例えば被相続人である父が亡くなって、相続人が母と子一人の相続があったとします。この場合で母と子の間で遺産分割協議を行わない間に母が亡くなってしまった場合は父名義の不動産を子が相続するにはどのような手順になるのでしょうか?

まず、母が亡くなってしまっているので、遺産分割協議を行うことはできません。そうなると、結局は以下の手順で相続登記を申請することになります。

1段階目:父名義から、母と子の名義に法定相続分にて所有権移転
2段階目:母名義の持分について、子名義に所有権移転

結局、このケースでは2段階の相続登記を経て、子に所有権移転を行うことになります。戸籍については父の分と母の分について出生から死亡までそろえなければなりませんが、これは母の金融機関などの相続手続きでも必要になりますので、手間としては増えるわけではありません。ただ、1段階目と2段階目でそれぞれ母の名義を移転させなければならないので、1回で移転させたケースに比べて登録免許税が二重にかかってしまうように思えます。

つまり、1段階目で1/2+1/2、2段階目で1/2の移転が起こるので、合計1.5の登録免許税がかかってしまうということです。しかし、この点についても登録免許税に以下の特例が設けられているため、1段階目の母への持分移転の分については登録免許税が免除されます。結局、遺産分割協議をして子に所有権移転させた場合と、法定相続分により2段階で相続登記した場合であっても登録免許税の総額は変わらないということになります。

租税特別措置法 第84条の2の3

個人が相続(相続人に対する遺贈を含む。)により土地の所有権を取得した場合において、当該個人が当該相続による当該土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは、平成30年4月1日から令和7年3月31日までの間に当該個人を当該土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さない。

遺産分割協議を行っていたけど、登記前に母が死亡した場合

上記のように遺産分割協議を行う前に母が死亡してしまった場合には2段階の法定相続登記を経て所有権の移転を行う必要があります。一方、すでに遺産分割協議を行っていたけど、その登記をする前に母が亡くなってしまったというケースはどうなるのでしょうか?

この場合には、遺産分割協議に基づいて相続登記が可能です。ただし、母が持分を取得しない場合には遺産分割協議書に母の印鑑証明書の添付が必要です。死亡した人の印鑑証明書は取得できないため、生前に印鑑証明書を取得していた場合に限って遺産分割協議に基づく相続登記が可能ということになります。