」と言われた経験はありませんか?

実質的支配者とは、登記上の代表者とは別に、法人の意思決定や利益配分に実質的な影響力を持つ自然人のことを指します。これは、犯罪収益移転防止法(以下「犯収法」)に基づき、一定の取引や手続きにおいて確認が義務付けられている重要な情報です。

法律で定められた「実質的支配者」の判断基準

犯収法施行規則11条により、実質的支配者は以下の4段階で判断されます。会社の種類によって該当するパターンが異なる点に注意が必要です。

該当者の判断基準(概要) 該当する法人の種類
設立会社の議決権の総数の50%超を直接・間接に有する自然人(※支配意思・能力が明らかにない場合を除く) 株式会社、合同会社
①がいない場合:議決権の25%超を有する自然人(※①と同様に制限あり) 株式会社、合同会社
①②に該当者がいない場合:出資・融資・取引などを通じて会社の事業活動に支配的影響を及ぼす自然人 株式会社、合同会社、一般社団法人
上記すべて該当者がいない場合:会社を代表して業務を執行する自然人(例:代表取締役、代表社員、代表理事) 株式会社、合同会社、一般社団法人

議決権の50%超または25%超の判定には、単なる直接保有だけでなく、「支配法人」を通じた間接保有も合算されます(同規則11条3項)。

判定に含まれる割合:

  • (1) 自然人が会社の株式を直接保有している割合
  • (2) 当該自然人が50%超の議決権を有する法人(支配法人)が保有する株式の割合
     ※複数法人をまたぐ間接保有も合算対象です。

このように、法人を通じた迂回的な支配も、実質的支配者とみなされるため注意が必要です。

株式会社での実質的支配者の証明方法

株式会社では、2022年1月から導入された「実質的支配者リスト制度」により、会社が自ら作成・提出した株主情報等を基に、法務局が発行する証明書を取得することができます。

このリストには、以下の情報が記載されます。

  • 実質的支配者の氏名や住所
  • 保有議決権比率
  • 間接保有がある場合、その法人構造の説明

このリストは、銀行や契約先、取引先への提出資料として非常に有効です。発行のためには、株主名簿や支配関係を示す書類を準備して、法務局へ申請します。

合同会社では公式証明制度がないため書類で対応

一方、合同会社には株式会社のような実質的支配者リスト制度がありません。そのため、以下の書類を組み合わせて証明する必要があります。

書類 用途・内容
定款 出資比率、議決権配分の定めが確認できることが重要です。定款で出資比率に基づいた議決権が定められていれば、それが支配権の根拠となります。
出資契約書・払込証明書 出資実績を裏付ける証拠資料。支配関係の説明に有効です。

なお、合同会社の議決権の原則は「1社員1議決権」(会社法第676条)ですが、定款で出資比率に応じた議決権配分に変更可能です。

一般社団法人の実質的支配者は?

一般社団法人は議決権が社員に1票ずつ付与される構造が基本であり、株式会社のような出資比率の概念が存在しません。そのため、①②に該当するケースは稀で、③または④の判断に基づくケースが多くなります。

実質的支配者の確認が求められる場面

シーン 理由・背景
銀行口座開設 犯収法に基づくKYC(顧客確認)義務に対応するため
海外送金・国外取引 国際的なマネーロンダリング対策(FATF対応)の一環として
不動産取引やM&A 取引の実質的関係者の確認によるリスク回避
税務調査・申告 国際税務・移転価格税制・国外財産調書などの対象判断のため

会社の透明性を保つためにも、誰が実質的に会社を支配しているのかを明確にすることは不可欠です。特に合同会社や一般社団法人は、登記情報だけでは支配構造が見えにくいため、事前に説明資料を準備しておくことが重要です。

当事務所では、株式会社・合同会社・一般社団法人における実質的支配者の特定、証明書類の整備、金融機関や税務署への説明資料作成までトータルでサポートいたします。会社設立や事後対応でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。