Last Updated on 2025年5月15日 by 渋田貴正
相続手続きの現場では、遺言に「不動産をAに遺贈し、残りの財産全部をBに遺贈する」と書かれているケースがあります。こうした文言を前にして、受遺者や相続人が悩むのが「このBに対する遺贈は包括遺贈なのか、それとも特定遺贈なのか」という点です。
結論からいえば、Aへの遺贈は「特定遺贈」、Bへの遺贈は「包括遺贈」と解されることが多いです。以下にその理由と判断のポイントを整理します。
包括遺贈とは?
包括遺贈とは、相続財産の全部またはその一定割合を包括的に承継させる遺贈をいいます0。
- 財産の全体を「割合」や「全部」で指定する
- 積極財産(プラスの財産)も消極財産(借金などのマイナス財産)も含まれる
- 包括受遺者は相続人と同様の地位に立ち、遺産の一部を放棄することはできない
遺言者は、その有する財産の全部を、内縁の妻〇〇〇〇(生年月日・住所)に包括して遺贈する。
特定遺贈とは?
特定遺贈とは、「甲土地を長男に」「〇〇銀行の預金を長女に」といった具合に、遺言によって特定の財産を指定して承継させる方法です。
- 個別の財産を具体的に指定する
- 原則として、債務(消極財産)は承継しない
- 対象財産が明確でなければ、手続に支障をきたすおそれがある
遺言者は、自己の有する下記不動産を、弟〇〇〇〇に遺贈する。
(不動産の表示)
特定遺贈か包括遺贈かで迷うケース
遺言者は、甲土地をAに遺贈し、それ以外のすべての財産をBに遺贈する。
このような表現の場合、Bへの遺贈は、甲土地を除いた全体の財産を包括的に承継させる意図と解されるのが一般的です。
この件については、以下のような判例があります。(東京地判平成10年6月26日)
「特定財産を除いた残余の財産全部を遺贈する」との記載について、包括的な承継の意思があると認定し、包括遺贈と判断しました。たとえ遺贈の対象が限定されていたとしても、その内容に積極財産だけでなく消極財産も含まれ、割合的にではなく全体を承継させる趣旨であるときには包括遺贈と解されるとした点が重要です。このように、形式ではなく遺言の趣旨や文脈から実質的に判断される傾向があります。
区分 | 包括遺贈 | 特定遺贈 |
---|---|---|
指定方法 | 全部・割合で指定 | 個別の財産を明記 |
対象 | 積極・消極財産すべて | 原則として積極財産のみ |
登記・名義変更 | 相続人に準じて一括 | 個別に手続きが必要 |
債務の承継 | あり | なし(ただし担保責任を負うことも) |
遺留分への影響 | 遺留分侵害額請求の対象となる | 遺留分侵害額請求の対象となるが、包括遺贈の方が侵害割合が多くなる傾向あり |
包括遺贈か特定遺贈かについて、受遺者として重要なのは、次のような実務上の違いです。
- 包括遺贈の場合:登記や税務手続が相続と同様に扱われ、農地などの許可も不要なことがあります。また、遺留分侵害額請求の対象として特定遺贈以上に問題となるケースも多く、相続人からの請求リスクが高まることがあります。
- 特定遺贈の場合:個別の登記や名義変更が必要で、法定手続きも異なる場合があります。財産が明確に限定される分、遺留分請求の対象額も限定される傾向にあります。
判断を誤ると、登記申請や税務申告、相続人とのトラブルに発展するおそれがあるため、注意が必要です。
遺言者の意思を最大限に尊重するためにも、表現の違いによって相続や登記に与える影響を正しく理解することが大切です。遺言書の内容が曖昧な場合や、包括遺贈か特定遺贈か判断に迷った場合には、専門家のアドバイスを受けることを強くおすすめします。「遺言書に『財産のすべて』と書いてあるけど、どう扱えばいいの?」「登記はどうする?」「借金も引き継ぐの?」といったご不安がある方は、ぜひ一度ご相談ください。税理士・司法書士として、法務・税務の両面からしっかりとサポートいたします。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。