Last Updated on 2025年5月22日 by 渋田貴正
日本で個人事業主登録するための恒久的施設(PE)とは何か?基本的な考え方
海外に住みながら、日本で個人事業主としてビジネスを始めたいとお考えの方にとって、「恒久的施設(Permanent Establishment:PE)」に該当するかどうかは、非常に重要なポイントです。これは、日本での納税義務や個人事業主としての登録可否に影響を与えるからです。
租税条約上、「恒久的施設(PE)」に該当しないとされる代表的なケースは以下のとおりです(OECDモデル租税条約第5条第4項に基づく)。一般的に「準備的または補助的」な場所が恒久的施設に該当しないという扱いです。」
PEに該当しない場所 | 説明 | 該当例 |
物品や商品の保管倉庫、展示、引渡しのみ | 単に在庫を保管・展示するだけの施設はPEに該当しない | 日本に商品の展示スペースのみ設ける 実家などの一室を在庫置き場とする |
他社による加工のための在庫保管 | 日本国内の業者に加工を委託し、そのために在庫を保管 | 倉庫に部品を置いて日本企業に組立を委託 |
情報収集のみを目的とする施設保有 | 競合調査など情報を集める目的だけで事務所を保有 | 市場調査のために社員が一時滞在 |
購入活動のための施設 | 商品や原材料を買い付けるための場所 | 日本の仕入先と商談を行うオフィス |
上記の組み合わせで補助的なもの | 補助的な活動同士の複合もPEに該当しない | 倉庫+情報収集などの組み合わせ |
これらの活動は、あくまで「準備的・補助的」な性質に限られるという点がポイントです。
恒久的施設に該当しない準備的または補助的な活動とは?
「準備的」または「補助的」と判断されるかどうかは、活動の内容だけでなく企業全体の事業の本質との関係性が重要です。
- 準備的活動:本格的なビジネスの前段階に行う活動。例:事業展開前の市場調査や社員教育。
- 補助的活動:本来の収益活動を支える活動。例:データ処理、経理業務、倉庫管理など。
判定の基準
判断基準 | 準備的・補助的とされるかの目安 |
活動が事業の本質的部分か? | YES → PE該当の可能性あり |
活動が他の活動のためのサポートか? | YES → 補助的な活動と判断される可能性あり |
第三者に代わって提供されているか? | YES → PE該当の可能性が高い |
他社との密接な連携で一体的に事業を行っているか? | YES → PEとされる可能性あり |
たとえ表面上は準備的・補助的に見える場合でも、次のようなケースでは恒久的施設と判断されることがあります(租税条約第5条4.1項)。
- 関連会社が同じ場所で実質的な事業活動を行っている
- 同じ場所で補助的な業務に加えて、販売やサービス提供といった本質的活動もしている
- 他の企業に代わって業務を提供している(代理店的活動)
このような場合、「補助的な業務」ではなくなり、恒久的施設と判断され、日本での課税対象や事業登録が難しくなる可能性があります。
反対に、以下のようなケースでは、通常、恒久的施設とは認められず、海外在住者であっても日本で個人事業主登録できる可能性があると考えられます。
ケース | 説明 |
海外在住者が日本で開催される短期の展示会に出展し、商品のPRだけ行う | PRは準備的活動とみなされる |
日本に倉庫を設けて在庫のみを保管。販売活動は海外で完結 | 保管目的であればPEに該当しない |
日本での仕入れ業務を目的に短期出張で訪問する | 単発的な買付け活動であれば事業登録の可能性あり |
恒久的施設に該当するかどうかの判断は、条文だけではわかりにくく、実態に基づく総合的な判断が必要です。日本で個人事業主登録が可能かどうかを正確に見極めるには、税務・法務の両面からの専門的な助言が欠かせません。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。