民法の2つの注意義務

民法の条文を読んでいると、しばしば「善良な管理者の注意をもって」や、「固有財産におけるのと同一の注意をもって」といった言葉が出てきます。

民法の相続に関係しそうな条文でいえば、以下のように規定されています。

「第249条 3 共有者は、善良な管理者の注意をもって共有物の使用をしなければならない。」

「第918条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。」

「第926条 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。」

「第944条 相続人は、単純承認をした後でも、財産分離の請求があったときは、以後、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理をしなければならない。」

「第1312条 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。」

このように幾度か出てくる言葉遣いで、言葉の構造は似ている感じがしますが使い分けている以上は意味があります。

まず、「固有財産におけるのと同一の注意をもって」というのは、「自分が持っている財産と同じくらいに注意を払って」という意味です。例えば第918条が意味するところは、相続人は、まだ遺産分割が終わっていない相続財産で完全に自分のものになっていなくても、自分のものと同じくらいに大切に相続財産を扱いなさい、ということです。

一方共有物について定めた第249条で定められている「善良な管理者の注意をもって」は、「一般的・客観的に求められるくらいに注意を払って」という意味です。言い換えれば「他人のものを扱うくらいに大切に」という感じかもしれません。不動産取引の世界でも善管注意義務という言葉で関係してきます。

善良な管理者の注意は、固有財産におけるのと同一の注意より重い

二つの注意義務ですが、どちらが重いのかといえば善良な管理者の注意です。固有財産におけるのと同一の注意は、自分の持ち物と思って管理しなさいということです。自分の持ち物も大切にするとは思いますが、通常であれば他人の物であればより一層注意を払って扱わなければならないでしょう。つまり善良な管理者の注意のほうが法律上は重いということです。(中には逆の人もいるかもしれませんが、法律上の話ということでとらえてください。)

例えば賃貸物件は、自分の家以上に気を使って扱うと思います。賃貸物件は壁に勝手に穴をあけるわけにもいきませんし、勝手にキッチンをリフォームするわけにも行きません。民法第1312条の配偶者居住権でも、配偶者に善管注意義務が課されています。これは配偶者居住権の実態が賃貸借であることを示しています。

条文を読むときは、このような言葉の差にも意識して読むとよいでしょう。