Last Updated on 2025年5月27日 by 渋田貴正

「日本で亡くなった人の相続放棄をしたいが、自分は外国籍で海外に住んでいる。そんな自分でも日本で手続きできるのか?」
当事務所には、こうしたお問い合わせがよく寄せられます。実は、被相続人が日本に住んでいた場合、相続人が外国籍であっても、海外に住んでいても、日本の家庭裁判所で相続放棄の申述が可能です。

日本の裁判所に申し立てるための要件とは?

相続放棄をするケースは様々ですが、以下のような理由が多いです。

  • 被相続人に多額の借金がある
  • 不仲だった家族の相続に関わりたくない
  • 遺産の処理が煩雑で関与したくない

相続放棄は、原則として相続開始地(=被相続人の最後の住所)を管轄する家庭裁判所に申述します。
この「相続放棄」の申述に関して、日本の家庭裁判所に国際裁判管轄が認められる要件は以下の通りです(家事事件手続法第3条の11)。

被相続人の状況(相続開始時点) 日本の裁判所に管轄あり 備考
日本国内に住所がある場合 ○ 管轄あり 最も明確なケース
住所がなく、居所が日本国内にある場合 ○ 管轄あり 海外転居直後などで住民票が残っていない場合など
住所・居所が不明だが、以前日本に住所があった場合 ○ 管轄あり 「最後の住所が外国」だった場合を除く
最後の住所が日本、かつその後外国に住所を有した場合 × 管轄なし 明示的に除外されています
相続開始時に外国に住所があり、日本に住所・居所もない × 管轄なし 通常は日本の裁判所では相続放棄不可(例外的に緊急管轄が認められることも)
(相続に関する審判事件の管轄権)
家事事件手続法 第3条の11 裁判所は、相続に関する審判事件(中略)について、相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。

つまり、被相続人が日本在住であれば、相続人が外国籍かつ海外居住であっても、日本で相続放棄が可能です。

 

相続放棄に相続人本人の国籍は関係ない?

相続放棄は、裁判所への申述という「手続」であり、国籍によって制限されるものではありません。なお、裁判所への申立て行為そのものは「法律行為の方式」には該当せず、手続は法廷地法(=日本法)によって行うとされており、相続放棄申述書も日本の定型様式で作成する必要があります。

海外からでもできる相続放棄の手続きの流れ

海外に住んでいる相続人が相続放棄を行う場合の手続きの流れは、次の通りです。

項目 内容
管轄裁判所 被相続人の住所地を管轄する日本の家庭裁判所
提出方法 郵送提出(代理人による提出も可)
提出書類 相続放棄申述書、被相続人の戸籍一式、本人確認書類など
翻訳 外国語の戸籍や住民票類は日本語訳を添付(翻訳者の署名付)
期限 相続を知った日から3ヶ月以内(民法915条)
海外居住者への「申述受理通知書」はどう届く?

■ 原則として本人宛に国際郵便で送付

相続放棄申述が受理されると、「相続放棄申述受理通知書」が申述人の住所宛に郵送されます。海外在住者の場合でも、家庭裁判所は国際郵便(通常は航空便)で海外住所に送付してくれます。

■ 海外郵送の留意点

項目 内容
表記 住所はローマ字で正確に記載する必要あり
日数 国により1〜3週間程度かかる場合も
リスク 地域によっては紛失・遅延のリスクあり
対策 日本在住の代理人住所を送付先に設定も可(委任状が必要な場合あり)

また、金融機関や登記での証明に使う場合は、相続放棄申述受理通知書よりも正式な「相続放棄申述受理証明書」の取得も可能です。

当事務所に寄せられる主な質問は以下の通りです。

Q1:日本語が不安ですが、大丈夫でしょうか?
→ 当事務所では翻訳サポートや書類作成の代行も承っています。

Q2:期限に間に合わなさそうです。どうすれば?
→ 民法915条の熟慮期間(3ヶ月)は、「相続を知った時」が起算点です。状況によっては延長が認められるケースもあります。

Q3:通知書が届かない場合は?
→ 海外郵便は日数がかかるため、1ヶ月以上待っても届かない場合は、管轄裁判所に状況確認を行いましょう。

当事務所では、海外からの相続放棄のご依頼を多数お受けしております。英語や翻訳、裁判所への郵送対応など、海外にいてもスムーズに進められるようトータルでサポートいたします。国際的な相続でお悩みの方は、ぜひ一度当事務所までご相談ください。